まさか、
これは本当にまさかだ。
寡黙なる性識者と言われる土屋康太に恋愛的に好意を寄せる輩が、しかも同性がいるなど考えもしなかった。
例えいたと考えてもそれが女によく間違えられる木下秀吉など誰も予想もしないだろう。
「………冗談はあまり好きじゃない」
「冗談ではないんじゃがな」
「………頭でも打ったか?」
「何を言う。失礼な奴じゃの」
「………あり得ない事を言うからだ」
「わしがお主を好きと言う事か?」
秀吉がそう言った瞬間、康太は背けていた顔を告白をしてくる相手に向けキッと睨んだ。
「………笑えない冗談はやめろ、心臓に悪い」
「冗談ではない。わしはムッツリーニ、いや康太が好きじゃ」
「………俺も秀吉の事は好き、でもそれは友情として。秀吉はそれを恋愛感情と間違えている」
「いや、間違えてはいないはずじゃ。お主に向けるこの思いは明久や雄二達に向けるものとは違う。姫路や島田が明久に向けている思いと一緒じゃ」
どうして目の前にいるこいつはそう断言できるのか?ただの気の迷いではないのか?、康太は頭の中をぐるぐると回転させながら混乱している頭を整頓していた。
「…わしはムッツリーニを困らせる為に言った訳じゃない。ただお主に恋愛的に好意を向けている奴がいると知ってもらいたかっただけじゃ」
「じゃが、当の本人はそれが冗談と言い張る。だからもう一度言う、わしは康太が好きじゃ、愛してる」
「ではわしは部活に戻る。またな」
何が困らせる為に言った訳じゃないだ、今十分に困らせているじゃないか。勝手に話を進めて勝手に部活に戻るな。またなって明日からどんな顔して会えばいい。愛してる、だなんて軽々しく言うな。
康太は去って行く相手を見つめながら頭の中で呟き、完璧に去って行った後ずるずると床にしゃがみ込んだ。
赤く染まる顔を両手で隠して。
(好きな人ができたなんて認めない)(赤く染まる顔も差し込む夕日のせいだ――だから、)
好きな人ができませんでした