∴天馬世代 はぁ、と息を吐けばそれは白く外の空気の冷たさを物語っていた。 空を見上げれば真昼には絶対に見られないであろう輝く無数の星達が延々と広がる漆黒の暗闇に散りばめられている。 そんな中、倉間は一人いつも通る学校へ続く道を歩いていた。日頃のハードな練習に加え、革命などという精神的な事柄もあり疲れが溜まっているというのに何故だか眠りにつけないのだ。理由というのもはっきりとは皆目見当もつかず、ただただ胸の辺りがもやもやするだけだった。このもやもやとは、昼間ふとした事が出来事で生まれたのだがなかなか消えてはくれなかった。倉間自身どうせすぐに消えるだろう、と軽く考えていたがまさか全く消えなくなるとは思っておらず想定外の事に驚きを隠せずにいた。 眠らなければならない。でなければ明日体がもたない。その事だけが頭をよぎっていたが、どうも脳は理由を解明しようと働きたいみたいだ。埒があかないと考え気分転換にと外へ足を踏み出した。 しかし胸にあるもやもやは全く消えそうにもない。倉間は次第にこの消えない感情に対し、イライラという別の感情も芽生えてきた。 外にいても意味がない帰って無理矢理にでも寝ようと踵を返せば、聞き慣れた声で自分の名を呼ばれた。 「倉間先輩?」 透き通るような声で名前を呼ばれ再びくるりと先程向いていた方に体勢を向けなおせば部活のマネージャーをやっている葵の姿があった。 「こんばんは、倉間先輩。こんな夜中に何してるんですか。」 「…よう…。それはこっちの台詞だ、何してんだこんな時間に。危ねぇだろ。」 「私は大丈夫です。家はすぐそこなんで。先輩はここからだいぶ遠かったでしょう?」 「んな遠くねぇよ。」 「遠かったはずです。明日も部活ありますし寝なきゃ体保ちませんよ。」 風邪引いちゃいますよ、そう言いながら葵は防寒という防寒を全くしていない倉間に自分のマフラーを外し倉間の首にそっと巻いた。倉間は眉間に皺を寄せマフラーを返そうと取ろうと試みたがそれは葵によって阻止された。 「それで先輩はなんでこんな時間に…。」 「…なんか寝れねぇんだよ。」 「寝れない?」 「胸が変な風にざわついて…ざわつくっつーか、もやもやっーの。」 倉間は首を捻りながら左胸の前で右手でぐっと拳を掴んだ。ただ、場面を見ただけなのに。ただ、あいつが二人でいる所を見ただけなのに。ただ、マネージャーが楽しそうに笑っていただけなのに。ただ、葵が嬉しそうにしてただけなのに。倉間はさらに眉間に皺を寄せた。 「先輩」 凜とした声と共に、左胸の前で握っていた拳に温もりが伝った。それは葵が両手で倉間の拳を握っている、その暖かさだった。 「先輩、それはきっと不安や焦燥じゃないんですか。」 「いつも先輩はそんな風には見せないようにしてますけど、出てきちゃったのかな。」 「大丈夫ですよ、倉間先輩。」 「みんながいるじゃないですか。」 そう言えば葵はふっと笑みを浮かばせ握る両手に更に力を込めた。 「…なんか、違う気がするけどよ。」 「えっ!?違いますか!?」 「みんなって、お前もか?」 「え、もっ勿論ですよ!私もちゃんとついています!」 「そうか…。」 ふあ、と倉間は小さく欠伸をした。あのもやもやは自然と消えていた。今夜はどうやらいい夢が見れそうだ、と口端がつり上がった。 君温度 2012.0127 |