同属嫌悪
彼には、わたしと同じなのだと感じさせる何かがある。
もちろん構成要素も成り立ちもなにもかも違う。
しかし結果として姿を表したそれは、大きく離反しながらもどこか重なり、共感と疑念を同時に飲み込むような違和感を覚えていた。
うっすらと肌に感じていたその感覚は、今までこれといって接点のなかった彼と、珍しく二人になったこの時間、急にじんわりと現実味を帯びた。
「……彼女、いつもより落ち着いていましたね」
「……そうか」
私らしくもない…などという、それこそ私らしくもないと感じる言動。
無理に言葉を当てはめるのならば、老婆心とでもいうのか。
正直なところ私自身も戸惑っていたし、いつも無表情で伏し目がちな彼の瞼を一瞬だけ見開かせた程度には、やはり珍しい場合だったらしい。
彼女、敦夜は長くはあれ深くない程度の知人だが、多少は知っている。
彼女が他人に興味を持つことはあまりなく、また気にかけ一挙手一投足に振り回される程の相手など限られている。
あの女頭首とその弟、先日会った異人の娘。そして、目の前の彼。
その中で最も割合を占めるのはやはりこの男であり、つまりは、またこの男に袖にされたというのが考え易い。
「何かありましたか」
「別に」
もう動じない。ソファに向かい合って尚こちらに興味を失ったのか。
「備品は足りていますか」
「来月までは保つ」
「……では、同僚のメンタル面に少々気を配ってはいかがですか」
「……あんたがそんなことを言うとは意外だ」
「そちらに倒れられるとこちらも困りますので」
「あいつのことを言っているのか」
「……いえ。ですが、思い当たる相手と節がおありでしたら」
「…………」
彼はそれきり黙った。
表情は変わっていない。
何を考えているかは読めなかった。
*
新築でオートロック、2LDK、回線、冷暖房その他完備のデザイナーズマンション。
外観の美しさが売りのその建物を眺めながら川沿いを歩く。
私は今日の自らの饒舌さについて考えていた。
思うより、彼に対して食い下がっていた。感情的だと思われたかもしれない。やはり、自分と似たものを感じとった故の気の迷いか。
……否、それだけではない。
きっと、彼女の無償の奉仕を誰かと重ねたから。
マンションの入り口をくぐる。ほんのわずか、歩調が早くなっていることに気づく。
今日は、いつもに増して薫の顔が見たかった。