終わりの見えない恋
平行線というのはそれほど嫌いではない。
もちろん、2人がその先で交差しないことへ寂しさと不安を覚えることはあれど。
「私は、彼の仇を取りたいの。人として間違っているかもしれない。」
「ええ」
窓際でふらつきながら翠さんが言った。
儚げな表情としっかりしない歩調に反し、話した言葉は酷く攻撃的で物騒だった。
「連中に、彼を殺してそれで終わりだと思わせることが罪だと思うの。彼を殺したという事実を引き金に、ずっと続いていくことを、教えてあげたいわ。」
「はい」
「それが、形になるわけでもないし、なにかを得られるわけじゃない。ただ私の自己満足。それでも、彼の死を歴史に、既成にしたくない」
「現在進行形にしたいわけですね」
「ああ…そうかも。」
翠さんは薄く笑った。
化粧で上手くごまかしているつもりかもしれないが、目の下には隈ができている。
実際は微々たるものかも知れないが、おれの目には酷くやつれたように映る。
彼。
彼は、三年前に撃たれて死んだ。
それでも、彼女の中で彼は生きている、または、過去でもついさっきでもなく死んでいる最中だという。
「許せないの、赦せないの……彼を殺めたやつはまだこの世で笑顔を浮かべている。彼を殺めるように指示したやつはこの世で札束を握っている。許せな…い……ぁ、」
先ほどから危なげな足取りだった彼女はついに崩れ落ちた。
美しい鳥が空から墜ちたように。
緑の羽は乱れ、整った顔立ちに乱雑にかかっていた。
すんでのところで抱き留めた。
酷く輪郭さえもあやうい存在。
「…ごめんなさい…ありがとう」
「…また寝ていないのでしょう。昨日も遅かったのに…」
「眠れないのよ」
「…子供じゃないんですから。……おれが連れて行きます」
彼女を支えたまま、寝室へ向かう。
不眠症の彼女。
亡くした恋人から逃れられない彼女。
彼は3年前に死んだ。
おれは会ったこともないし、どんな奴かも知らない。
だが、彼の遺留品はまだ息をしている。
それはおれの腕の中の彼女であり、彼の妹であり。
彼女の望みは、この負のスパイラルが連鎖すること。
遺留品は主の仇を求めてその刃を磨いている。
(あーあ)
(先は、長えな)