Main(本) | ナノ
 恋を知らないふりをする

「悪いが今は恋をしている場合じゃねェんだ」

そう言って彼女からの告白を断って数日、彼女と話すことはない。




彼女とはよく顔を合わせる。いや、正確には合わせていた。サボのチームを除いてはドラゴンの次に話すほどだった。食事の時間が重なったり、執務室へ書類を届けてくれたり、ときには稽古場へ水を持ってきてくれたこともあった。
それがあの日以来ぱったりと姿を見せない。彼女があえてサボと接点を作ってくれていたのだと、今更ながら知ってしまった。
胃が重いような感覚に悩まされながら、息抜きがてら廊下を歩く。聞き覚えのある声に引かれるようにそちらへ顔を向ければ彼女が誰かと話す姿。たしか最近革命軍に入った男。会話こそ聞こえないが、楽しげなのはここからでもわかる。久しく見ていない彼女の笑顔に、傷がないのに胸が痛んだ。
彼女の頭へそいつが手を伸ばす。そう気づいた瞬間にはその手を払っていた。やめろ、と呟いた声は思ったより低くて内心自分でも驚いた。
ぽかんと二人分の困惑した眼差しが向けられる。なんとなくバツが悪くて目を反らす。「サボさん」と呼ぶ声はたった数日ぶりだと言うのに干からびたサボの心を潤した。

「私のこと、嫌いなんじゃないですか?」
「……嫌いじゃねェよ」
「でも付き合えないんですよね?」
「……まぁ」
「嫉妬、って思ってもいいですか?」
「……」

歯切れの悪いサボになにがおかしいのかクスクスと笑って「ねえサボさん」と呼ぶ。

「待っててもいいですか? サボさんの『今』じゃなくなるまで」
「そうしてもらえると助かる」

みっともない顔をしている自覚がある。咄嗟に帽子の唾を下げようと伸ばした手は空を切った。そうだった。今は被っていないんだった。
色んな感情がごちゃまぜで渋い顔をするサボに、彼女はただ、サボの好きな笑顔を見せた。




prev|next

back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -