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 サンドイッチ

「サボ君手が止まってる。早くしないと明日の任務に支障が出るよ」

机に突っ伏したままペンを無意味に動かす。そんなことをしても事態が好転するわけではないが、だからといって山のような書類に向き合う気も起きない。

「なぁ、明日の出発時間をずらせないか? 今日の夜とか、それかいっそ昼とか」
「参謀総長自らで早朝に出発するって決めたんでしょ! 起きれないとか言わないよね?」
「……名前さんが」

雪崩れを起こしそうな山さらに書類を追加しようとしていたコアラの手が止まる。次いで大きなため息。

「名前さんが?」
「朝弱いから早朝だと会えないんだよ……」
「好きな人が見送ってくれないからって駄々こねるのは子供っぽすぎる」
「ぐっ……」

正論を突かれてぐうの音も出ない。諦めて先程よりさらに高くなった山へ手を伸ばした。




「ん……おはよ、サボくん」

食堂の椅子に座って、眠そうに瞼を擦りながらこちらへ笑みを向けたのは間違いなく名前さんだった。

「名前さん朝弱いって……」
「うん。だから夜中の当番と代わってもらったの。これから寝るよ」

欠伸をしながら立ち上がると、いってらっしゃい、と背中に回された手がぽんぽんと叩く。激励以外なにものでもない抱擁だけど、優しく抱きしめられて嬉しくないはずがない。

「名前さん……!」

名前さんの背中へ腕を回そうとする前にするりと腕の中から離れて後ろのコアラへ。

「コアラちゃんもいってらっしゃい」
「うん、いってきます!」

ぎゅうと抱き合って、それからハックにまで抱きつこうとするので思わず腕を掴んでしまった。

「? サボくん?」
「あー、うん。もう行くから」
「でもそんな時間は取らせないよ?」

そういう問題ではない。だけどじゃあどういう問題か説明できることもなく。どう説得しようか考えあぐねていると、ハックが片手を上げる。

「私はいい。名前、見送り感謝する」
「そう? じゃあこれ朝食のサンドイッチ。無事に帰ってきてね」
「あぁ! いってくる!」

帽子のツバを軽く持ち上げて、先に行ったコアラたちを追いかけた。




「あー……」

波に揺られ、目的地へ向かう間に朝食を済ませる。それぞれの好みに合わせた具材を使い、片手間に食べられるサンドイッチ。
厨房を預かる人間として役目を果たしているだけとはわかっている。でも苦手な早朝だというのに、おれたちのために当番を代わってまでして見送ってくれる優しさが嬉しい。好きだと心の底から思う。

「……頑張るか」

例え今は子供としか見られていなくても、彼女の隣は他の誰にも譲りたくない。子供の我儘? 上等だ。



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