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 恋愛過多

好きだ、と言われた。愛してる、とも言われた。
安っぽい愛の言葉に熱くならなくなったのはいつからだろう。

「好きだ。付き合ってくれ」
「もう何回も聞いた」
「付き合ってくれるまで何回でも言うつもりだ」

真剣な表情のサボから逃げてファイルに視線を落とす。ここ数日ずっとこれだ。
革命軍に入った時期は違えど同い年ということもあってサボとはよく話す。同僚の話、立ち寄った島の話、今日の献立……。お酒が入ったときには恋愛の話なんかもしたが、まさか私たちの間に好きとかそんな甘い言葉が交わされることになろうとは。

「あのね、私はもう恋愛なんて興味ないの。恋人がほしいなら他所に行って」
「前は彼氏いただろ」
「だからこそもう十分なんです! はい、そっちのファイル取るから退いて」

サボがもたれかかっている棚へ手を伸ばせば腕を掴まれくるりと身体が入れ替わる。背中が棚に触れ、逃さないとばかりにサボの手が顔の横につく。

「名前が知ってるのは恋愛なんかじゃねェよ」
「はぁ? ちょ、んっ!」

文句を言おうと開いた口にサボの舌が割り込んでくる。資料を落としたこととか、誰か人が来たら、なんて思考がどろどろに溶けていく。熱でもあるのかと疑ってしまうくらいに、熱い。
力いっぱいサボの胸を押すがビクともしない。ぬるりと口の中を蹂躙されていくのが不思議と嫌じゃなくて、気がついたら縋るようにサボの服を掴んでいた。
さすがに息が限界になって今度こそ思いきり胸板を叩けばあっさりと離れていく。つぅ、と互いの口から伸びた唾液がぷつりと切れるのが恥ずかしい。肺活量には自信があったというのに肩で息をしながらキッと見上げれば意地の悪い笑み。

「はぁっ、キスだけで……こんなになるなんて知らない……!」
「そりゃあよかった。知ってたら教えたやつをどうにかするところだった」

恋も愛も、酸いも甘いも、十分味わってきた。きたと思っていた。だけど、

「今までの恋愛ごっこじゃ味わえなかっただろ」

甘い痺れが全身を蝕む。こんなムードの欠片もない埃だらけの資料室なのに、相手は仲間の、腐れ縁のサボなのに。

「……さぁ、どうでしょうね」

虚勢を張ることさえもかなわない。獲物を追い詰めた目をしたサボには、私の心中なんてもうとっくに暴かれているだろう。



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