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 果たして誰のための首輪か

頭痛がする。けして昨日の酒が原因ではないが、昨夜が元凶なのは嫌でもわかった。




島へ上陸した夜は大抵どこかの酒場を貸し切って明け方まで騒ぐのが常だ。今回も例に漏れずクルーたちが騒ぐのを横目に静かにグラスを傾けていた。酒を注ぎながらあわよくばひと稼ぎしようとまとわりつく女たちを適当にあしらいつつ、恋人の姿を探せば酒場から消えていた。いつものように先に戻ったのだろうと、声をかけなかったことに溜息をついてまた酒を煽った。




それが昨夜の出来事。朝食後から姿を見せなかった名前は長かった髪をバッサリ切って戻ってきた。
クルーたちに髪の理由を聞かれた名前は少し悲しそうに笑いながらこう言った。

「だってキャプテン、昨日ショートヘアのお姉さんと楽しそうにしてたから」

視線がローへと集まる。非難めいたものではないものの、どうするんだ、と言わんばかりの眼差しに舌打ちを一つ。名前、と呼べばこちらへ顔が向けられる。「来い」と言うとコクリと頷いたのを確認して背を向けた。
だいたい恋人だというのに自信どころか自覚がない。ローが酒場の女に惚れるわけがないと思えないどころか、あんなのをタイプだと思われるのはごめんだ。
何の罪もない椅子に乱暴に座って足を組む。ノック音へ「入れ」と返せば躊躇うように時間をかけて開かれる扉。

「なにかご用ですか?」

黙って人差し指を折り曲げて呼べばソファに腰かける彼女。

「キャプテン、怒ってます?」
「おれを怒らせるようなことをしたのか?」
「してないですけど……」

でも、と口をもごつかせる。溜息を飲み込んだ代わりに頭をかいてソファへ移る。大きめだが二人がけ用だけあって膝が触れそうな距離だ。指先に巻きつけにくくなった毛先を梳くように髪に触れる。

「似合ってませんか?」
「……いや」

髪が長かろうと短かろうと彼女であればなんでもいい。ローの好みに合わせようとしたのも悪くはない。
だがあくまで好みは恋人そのものだということを名前はわかってないことに腹が立つ。そして誤解を生むようなことをしたロー自身にも。

「今度からおれの隣で飲め」
「でも……」
「でも?」
「キャプテンだって綺麗なお姉さんと飲むほうがおいしく飲めるでしょ……?」

はぁ、と今度こそ深く溜息をつく。

「一度しか言わねェ」

俯き気味だった名前がようやくこちらをまっすぐ見る。

「おれは、名前がいればいい」
「キャプ……ローさん」

珍しく名前を呼んだかと思うと、猫のようにローの胸に頭を擦りつけてくる。髪の間から覗く耳は赤く染まっていた。

「捨てないでくださいね」

捨てられたら生きていけない、と呟く。
犬のほうが利口で猫の気まぐれさに辟易していたはずだったが、名前のような猫ならいいかもしれない。愛想を振りまいて、多くの人に好かれる彼女は、ローがいなくても誰かが面倒を見るだろうに。それでもローが側に居たいというのは名前の術中に嵌まっているのだろうか。

「お望みなら首輪をやろうか?」

するりと顎を撫でれば名前は嬉しそうに目を細めた。




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