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 後日量産されました

我らがキャプテンの誕生日があと数日というところまで迫ってきているのにプレゼントは、ない。
まぁ幸いにも今は島へ停泊中。いくらでも用意できるだろうとたかをくくっていた。が、
一日目は洗濯当番で朝から晩まで洗濯、洗濯、洗濯。
二日目は必需品の買い出し。食料品に医療品、その他諸々……とこれがまた量があって一日潰れた。
三日目の今日がラストチャンス。なにせ明日はまた海の中へ潜水するのだ。だというのにキャプテンに捕まって本をせっせと運んでいる。なにも貴重な上陸中に行わなくても、と顔に出ていたのか「いらねェ本をいつまでも取っておく余裕はねェ」とのこと。運んだ先から表紙で、あるいはパラパラと捲って残すかどうかジャッジを下していく。
あらかた運び終えたし、もういいかと船長室を抜け出す。初日に用意だけしてあった鞄を掴んで島へと降りた。




「ないなぁ……」

キャプテンの趣味は記念コインの収集。以前見せてもらったコインは正直どれも同じにしか見えなかったけど、新聞で見たサクラ王国の記念硬貨に刻まれた花はとても可愛かった。
この島はサクラ王国に近いわけではないけど物流が盛んな島だ。一枚くらいあるかもしれないと市場を端から見ているが見当たらない。膨らんでいた期待が萎んでいくのがわかる。こんなことなら別のものも考えておけばよかった。
一旦情報収集でもしようかと落とした肩を掴まれびっくりして振り向く。

「おい名前、早く戻れ! キャプテンが怒ってるぞ!」
「え、え、」

いやでもまだ……ともたつく私の腕をペンギンがぐいぐいと引っ張っていく。早くしないとおれらバラされる! となにやら深刻な気配だ。出かける前までそんな素振りは一切なかったというのになにがあったのだろうかと内心首捻りながら愛しのポーラータング号に足を踏み入れる。

「キャプテン、名前を連れ戻してきました!」

と奥の船長室へ向かって大声を出すペンギン「私は家出娘か!」とツッコミを入れたかったその前に薄い水色の膜が体を通り抜け、キャプテンに抱きとめられる。どうやらシャンブルズで手元の本と入れ替えたらしい。

「あはは……ただいま戻りました」

さりげなくキャプテンの腕の中から脱出を試みようと押してみるがびくともしない。それどころか締める力が強まって苦しい。

「どこに行っていた」
「ちょっと島まで……」
「……はぁ」

深いため息をついたかと思うと抱きしめたままベッドへ倒れ込む。ぐぇ、と可愛さの欠片もないうめき声を出したが潰されることはなくて少しほっとした。

「あの、キャプテン……?」
「……寝る」
「え、いや、その……」
「なにか問題があるか?」
「ナンデモナイデス」

もしかして抱き枕がほしいのだろうか。ちらりと部屋の隅へ視線を向ければ私の背丈の半分以上はある大きなイルカのぬいぐるみ。いつだったか隈の絶えないキャプテンに少しでも安眠を! となかなかなお値段のイルカちゃんを贈ったのだが即刻投げ捨てられたのはいまだ記憶に新しい。せっかくだから使ってくれたらいいのに、と思いつつ聞こえてくる規則正しい寝息に睡魔が襲ってきた。誕生日プレゼントは抱き枕利用権でいいかな。



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