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 もうお酒はこりごりです

パンの芳ばしい匂いにつられて目を覚ます。サボの割り当てられた部屋は食堂に近いので食事時になるといい匂いが部屋まで漂ってくる。
寝起きで歪んだ視界に、膨らんだ布団が映る。ちょうどサボの隣に誰か潜んでいるように山になっている。侵入者か、と身構えたがここバルティゴは革命軍以外たどり着くのは困難で安心、と聞かされている。とりあえず正体を知らないことには対処しようがない。おそるおそる布団をめくる。

「──な、な、」

言葉にならず口を開け閉めして固まっていると侵入者は「ん、」と伸びをした。──裸で。

「ふあ……。サボくんおはよ。……あれ、なんでいるの?」

きょろきょろと周りを見回したかと思うと一人納得したように手を叩く。

「あー、昨日お部屋間違えちゃったんだ。ごめんね、お邪魔しちゃって」

お酒って怖いねー、と笑いながら未だに固まったままのサボを跨いで床に落ちた服を身に纏っていく。

「じゃ、ベッドお借りしました! その赤い顔なんとかしてから来るんだよ、少年」

それはサボがまだ十代半ばの頃、ひっそりと想いを寄せていた彼女と初めて夜を共にした日の話だった。




「なァ、いい加減部屋間違えるのなんとかしてくれねェか?」
「ごめんごめん。私の部屋とここ、食堂を挟んでちょうど反対でしょ? 酔っ払うとわからなくなって」
「……それから、脱ぐ癖も。おれだって男なんだからな」

少し恥ずかしくて目を逸らせば、ぷっ、と吹き出す名前。睨めば「ごめんって」と笑いながら謝る。

「まだ子供だから男として見るにはちょーっと早いかな? それは大人になってから言うものだよ」
「じゃあ大人っていつ?」
「そりゃあ成人したらじゃない? そしたら一緒にお酒飲もうね」

数年後が楽しみだ、なんて笑う名前にため息をつく。




ポーン、と十二時を報せる鐘の音が聞こえる。食堂から一つの足音がよろめきながらも、真っ直ぐにこの部屋を目指して近づいてくる。
キィと扉を開けると躊躇うことなく服を脱ぎ捨て、サボのいるベッドへ侵入する。うつらうつらと夢の世界へ飛びかけている彼女の上に覆いかぶされば、ゆっくり瞼が持ち上がる。

「ん、あれ……さ、ぼくん……?」
「おはよう」
「ねむい……」
「悪いけど男の前でそんな格好するな、って忠告はしたからな」

剥き出しの腰をゆっくりなぞれば、ようやく目が覚めたようで「な、なに……?」と見回す。

「サボくん、どうしたの? ねぇ」
「今日が何日か知ってるか?」
「──あ、サボくんの誕生日。おめでとう、サボくん」

ふわりと優しく微笑まれ、これはこれで嬉しいがそうじゃない。

「さっき二十歳になった。これでおれは“大人の男”だよな」

言いたいことが伝わったのか焦ったように手で押し返そうとサボの胸を押す。

「わ、私たち、兄弟みたいなものじゃない? ほら私、お姉さんで、ね?」
「おれの目の前には好きな女しかいねェな」

──だから観念して食べられてくれ

耳元でそう囁やけばみるみる内に赤くなる顔。それはまるで熟して食べられるのを今か今かと待つ苺のようで。
いただきます、と呟いた。



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