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 君色に染まる@

お土産、と手の中に落とされたのは青いマニキュアの小瓶が一つ。

「ベティさんありがとうございます! 綺麗な青……」
「好きそうだと思ってね。気に入ってくれて何よりよ」
「でもマニキュアって使ったことないや……」

海の底を思わせる青を眺めているとベティさんが「名前」と名前を呼ぶ。

「化粧は武装だ。纏うだけで強くなれる。苦手でなければ試してみるといい」




塗るだけ塗ってみようかとソファに腰を据えて、片手だけ塗っていく。端は爪の色が覗いているところがあるものの初めてにしては上出来だと自分で褒めてみる。

「お、珍しいな」

声が降ってくる。見上げれば予想通りサボが私の手元を興味深そうに覗き込んでいた。

「ノックしてよ」
「紅茶、飲むだろ?」
「……いる」

正面に回り込んで、はい、とグラスを手渡される。ため息を一つついて受け取った。マニキュアに触れないように気をつけて喉を潤す。

「それ、どうしたんだ?」
「ベティさんにもらったの。せっかくだし使おうかなって」

やっぱり似合わないかな、と目を伏せれば「似合ってる」と微笑むのだから敵わない。

「おれが塗ってみてもいいか?」
「いいよ。はい」

残りは利き手だし、どうしようか迷っていたので渡りに船だ。サボの手の上に手を重ねればお姫さまと騎士みたいで恥ずかしい、なんて言ったら笑われそうだ。

「笑うなよ。震えてやりづれェ」
「ごめん、くすぐったくて」

これは任務、そう任務……。と自分に言い聞かせて震えを止める。よし、とサボ呟いてハケが爪に触れた。

「サボこそ──」

震えてる、と続けようとして口を噤む。呼吸を止めて真剣な表情のサボを見たら揶揄うのは気が引ける。
丁寧というよりたどたどしい感じで。こんなサボの一面を知っているのは私だけと思うとちょっと優越感。

「……やっぱりやり直してもいいか?」
「え、だめ!」

仕上がりを見て不服そうに眉を寄せるとティッシュで拭おうとするので慌てて手引き抜く。

「専用の液体を使わないといけないらしいの。今度買ってくるから今回はこのままで」
「……じゃあ次はいつ塗るんだ?」
「えっと、」

正直、一回こっきりのつもりだった。だって私には上手く塗る腕も、この色が似合う女性らしさも持ち合わせていない。
でもサボやる気になっているのならまた塗るのもいいかもしれない。それにこの青を瓶に閉じ込めておくのはちょっともったいない。

「一週間くらいで剥がれちゃうらしいから、そのくらいに塗り直そうかな」
「わかった。じゃあ一週間後またな」

立ち上がりながらするりと私の指をなでていくのでくすぐったい。見上げれば意地悪な笑みを浮かべていたので「もう!」と叩けない代わりに口を尖らせた。




「また見てる」
「え?」

顔を上げてコアラの視線の先を見れば私の爪。

「書類仕事中も今も、しょっちゅう見てるよ」

そう言ってサンドイッチを咀嚼するコアラ。指摘されるまで全然気づかなかった。無意識に見ていたなんて恥ずかしい。俯きがちにパンをかじる。

「マニキュア、かわいいね。ベティさんから?」
「ありがとう。そう、こないだもらったの」
「私も前にもらったことある。今度なにかお礼しようか」

なにがいいだろうか、と二人で話す。きっと何でも喜んでくれるだろうけど、うんと喜んでもらえるものを贈りたいね、って笑いあった。



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