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 どっちつかずの

白い壁をペタペタと触っていく。なんの変哲もない普通の壁。力を込めてみるが、最初に試したときと同じくひび一つ入らない。
反対側を調べていた彼女──女海兵のほうへ向いて首を振って結果を伝える。

「やっぱりこれしかねェのか」
「……そうね」

壁を見れば『どちらかが相手を泣かさなければ出られない部屋』の文字。こんなことがありうるものかと、一時間近く調べたが手がかりはこれしかなさそうだ。

「革命軍参謀総長、あなたくすぐられるのは苦手だったりする?」
「長いからサボでいいって言ってるんだがな……。まぁ笑い泣くほどじゃねェな」

今にも噛みつきそうな雰囲気はなくなったが、未だ目つきは険しいまま。名前を呼ぶほど親しくなるつもりはない、とバッサリだ。まぁ、海軍と仲良くなりたいわけではないからいいが。

「私もくすぐりは効かない。──それなら、」

そこで言葉を切るとタイを緩め襟元を広げる。ぎょっと目を見開く間に、なぜか置かれたベッドの縁へ腰かけこちらを見る。

「こんなことを頼むのもシャクだけど仕方ない……私の首を絞めて」
「……は」
「私の首を絞めれば生理的な涙が出てここを出られると思う」

聞こえなかったと思ったらしくもう一度繰り返す。

「武器はないし、痛みに慣れるよう訓練されている。そして悔しいけどあなたを泣かせるようなことはなにも思いつかない」

他に方法はないと淡々とした口調で述べる。たしかに真っ当な手段は残されていなそうだ。だけど、

「おれが殺すとは思わねェのか?」
「そうしたらあなたも出られないでしょう」

そうかもしれない。諦めて息を吐き、ベッドへ近づく。海兵の肩をトンと押せばベッドへと倒れ込む。

「……本当にいいんだな」

最終勧告に小さく頷いて目を閉じるのを確認して、覆いかぶさるように膝を立てて細い首に指をかける。ビクリと跳ねたのを無視してじわりじわりと力を込めていく。

「……ぅ、」

海兵は苦悶に顔を歪ませながらも、サボの指を剥がそうとはしない。少しでも力加減を間違えたら絞殺どころか首が肉片になるといのに。

「ぁ、」

酸素を求めて口がはくはくと動く。見ているサボまで息が苦しくなるが彼女の比ではないだろう。


ガチャ


鍵の開く音が聞こえて手を離せば大きく咳き込む。音のほうへ顔だけ向ければ今まで壁だったところに扉が出現していた。

「はぁ……はぁ……私、まだ泣いてなんか……」

混乱する海兵を置いて一足先にこの不思議な部屋を出る。扉を閉めれば閉じ込められる前にいたサボの自室に立っていた。時計を見るとあの部屋にいたのはたった数分ということになっているらしい。
壁に背を預けてずるずると座り込む。まだ手の中に嫌な感触が残っている。彼女の首がサボの意思によって絞めあげられていく感触。

「──くそっ」

握りこぶしを床に叩きつけた。
嫌いだったらよかった。好きならそれはそれでよかった。でもこの感情はどちらでもない。
嫌いになれないから、おれはあいつが大嫌いだ。



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