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 臆病者

「シュライヤくん、好きだよ」

笑ってそう言ってくれる彼女を、おれはどうしたらいいかわからないでいる。



初めて会ったとき、陽の光が似合う人だと思った。おれとは、生きる世界が違う。名前を呼ばれるたびに、笑顔を見るたびに、襲われる衝動を抑える。

「ここにいたの」

島の外れにある崖っぷちでぼんやり海を眺めていると、髪を押さえながら彼女が近づいてきた。

「そこ、危ねェから気をつけろよ」
「わかってるわかってる。――きゃ、」
「おい! ……っと」

風に煽られてバランスを崩した彼女をなんとか支えて――離す。「だから言っただろ」と言えば彼女の目に涙が溜まっていて思わずぎょっとする。

「……シュライヤくんは、私のことが嫌い……なの?」
「……」
「鬱陶しい、よね。ごめん」
「ちがう」

いつも笑っているから傷ついているとは知らなかった。ただ笑っていてほしいのに、おれはいつだって間違える。

「おれにはお前を好きになる資格も、抱きしめる資格もねェ……」
「シュライヤくん……?」
「だからおれのことは放っておいてくれ。あんたが幸せになることを祈ってる」

それだけ言って彼女に背を向ける。嫌いになればいい。きっぱり忘れてくれればいい。

「……シュライヤくんは、私のことが嫌いなんじゃないの?」
「おれには資格が――」
「資格なんていらないよ」

背中に柔らかいものが触れる。彼女に抱きしめられてると気づいて、今度はおれが落ちそうになった。

「資格なんていらない。ただ、お互いに触れたいならそれでいいの」
「……」
「私はシュライヤくんに抱きしめてもらいたい」
「……手を離してくれ」
「……うん」
「じゃねェと抱きしめられねェだろ」
「……うん!」



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