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 欲張りだとは思うけど

「今日誕生日だってな。おめでとう」
「ありがとう」

一緒に洗濯をしていたペンギンが「今夜は宴だなー」と笑う。誕生日だということは話していない。知っているのは、ロー君だけ。
海賊のことはよく知らないけど、船長として船員の誕生日を祝うことくらい当たり前なのかもしれない。
お揃いのツナギをもらえて嬉しかったのは本当だ。でも今は、仲間の象徴が少しばかり苦しい。

「……欲しいものって言ったくせに」

呟きは風にかき消されてペンギンに聞かれずに済んだ。




誕生日会と称した飲み会は夕方から始まって日付が変わる少し前まで続いた。あまり飲むつもりはなかったけど場の空気に酔ったのかふらふらする。まだ飲み続けるみんなより先に休もうと女子部屋への通路を歩く。

「あ、」

曲がり角でロー君とぶつかりそうになった。ふらつく体を片手で引き寄せられて、あの時抱きしめられたことを思い出す。ロー君とこうして一対一で会うのはほとんどない。みんなが想像しているような甘い関係では、ない。

「大丈夫か」
「……」
「おい」

顔を覗きこまれそうになって、咄嗟に隠そうと伸ばした腕はあっさり退かされた。涙で潤んでいるのは薄暗い通路でもわかったようで、驚いたようにロー君が目を見開く。

「どうした」
「……誕生日プレゼント」

ちょうだい、と上手く言えたかわからない。
船長からはもらった。おめでとうの言葉とお小遣いと言うには多すぎるお金を。でもロー君からはもらってない。
ぐすぐすと鼻を啜る私に何を思ったのか。ズボンのポケットからスプレーボトルを取り出して私の手に握らせる。

「なにこれ?」

何も言ってくれないので試しに手のひらに少しだけ吹きつける。ラベンダーがふわりと香った。

「え、香水?」
「お前、寝付きが悪いだろ。おれが船に乗せた以上、体調崩すなんてことはさせられねェ」
「……あぁ、船長としてか」
「あ?」

苛立った声に思わず怯む。ロー君はため息をつくと私の腕を引いて船長室へ入ってドアを閉めた。ベッドに座らされて、正面にロー君が片膝をつく。

「お前……おれがただのクルーとして乗せたと思ってるのか?」
「だって、なにもない……し」

甘い言葉も、キスも、ましてやそれ以上も全くない。それで何を分かれと言うのか。

「……誕生日に間に合わせようと思ったんだが、それ以上に優先することがあったな」

よく見れば色濃い隈がさらに色濃くなっている気がする。このためにどれだけ時間を割いてくれたんだろう。たかだか船員一人……いや私のために。

「一言言ってくれたらいいのに……」
「これから嫌と言うほどわからせてやる」

覚悟しておけ、と言われて。あぁ、今日からはよく眠れそうだ。



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