◎ ツケでお願いします
ふわふわする。ぱちぱち、と重いまぶたをなんとか持ち上げてもう一度グラスを呷った。
「あー、やめとけって。顔真っ赤じゃん」
「んー……」
手の中にあったグラスが簡単に取られて遠ざかる。手を伸ばしても届かなくて、代わりにペンギンさんのつなぎを掴んだ。
「え、なに、」
「ふふ、ぺんぎんさんも顔、あかーい」
「おいペンギン。キャプテンが見てんぞ」
「おれは被害者では!?」
ペンギンさんに抱きつけば悲鳴と溜息に似た吐息が酒場を満たす。もっとくっつきたくて頭を擦りよせれば、つなぎの厚い布ではなくTシャツの感触に思わず顔を上げる。
「ペンギンじゃなくて残念だったな。──行くぞ」
「ろーさんだぁ。わっ」
ふわりと抱きかかえられて浮遊感が増す。ローさんが歩くたびに揺れるのが心地よくて、眠気も相まって夢の中へと入りかけたところでベッドへ放り投げられた。
「ぐえ」
「ペンギンの隣は楽しかったか?」
ローさんが覆いかぶさるようにベッドへ乗ってぎしりと軋む音がする。もしかして嫉妬しているんだろうかと思うと思わず笑ってしまいそうになる。
「なに笑ってんだ」
「ん、ごめんなさい」
どうやら笑ってしまってたらしい。ろーさん、と嫉妬深い恋人の名前を呼んで両手を伸ばす。
「抱きしめてください」
「ペンギンでも呼ぶか?」
「ろーさんがいいです」
溜息をついて離れたかと思うと、隣へ横になったローさんに抱きしめられた。
「ふへへ……あったかい」
酔うと人恋しくなってしまう。ペンギンさんも飢えた心を潤してくれたけど、やっぱりローさんじゃないと満たされない。それはローさんもわかっているようで黙って抱きしめたまま、鼻や頬へとキスを落としてくれる。
「明日はおれの好きなようにするからな」
「うん……」
「忘れるなよ」
忘れたって文句の一つも言わせてくれないというのに。明日の自分に怒られそうな約束を交して、今度こそ夢の世界へと沈みこんだ。
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