01:見知らぬ世界へ
そういえば…薄●鬼の沖●さんEND終わらせて無かったんだよね。いや、見たことはあるよ?もう10回以上は見てるけどさ。もう100回は見たかったよね。あーなんで死んじゃうかなー。もうこめかみバキュンできっと即死だったよねうん。
痛みとか一瞬だったもん意識飛んだもんね。いやー怖い怖い。高野玲もビックリ仰天だよね。ごめんね最後に相棒のグロいとこ見せてしまってほんとトラウマだよね。あー、公安警察所属の30歳独身のヲタク女子がこんな最後ってどうなの?っていうか思う事があるんだよね。 言ってもいいかな?言ってもいい?もう3、2、1で言うよ?言っちゃうよ?いいの?ほんとに言うよ?
はい、3、2、1……
「…ココ、どこ?」
目を開けたら見知らぬ広い部屋にいました。え?何事?
***
一通り今自分がいる部屋(家)をぐるっと確認した。元々一人暮らししてたけどこんなにいい部屋では無かったはずだ。なんだこの金持ちアパートは…お風呂広いし…トイレで寝れるレベル。さっき鏡みたけどなんら変わりない30歳おばさんとなる自分の姿。童顔なのは変わらない…っていうか、さっきまで犯人と対峙してたはずだしっていうか私死んだよね?
「外も知らないし…」
窓から外を眺めてもそこは見知らぬ場所。でもどこか東京と似ている気がする…でも何か違う。
「どうなってるんだろう…夢?いや、夢にしてはリアルすぎる」
考えても考えても何も見つからない。あとはテーブルにある携帯だけか……
「電話帳…電話帳…っと、…え?」
そこである事に気づいた。電話帳を開くと元々登録してた人たちが綺麗さっぱりなくなっているのだ。
“一人を除いて”
「嘘でしょ?どうなってるの…?」
もう何がなんだかわからない。とりあえずどうしようもない気持ちのまま、唯一残っている連絡先へ迷わずダイヤルを押していた。
***
「いらっしゃいませー!」
カランカランと鈴が鳴れば店員さんが迎えてくれた。明るく迎えてくれたその子は天使の笑みで可愛らしい女の子だと思った。『待ち合わせしていて…』と控え目に伝えれば相手はもう来ているようで椅子席へ案内してくれた。そこで先にコーヒーを飲んでいたのはやはり思っていた人物で「よっ」と軽く手を上げたその人物は“いつもと変わらない笑み”を浮かべ、迎えてくれた。
「えーっと…」
「……」
「…マジ?」
周りに迷惑かけない程度で声を発して確認を取る。苦笑いを浮かべる彼はどうやら本物のようで本人もどうやら未だ混乱してるようだった。
「なんでお前もここにいるの?“玲”」
「それは俺も知りたいわ」
「だよね」
お互いいまだに状況を把握できていない様子。この喫茶店に向かう前から歩いていて思ったが、全く知らない街並みだった。そう思っていたのは彼も同じのようで、さっぱり分からんという顔を浮かべている。携帯でお互いに色々調べていたが特に何か得られた情報は無い。と、途中で先程の可愛い店員がカフェオレを運んできてくれた。ごゆっくりどうそニコって。ニコって。あー可愛いな…若いっていいよねほんとに。あっカフェオレ美味しい。
「つーか、鉄道乗って気づいたんだけどさ」
「?」
「“東都環状線”って知ってる?」
「なにそれ」
「だよなー」
どうやら彼は鉄道で来たみたいだ。東都環状線?東京環状線ではなく?東都って地名あったっけ?京都じゃなく?あれ、でもなんかほんわか聞いた覚えがあるような…ないような…
「東都…東都…」
「何か知ってんの?雪乃」
「んー…なんかどっかで聞いたことあるような…」
どこで聞いたっけなぁ…テレビ…多分テレビだと思うんだけど。しばらくうーんと黙ったまま考えてたその時、お店のベルが鳴った。その音に反応して私も彼も同時に入口へ視線を向ける。
「「 あ 」」
………思わず2人同時に声を漏らす。その視線の先にはとてつもなく有名な人物がそこにいたのだ。
なんとなくだがわかってしまった。とりあえず二人で答えを合わせるためにお店を出て私の部屋へ彼を招いた。人の部屋を見るなり『俺より豪華…!』と目を輝かせている。お互い一呼吸おいて落ち着いた後に、先に口を開いたのは彼。
「…さっきの“本物”だよな」
「多分ね」
さっきとは喫茶店にいた時のこと。あの時来店したのはスーツを着た中年男性と高校生らしき制服を纏った女子。そしてその足元には大きめの眼鏡をかけ赤い蝶ネクタイが特長的な少年がいた。さすがに彼には見覚えがある。間違いなくあの少年は…
「見た目は子供頭脳は大人…」
「名探偵コナンだったな」
間違いなくアレはアニメや漫画で子供に大人気の作品の子だ。え?本物?本物なのか?あっれれ〜?おっかしいぞぉ〜?の子?え?マジもん?いやいやいや私も高野もビックリだよ。最初こそ夢かと思ったが、お互いそこまで混乱してはいないと思う…っていうかそれよりも聞きたいのは目の前のこの男の事だ。
「…っていうか見てたよね?私が撃たれたの」
「あぁ。雪乃が撃たれて死ぬ瞬間な」
「それで…お前はどうしたの?」
「…俺も死んだ」
「は?」
「俺も撃たれて…そのあとすぐに“奴”が隠して身に付けていた爆弾が爆発したんだ」
「!」
彼の話が本当であれば二人とも間違いなく死んでいるということ。しかし二人はこうして生きている。それは何故か。
「…こんな非現実的なことは考えたくないんだけど」
「奇遇だな。俺も今考えてたとこ」
「「 ……トリップ 」」
しかもコナンの世界ときた。まさかの?なんで?っていう疑問ばっか浮かぶけどほんとなんなんだ。そもそもこんなに冷静になって考えられる自分が怖い。
「あっ、そうだ。コレ、なんかポストに手紙入ってたんだった」
「?」
お前も見た?と言われてポストは未確認だったためすぐに見に行った。するとそこには今彼が手に持っている封筒と同じものが入っていた。宛名は無い。この厚さから見て恐らくは手紙のようだ。
「読んでみよ」
お互い届いた手紙を開く。そこにはまさかの信じられない文面が綴られていた。
拝啓 日下 雪乃 様
この度は、時空間転移に巻き込んでしまい申し訳ございません。貴方は元の世界で死を迎え、普通であれば天国へ魂が送られる予定がこちらの世界へ転生してしまいました。
こちらの事故とはいえ申し訳ありません。『名探偵コナン』の世界で貴方様はもう一度人生を歩んで頂けます。どうですか?生き返ったという形です。どうですか?
そして今回のお詫びとしてある程度生活のできる資金は勿論、住宅のご用意もさせて戴きました。また、特別な特典といたしまして『この世界でのみ使える三つ貴方様の願いを叶える』というサービスを設けさせて戴きました。どうですか?例えば、誰かと仲良い設定…とか誰かとは幼なじみ…とか恋人…とかっていうお好きな設定を。どうですか?あとは貴方様の仕事の事ですが、元の世界と同じ仕事でもよろしいですし、違う仕事がご希望であればこの紙にそれぞれ記入頂ければ、明日からそのような設定で決まります。どうですか?
せっかく新しい世界に生まれ変わったのですから、楽しんでください。絶対楽しいと思います。どうですか?
それでは新しい人生、存分にお楽しみ下さい。
敬具
神
「何が神だよ。どうですか?じゃねーだろふざけんな」
「口悪いの出てんぞ」
名探偵コナンの世界に転生した?え?待って待って。なんでそこチョイスしたの?え?待って待って。何その非現実的なやつ。信じたく無いけど信じなきゃいけないって何コレ。っていうか…っていうか!!
「せめて転生するなら薄●鬼にして欲しかった!!」
「そこかよ!?しっかりしろ30歳ヲタク女子」
彼も手紙を読み終えたようでパタンとその紙を閉じていた。内容はほぼほぼ同じだったようで疲れ切った顔をしている。
「…で、だ。お前コナン見てた?」
「…アニメでたまに?あとテレビで見てたくらい。原作はそんなに詳しくない。あっでも凄いコナン好きな友達からわーわー話されたことはある。玲は……そういうの見ないもんね」
「俺もチラッとくらいだわ…あー、めんどくせぇ」
そらそうだ。こちとら面倒ごとに巻き込まれてるようなもんだ。しかしこの状況で喚くほど子供ではないのでとりあえずこれからどうしていくか話し合っていくことにした。
「仕事どうする?」
「あー…それな。まぁ俺は前と同じ公安かなぁ…雪乃は?」
「んー…そうだなぁ…」
元の世界で相棒だった彼が公安に行くのであれば自分も公安に行くべきか。となればまたゼロの女として警察庁警備局警備企画課(ゼロ)で働くか。んー…まぁ嫌いではなかったけど。死ぬ危険をぬかせば。あっ、でも願いは一つある。わかったそうしよう、うん。
「私警視庁交通部交通課に入る」
「いや、なんで?」
「制服着るのが夢でしたやっと叶います」
「理由が単純ッ!」
お前それでも元チヨダか!?と言われたが無視無視。だって憧れだったし着れるのも今の内かなって思ったし。あの青い制服可愛いじゃん。やったねスーツいらないバンザイ!って考えたらなんか楽しみになってきたわ。コナン詳しくないけど。
「じゃあ仕事はお互い決まりっと。あとは…この願いを叶えるってやつか」
叶えられるものもきっと限られるのだろう。この書き方は。でも特にこのコナン界で誰と仲良くなりたいとかそういうのは一切ない。主人公はきっといやでも絡むことがあるはずだ。こっちはモブキャラ扱いになるが。仲良くなるぶんには問題無いだろう…となれば、だ。
「…私は“コレ”かな」
「どれどれ」
とりあえずは三つ書き出した。今後のことを考えて書いた物。これから生活していく上でコレがあれば便利だとか、誰と関わりがあれば都合がいいからとかそんなもん。最初は『お前これ必要ねーじゃん』ってツッコミもらったがもう無視した。最後には彼も納得してくれたけど。
「というわけで明日から新生活スタートっていう事で」
「これからは上司と部下じゃなく、ただの友達だな」
「よろしく」
「こちらこそ」
まだ馴染めないこの世界でどうなっていくかは分からないが全ては明日から始まる。せめて、平和な日が続いてくれればな、とそこだけは強く拝んでおいた。