女主 | ナノ


▼ ちいさいころの話

誰でも魔法が使えるこの世界で、生まれつき魔導力が無く魔法が使えなかったわたしは家では少し冷たい扱いを受けていました。
両親は仕事で家にいる機会も少ないうえに、忙しくわたしに構っていられる時間なんて無いに等しいので、わたしは避けられていると感じていました。
わたしは使用人達の、悪い噂の的でした。

わたしは由緒正しい魔導師の家系に生まれたので、これは仕方のないことなのです。
普段家の中で優しくしてくれるのは、二人の姉たちだけでした。

見かねた二番目の姉さんがよく、体術の稽古に誘ってくれましたが、わたしは今とは正反対で体を動かすことよりも、お家で勉強している方がずっと好きでした。
痛いのも、しんどいのも、嫌いだったのです。
何度姉さんが誘ってくれようと、わたしはあまり首を縦には振りませんでした。

そしてとうとう二番目の姉さんと、喧嘩をしてしまったのです。
悪いのは確実にわたしでしたが、当時のわたしは幼かったので一番上の姉さんに泣きつきました。

「クレアおねえちゃんが、あんたは魔法がつかえないんだから、いくら勉強したってむだだっていうの」

あまり勉強ができる方ではなかったのですが、唯一お家で見つけたできることを否定されたのは悔しかったのです。
わたしは生きているうちにこの家の人間だと胸を張って言えるような、立派で誇れる物事を成し遂げることは出来ないのでしょうか。
だとすれば。

「わたしは、いらないこなの?」
「そんなことはないわ。クレアはちょっと不器用なだけなのよ」
「わたしはナマエおねえちゃんみたいにお勉強もできません。魔導力だってないから、魔法だってつかえません。きっと、体術もできないにきまってる」
「あら、やってみなくちゃわからないじゃない?」

わたしはぐすぐすと泣いているのに、ナマエ姉さんはくすくすと笑って言いました。

「クレアは私と正反対で、勉強が得意ではなかったけど、外で走り回る運動神経はあったわ。体を動かすのが好きだから、体術を極めたの」
「わたしは体をうごかすのは好きじゃないわ!」
「そうね、だけどクレアは自分の好きなことでラフィーナに一番になってもらいたいでしょうね。たった一人の妹だもの。自分の持っているもの全部を教えてあげて、素敵なレディになってほしいって思っているわ。もちろん私だってそうね」
「……」

「私もね、クレアと同じことをしたことがあるの」
「ナマエおねえちゃんも?」
「クレアが外で遊んでばっかだったから、勉強を強要して、泣かしてしまったわ。沢山酷いことを言ってしまったの」
「それは、酷いです!」
「そうね。お母様に叱られてしまったわ」

この話を聞いたとき、わたしはびっくりしてしまいました。
ナマエ姉さんはそのときから完璧な人でしたから、母様に叱られたなんて想像もつかなかったのです。
それほどに大好きで立派で誇れる、憧れの姉でした。

「クレアには私が言っておくから、仲直りをしてあげてね」
「……はい」

本当は、クレア姉さんは許してくれないだろうと思っていました。
だってわたしはとても酷いことをしてしまったから。
翌日覚悟を決めて謝ってみれば、クレア姉さんは笑って許して下さいました。
あろうことかすぐに悲しそうな顔をして、「私のほうこそごめんなさいね」とたくさん頭を下げられたので、困ってしまったのをよく覚えています。
仲直りの後にクレア姉さんと手を繋いでナマエ姉さんのところへ行きました。
ナマエ姉さんに先ほどのことを話すと、とてもおかしそうに、うれしそうに笑っていました。





クレア姉さんが久々にプリンプに帰ってきたらしい。
数ヶ月ぶりに会えるのがとても嬉しくて、学校が終わると急いで家に帰った。
クラスメートにはなんでもない素振りを見せていましたが、きっとアコール先生には気づかれていたのでしょう。担任だものね。

「お帰りなさい、ラフィーナ」
「ラフィーナ!久しぶりねぇ!少し身長伸びたんじゃない?」
「ただいま帰りました。ってちょっとクレア姉さん!あまり撫でないで下さい!セットが乱れますわ!」
「お家だからいいじゃない!」

家の中でも身だしなみには気をつかうのです。
それがレディの常識だってこと、クレア姉さんはわかってらっしゃらないんだから。

「クレア姉さん、今帰ってきたところですの?お茶を淹れてきますわ」
「あら、私も手伝うのに」
「一人でできます!姉さんたちはそこで大人しくお喋りしてればいいんですわ!」

姉妹三人が揃うのはとても嬉しいこと。
ですが姉さんたちは末っ子だからってすぐにわたしを子供扱いをする。
わたしだって、最低限のことは自分でできるようになったし、姉さん達の為に美味しいお茶を淹れてもてなすことくらいできるのに!

クレア姉さんの好きなアールグレイを淹れようと、台所の戸棚を探すも見当たらない。
いつ姉さんが帰ってきてもいいように、紅茶を淹れる練習をしたときには、確かにここにあったのに。

「あらラフィーナ、アールグレイはここよ?」
「ナマエ姉さん」

よく見たら既に表に出ていたらしい。
わたしとしたことが、見落としてしまったようで。

「いいって言いましたのに。紅茶くらい一人で淹れられますわ!」
「あら、ごめんね」

姉さんはくすくすと笑う。
小さい頃から変わらない、品のある笑い方。
昔よりもできることが増えたからとはいえ、わたしは昔よりも強がりを言うことが増えてしまった。
だから大好きな姉達に向かって失礼なことを言ってしまうこともある。
でも姉さん達はそんな私を笑って許してしまうのだ。

「……な、なんですの」
「昔みたいにおねえちゃんって呼んで、甘えてくれたってかまわないのに」

そう言ってうれしそうに、笑っていた。





クレア=フランス語で「明るい、明確な」
明るく好戦的で荒っぽい口調になることもある。
隣町のエリート校に通ってて、レムレスと同級生。普段は隣町に住んでる。たまにプリンプに帰ってくる。
という設定


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