▼ あまとう しばく
「女の子の唇って甘いと思うんだ」
「うわあ」
もう一度言おう、うわあ。
久々に幼なじみが遊びに来たからせっかくお茶を用意してやったらココアが良かったなと文句を言われた。しばいた。
そしたらこれだ。ちょっと意味がわからない。
「だから何。舐めたいの」
「うん」
「うわあ」
ちょっとこいつが何考えてるかわからない。甘いものの食べ過ぎで虫歯どころか脳内まで蝕まれているに違いない。
じゃなかったらこんな発言犯罪だ。わざわざ女の私の前で言ったんだから立派なセクハラだ。重罪だ。正当防衛として鳩尾殴っても絶対許される。お前が持ってるお菓子全部を許されるに掛ける。
「フェーリやクルークなら舐めさせてくれるんじゃないかな。特にフェーリなんか喜んで」
「フェーリは駄目…後輩だし、舐めさせてって言った瞬間唇になにかアヤしいものを塗りそう…」
「そりゃあり得る」
「大体クルークは男の子じゃないか。話聞いてた?」
「なんで私が怒られなきゃならないんだぶん殴るぞ」
本当にぶん殴るぞ。
なぜならこの後の展開は読めているからだ。
エスパーだか糖尿病だか知らんが、こいつは私が例えば友だちにグミを貰った時に限って「なんだかグミが食べたい気分だなぁ。でも今日は生憎持ち合わせてなくて…おやいいところに」だとか、私が大好きなアルフォートを買った帰りには「今日は暑いからチョコレートを持ってなくて…おやいいところに」だとか、ぷよ勝負で勝つとすぐに略奪しやがるのだ。
嘘だと思うだろうが本当で、ちなみにこれは私にしかしない。他の子にはお菓子を振りまいてるくせに私にはくれない。幼なじみの全く嬉しくない特権だ。プリンプの水晶の洞窟辺りに全力で投げつけてやりたい。
そう、だから今回もいつものノリなら「知的好奇心が収まらないから舐めさせてくれない?」とか言うに違いない。だからこんなにイライラしているのである。
「知的好奇心が収まらないから舐めさせてくれない?」
「ほらね!!!」
やっぱりね!!こんなの土下座で頼まれても嫌だね!!!
レムレスは出してやったお茶に口をつけると「渋くて苦い」とか難癖をつけやがった。うるせー自作の健康茶なめんな。
「口の中が残念なことになっている。からナマエの唇で口直しを渇望」
「言い回しが気持ち悪い2点」
「2点満点中?」
「んなわけねーだろアホか」
100点を取ったら舐めていいとかそういう問題じゃないが今のは酷い。
「じゃあほんとにフェーリを舐めてもいいの」
勝手にしろ。と言いたいところだが、レムレスの幼なじみということでよく嫉妬されるけれどもフェーリは仲の良い、可愛い後輩だ。
いくら好きだからってこんな頭のおかしい奴に毒されてしまっては大変だ。後輩に手は出させない。
と、なるとやっぱり私が犠牲になるしかないのか……
「渋くて苦かった。でもほんのり甘かったよ」
「うるせー健康茶なめんな」
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