女主 | ナノ


▼ その1

ミョウジナマエを、時々酷く気持ち悪く感じるのだ。

あいつの性癖や思考が気持ち悪いのは今更のことなのだが、それ以前に、なんだかよくわからない不気味なものを感じる。それは、いつものように下品で馬鹿げた会話をしているとき。たまにまともな会話を交わしたとき。何気ない一瞬、意味のない笑顔を貼り付けて、うふふと笑うあいつが気持ち悪いと思うのだ。あいつの何がかはわからない。わからないので、余計に気持ちが悪い。

思えば俺はミョウジナマエのことなんて、全く知らないのだ。知っていることなんて名前と下品な性癖、それだけ。あいつは忘れた頃にここに来て、下らないことを語っては去っていく。一度ほとんど無視をしたことがあるがあいつは一人で話している。俺いる意味あるかそれ。
ミョウジナマエに興味がそそられることもなかった。別にあいつのわからないことについて気になることもなかった。しかしどこか変わった奴だとは思った。そりゃあ頭はおかしいけどな。
馬鹿みたいに平和なこの町に、なぜだかそぐわない奴だと思った。


いつものように語るその目に嫌悪が含まれているのに気づいたのはそう遅くはなかったはずだ。気づいた時の俺が思ったのは「こいつ俺のこと嫌いだな」ってそれだけだった。嫌いなら来んなよとも思ったが、後から考えるとなぜ嫌われているんだ意味がわからん。普通に考えて俺がお前を嫌うだろ。別に嫌いじゃあないが。だからと言って好きでもない。うんだからどうした俺。


今更になってミョウジナマエに興味がわいたのはたぶん知的好奇心が刺激されたんだろう。だってあいつよく考えたら謎すぎる。
いつもの子供みたいな口論が発展してぷよ勝負をしたことがあった。特別強そうに見えないあいつ相手になんて楽勝だと思っていたが、なんと1分も経たないうちにおじゃまぷよの下敷きにされた。俺が。泣いた。
その時わかったのだが、あいつは魔法が使えない。まぁ魔力が低いか全くないということは俺にもわかっていた、だから軽視をしたのだ。その後も何度も挑んだのだが、純粋にぷよを積んで消すという勝負では一度もミョウジナマエに勝てなかった。多分こいつサタンより強い。サタンもぷよぷよ地獄作った奴なのになさけねーな。
後に知ったのだが、この世界では魔力が無い人間の方がまれらしい。確かに義務教育ではないが多くが学校に行って魔導を学んでいるし、俺が居た世界に比べて魔導も魔法も一般的なものだ。
妙な違和感を感じるわけだ。






「強いて言うなら虫みたいなものです」

無表情でそう言う。ミョウジナマエは常に笑顔で、むしろこいつにとってみれば笑顔が無表情みたいなものなのだ。

お前が知りたい。率直にそう言ってみた。いや本当はお前の住んでいる場所が知りたいと言いたかったのだ。また主語が抜けたのはちょっと熱くなってたのかもしれない。
なぜ住居が知りたいかって、毎回人の家(洞窟なのだが)に入り込んできて喋りつくして出て行くって失礼すぎるだろ。俺は律儀で真面目な性格なので、こいつが来るたびに茶を用意してやってるのだ。だからたまには俺が向こうに行って茶を出してもらうくらいはしてもらわないとフェアじゃないだろヘンタイって言うな。

「なんだよ虫って」

「私のことがおかしいって思っているんでしょう。なら私はこう答えますよう。虫みたいなものです、うふふ」

むし、虫ってなんだ。どういう意味だ。ビートルか。インセクトか。確かにこいつはゴキブリみたいな奴だが。
うむむと考え込む俺をよそにミョウジナマエは「やだ、虫ってことはシグくんに捕まえてもらえるではないですか…私ったら天才!」とかアホなこと言い始めた。

ミョウジナマエはいつものミョウジナマエに戻った。

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