男主 | ナノ


▼ 思考の海におぼれる

「あっはっはっは!!」
「るっせー!どんだけ豪快だよ!!」


夕飯がかかっているから仕方なかったんだ!

ブチ切れ寸前のシェゾに詰め寄られておれがアルルを好きだってこと、兄ちゃんもアルルのことが好きなんだと勘違いしていたこと、ルルーとかドラコとかに相談していたこと、なんか上記の女性陣に遊ばれてる感が否めないこと、ついでにきっかけは実は一目惚れだってことまで、全て洗いざらいに吐かされた。

夕飯がかかっているから仕方なかったんだ!!

黙って聞いてた兄ちゃんは話に区切りがつくと今まで我慢していたんだろう、おれを指差してそれはもう笑いだした。


「ぶっ、おま、おまえが、アルル、ひひっあははははは!!」
「こんなクソみたいなドヘンタイでも刃物で刺したら血は出るのかな」
「ごめんなさいでした」


そう言いつつもまだ笑いはおさまらないようで、腹をかかえながら涙を流してヒィヒィ言っている。
最低!地獄に堕ちればいいのに!
ある程度笑って落ち着くと、シェゾはにやついた顔で(気持ち悪い)「俺は反対じゃないぜ」と言った。


「好きならさっさとくっつけばいいだろう、お前はアルルのもの、そしてアルルは俺のもの」
「は?」
「いやごめん違う力が抜けただけだ痛い痛い脇腹を重点的に殴るな痛いすみません!!」


反対されてもむかつくけれど、兄ちゃんなんかに賛同されてもどうかと思うのだ。
別に俺はアルルとどうなりたいとも思ってはいないし、こいつはこいつでアルルの力目当てだし、……兄ちゃんの下心だけじゃねえか!
サイテー兄マジサイテーと一人思考していると、当の本人はさっきまでふざけていたのが嘘のように、急に真面目な顔をしてこちらに向き直った。


「さっきも言ったよう俺は反対じゃない、むしろいいと思うぞ。アルルなら安心してお前を任せられるし、お前にもアルルを任せられる」
「どうしてみんなアルルと俺がくっつく前提で話を進めるんだ」
「そうじゃないのか?」
「そうじゃないに決まってるだろ」


おれは別にアルルと結ばれたいとかそんなこと思っていない。確かにおれは男だし、アルルのことが好きだけど、そんなことよりも今の関係が一番心地よいのでなにも変わってほしくない。

このままアルルが元気で健康に、必要以上に悲しむことなく暮らせたらそれでいいじゃないか。
いつかあいつが自分にふさわしい相手を見つけたらいい。きっとおれは嫉妬してしまうだろうけれど、その頃にはこんな想いもなくなっているかもしれない。今以上に良い友人として、やっていけるかもしれない。
そう願うなら、今の関係を維持するのが難しくなってしまうような感情なんて、むしろいらないんじゃないかとまで思う。


「そうは言うがお前の思っているように上手く物事が進むわけがないだろう」


めずらしく素直に言葉が出てくるのでそのままぽつりぽつりと話していけば兄ちゃんは面白くなさそうに言った。

もしかしたらアルルはお前のことが好きでお前と友人よりも恋人でいたほうが幸せかもしれないし、もしあいつに相手ができたとしたらお前は恋情を捨てきれず嫉妬に狂うかもしれない。あるいはずっと一人孤独で生きていくかもしれない。
それらがアルルにとっていいことかはわからないが、お前が何もしてもしなくても変化は訪れるんだ。


「なにより俺にははっきり言う弟がえらく消極的で卑屈な思考をしているのがキモイ」
「確実に私情じゃないかそれ!」
「もういいつまらん。お前がどうしようと勝手だが周りの期待は裏切るんじゃないぞ」


なんだよ、それ。ルルーもドラコも兄ちゃんも、好意で言ってくれてるとでも言いたいのか。
兄ちゃんは完全に興味を失ったようで夕飯のカレーライスを皿によそおうとしている。それはおれが作ったのにコノヤロウ。

今日は考えることがたくさんだ。


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