男主 | ナノ


▼ 走れ剣士よ

ラグナス・ビシャシは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の闇の魔導師を除かなければならぬと決意した。ラグナスには恋情がわからぬ。ラグナスは、勇敢な勇者である。どっかの魔界のプリンス(笑)に子供の姿にされ、ぷよを倒して暮らしてきた(ぷよしか倒せなかったのだ)。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。つい先ほど小屋を飛び出し、道を越え道路越え、十里も離れぬナマエの元にやってきた。
やってきた―――。



「ヘンタイコラァァアアア!!!ナマエから離れろーー!!」

「ラッ………グナァァアッス!!!!!」
「その言い方僕が茄子みたいだからやめろ!」

「グナァァアッス」の辺りで鳴ったドッパアアアという謎の擬音は俺の涙が噴出した音である。

え?今?闇の魔導師にガン付けられてたとこ!なんか盛大に絡まれたからこわくて逃げたら超追いかけてくるこわい。
ついに壁際に追い詰められて無言で顔面近づけてくるから「やべぇこれ油断させといて思い切り頭突きしてくるフラグだ新手のカツアゲこっわ」と思ってぷるぷるしてたら近所のちびっこのラグナスがシェゾにロケット頭突き(+回転付き)をして助けてくれたよ!シェゾは見事な膝カックン喰らって尻餅ついてるよザマァ!
そしてその後俺を取り巻く状況がよくわからないよ俺ザマァ!?

「畜生…ラグナス畜生……すげえ逃げられたけど無言で数秒見つめ合ってたからこれはイケる!と思ったのに……ちくしょう!!」
「黙れヘンタイホモ魔導師!そのシラガみたいな髪の毛真っ赤に染め上げるぞ!」
「なにこれ俺何に巻き込まれてんの!」

なんで二人は言い争ってんの?なんで火花バチバチさせてんの!なんで退路を断たれた俺はふたたびぷるぷるしているの!
シェゾは膝カックン喰らったんだから「チクショー覚えてろよーー!!」と一昔前の漫画のように退散すればいいじゃん!ラグナスは「ナマエ大丈夫か?ヘンタイは勇者の僕がやっつけたぞ!」と無邪気な笑顔で俺を迎え入れて、俺と一緒に手をつないでお家まで帰ればいいじゃん!それでめでたしめでたしでいいじゃん!なにを争うことがあるの!?

ついには放送規制用語まで飛び出してくる始末だ。やだ……いつも元気に勇者ごっこしてる純真無垢ラグナスの口から、そんな……!信じたくない…!
そしてよく理解できないが争いの原因は少なくとも俺にあるらしい。なんで!?
…うわああああなんか急にシェゾがすごい目付きで睨んできたこっちに矛先向けるなよあれラグナスいないいつのまにうわこわいマジで泣くうわああああん

「ナマエ、俺は、お前が、欲しい!」
「人身売買?なにそれ…こわい…」
「全然違うが金で買えるなら買う!」
「金持ちアピールこわい…」

「お前が俺のものにならないなら、俺にも考えがあるぞ。俺がお前のものになってやる!」
「ちょっと意味がわからないこわい…」
「お前は俺の心を奪ったんだから、俺自身も奪うべきだろう、早急に」
「なに言ってんのか理解できないこわい…」

そうしたらシェゾは勝手に俺に惚れるまでの馴れ初めを語り始めた。知らん…ウン年前に倒れてるところを助けたとか知らん…全く記憶にない。人違いだろ人違いで済ませろよ…。
そんなことよりイケメンのくせにどっからどうみてもチンピラみたいなヘンタイに告白まがいなこと言われたのが衝撃すぎてこわい…。
しかも柄にも無く頬赤らめてる…。ちょうきも…。



「ちょっと待てやコラーーー!!!」
「ブフッ」

これなんてプロレス?
横から見知らぬ青年がランキングラストインプレッションをシェゾにぶちかました。シェゾは泡を吹いて倒れた。そんな技も泡吹いて倒れる人も初めてリアルで見た。
というかこの青年、どっかで見たことあるような…いやまさか…。


「ナマエ僕だよ!ラグナスだよ!」
「Oh…気づかせないでくれ…」

「実はほんとの僕の姿はこんななんだけど、ほら、ナマエがもしかしたらロリペド趣味かもしれないと思うと」
「なにそれ心外すぎる」
「だって、ナマエが僕に特別優しいような気がして」

そりゃね!俺一人っ子だったし近所にちびっこって居なかったからね!まるで自分の弟か子供のように可愛がってましたけど!俺は普通に子供が好きだっただけで!兄になることに憧れていただけで!
ろ…ろりぺど趣味があるなんて、まさかそんなことを思われていたとは……!お兄さんは…、傷つきました……。

「ナマエ、たぶん僕お前が好きだ!いや、愛してる!」
「いらん……」
「ナマエに本当にロリペド趣味があったとしても、僕、頑張るから!」
「頑張らんでいい……」

もう、誰か助けてほしい。
状況は十分わかったから、お願いだから助けてほしい。
できれば一生わからないままでいたかったけどな!!


それから脱兎の如く逃げ出した俺が、次の日から社会的引きこもりになったのは言うまでもない。
実家に帰ろう。明日にでも。

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