男主 | ナノ


▼ 過度な期待をしてはいけません

物理部の活動中、あんどうりんごはなにやら興奮していた。
普段から冷静なりんごが目に見てわかるようにテンションが上がっているのだから、よほど嬉しいことがあったに違いない、とその他部員の二名(正しくは一人と一匹)は思っていた。


「二人とも聞いてください!商店街近くに、私たちと同じ年の子が引っ越してくるそうですよ!」


周りに花を飛ばしながら語るりんごにささきまぐろはなるほど、と思った。
商店街近くに新しく建設された家に誰か引っ越してくるのは知っていたが、なんと同世代の子が越してくるとは。
自分たちが住んでいる地域は高齢者がわりかし多く、同い年の子供は少ない。というか自分たち以外にはいない。
だからりんごちゃんが大喜びするのも無理はないのである。
そういう自分だって、りんごちゃんの話を聞いて嬉しいのだ。どんな子だろうか、仲良くなれるだろうか。思考は一気にその話題に向かう。


「同世代ということはつまり、この学校に通うことになる、ということかね?」
「はい、おそらくきっと、そうなると思いますよ!」
「わお!これは是非、物理部に勧誘しなくちゃだね」
「部費が増えるね!」
「りんごくんはそれ目当てなのか」


ぐふふにゃははとひそかにいつもの笑い声をあげるりんごちゃんはさておき、部員が増えるかもしれない。これはさらに面白くなりそうだ。
とりあえず日曜日、家に挨拶に行ってみるというりんごの提案にまぐろはボクも、と言ったのだが、数人で向かうと困らせてしまうかもしれないから私一人で行くよ、とやんわり断られてしまった。

これが、つい二日前の話。



「ま…ままままぐろくん……」
「りんごちゃん?どうしたの。ずいぶん落ち込んでる様子だけど」

そもそも今日、りんごは新しく引っ越してきた子に挨拶をしにいったはず。出かけていくのにたまたま出くわして他愛ない会話を交わしたのはほんの数分前。
挨拶だけにしろ、帰ってくるのが早すぎるのではないだろうか。

「今ミョウジくんの家に行ってきたんだけど、なんだか今日は片づけで忙しいらしく…。会ってもらえなかったよおお…!」
「会ってもらえなかった?」

りんごの言葉に、まぐろは少しおかしいと感じた。
面会拒否?なんでなんで。
りんごちゃんは挨拶をしにいっただけであって、決して邪魔をしたり迷惑をかけに来た訳ではない。
それはミョウジくんというらしい越してきた子もわかっているだろう。りんごちゃんは礼儀正しい。
挨拶程度に時間はそこまで必要じゃない。片付けくらいなら、少し手を止めれば済む話だろう。
つまり、ミョウジくんとやらは忙しいから会えなかったのではない。りんごちゃんと会いたくなかったから、忙しいのを理由に会うことを拒否したのだ。

なぜだろう?
人見知りなのか恥ずかしがりやなのか。はたまた引きオタやコミュ障か。それとも中二病患者なのか?
前者の二つはともかく、後の三つだとしたら仲良くなるのは少し難しそうだ。最後のは正直あんまり関わり合いになりたくないとまで思う。

いやいや、そんなことよりも。
りんごちゃんはこの日をとても楽しみにしていたのに、見事にその期待を裏切られてしまった。
幼なじみとして、友人として、見過ごせるわけがない。
いや、りんごだけではない。まぐろだって楽しみであった。
一緒に会いにいくことはできなくとも、帰ってきたりんごの話を聞くことを心待ちにしていたのだ。
こんなの、黙っていられる方がおかしいでしょ?

「うーん、そうだね。りんごちゃん、それなら彼に仕返しをしようか」
「なにか幼なじみが怖いことを言い出した!まぐろくん、自己完結して変な提案出さないでよ」
「ゴメンネ!」

いつもの調子で軽く謝ってから、まぐろはりんごに計画を話した。
覚悟しておいてね、ミョウジくん。





そもそもぷよキャラが短気じゃない方がおかしい

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