我 ら 白 鯨

06



初戦は、爆豪勝己のいるチーム対緑谷出久のいるチームだった。
爆豪勝己と緑谷出久は幼馴染らしいのだが、その関係は最悪そのものと言えるだろう。
昨日の個性把握テストでも爆豪勝己が緑谷出久に殴りかかろうとして相澤先生に止められていた。

そんな仲の悪い関係である2人が戦うことになり、面倒なことになっていた。
気性の荒い爆豪勝己は緑谷出久を潰そうと暴走。
緑谷出久は何とかそれを上手く対処しながら授業のことも忘れずにことを進めていた。

結果、授業的には緑谷出久が勝利したが、2人の喧嘩としては爆豪勝己が勝った。



2人の戦闘でビルが随分と壊れてしまった為、他のビルに移動し今は授業を再開していた。
緑谷出久の個性はどうやらハイリスクハイリターンなようで、先程使った際にビルを一振の拳でぶっ壊した結果自身の腕をぶっ壊し、保健室へと運ばれていった。



「さて、じゃああとは鯨波少女だけだね!」

「はい」



前の試合の評価が終わったところで、最後に私がやる番だ。



「それじゃくじ引き引くよ!
まずは鯨波少女とペアになる子を選ぼう!」



オールマイトはんん〜〜〜〜、とかき混ぜた後、ズボッとまずは中から紙を取り出した。



「ペアになるのは、切島少年だ!!!」

「おっしゃ!!!よろしくなー!」

「うん、よろしく」



続いて対戦チームを選ぼう!と取り出したのは『敵組』の箱。
たまたま『敵組』のものではあるが、ただここに入っている先に組み分けされたチームを当てるだけらしい。



「よっと、対戦チームはB!!!」



Bか。Bは確か、焦凍のところ。
さっき瞬殺して秒で勝ったチームだ。



「げ!Bだって。どうする鯨波…」

「海砂でいいよ。
…どうするもなにも、潰すだけでしょ?」

「あれ、海砂ってそういうタイプ??」



「あとは『ヒーロー』か『敵』かってところだけど…さっきBチームは『ヒーロー』をやったからね、逆をやってみるかい?」

「なんでもいいです」

「鯨波少女はどっちがいいとかはあるかい?」

「どちらでも構いません」

「あ、そう?じゃあBチームは『敵』。
鯨波少女たちは『ヒーロー』ね!」



立場も決まったことから、インカムを貰いそれを耳に装着し、他の生徒たちはモニタールームへ。
私たちはスタンバイをする。



「そうだ。俺、切島鋭児郎!よろしくな!
好きに呼んでくれていいぜ!」

「そう。じゃあ鋭児郎って呼ぶわね」

「お、おう」

「?なに?」

「いや、俺苗字呼ばれることがほとんどだからなんか、新鮮って言うか?」

「…ふふ、そうなのね」



そう言って笑うと、鋭児郎は恥ずかしそうにカァと顔を赤らめた。
鋭児郎は随分とウブな子らしい。
年相応で可愛いものだ。



「そ、それで作戦とかどうする?」

「そうね…真正面から突っ込んでみる?」

「!いいな!漢らしいぜ!
でも、正直轟超強くね?それでうまくいくか?」

「だからこそよ」

「え?」



私は、ニィと笑みを深めた。



「自分がこのクラスで一番だと思ってる彼を潰すの。お前は井の中の蛙なんだ、ってね」



私たちからすれば彼はまだまだひよっこ。
親父からすれば私たちでさえもひよっこと言われかねないのだ。
私たちでひよっこならまだまだ彼らは卵そのもの。



「このクラスの最強は私よ」

「…………か、かっけぇ……」

「?なに?」

「あ、いや!なんでもない!
じゃ、始まったら中入って、戦闘だな!」

「ええ。いざって時は私が鋭児郎に合わせるわ。
でもそのいざって時が来なければ私はそのまま突っ切るわね?」

「わかった!」



そして、インカムからスタートの声が聞こえた。
その声に私はまた笑みを浮かべ、顔にかかる髪を後ろへと流す。



「さぁ、鋭児郎。楽しい楽しい戦闘のお時間よ」

「っしゃ!」



中へと踏み込み、見聞色の覇気を使う。



「4階ね」

「そんなのわかんの!?」

「ええ。階段はここしかないし…
時間がもったいないわ。さっさと行くわよ」

「お、おお!」



私はいつものようには駆け上がってみたが、速すぎたようで直ぐに鋭児郎が見えなくなってしまった。
それに気づき、私は少しスピードを落とし鋭児郎に合わせる。



「海砂、は、速すぎね!?」

「鋭児郎が遅いのよ」

「俺そんな遅い!?」





「ここから先は行かせないぞ」



私たちの行く手を阻んだのは、障子目蔵。
異形型の生徒だ。



「先へは行かせない、ねぇ」

「海砂!お前先にいけ!俺が障子相手する!」

「あら、本当?」

「おう!」

「それじゃあお言葉に甘えようかしら」

「行かせないと言ったはずだ」



その言葉に海砂はニコリと笑うと、一瞬にして姿が消えたと思いきや障子の真後ろに背を合わせるようにして立っていた。
それには切島も、障子も、等しく驚く。



「一瞬で先へ来てしまったけど、さっき行かせない、とか言ってたのは気の所為かしら」



「っ!」



振り向いた時にはもうそこに姿はなく、階段を駆け上がる音が響くだけだった。



「余所見してる余裕あるのか、よ!!!!」

「!」
















海砂は数段飛ばして階段を駆け上がる。
そうすればすぐに4階へとたどり着き、扉を一気に開くと同時に襲ってきたのは氷の塊。
覇気を纏った蹴りで砕くと次の手としてビルが…おそらくこのフロアだけが凍った。
初回のあれと同じだ。



「動くと足の裏の皮がずる剥けるぞ」

「それが何?」

「!?」



ボ、ボボッ、ボ



足の裏に再生の炎が灯りながら、私は焦凍の懐に詰め寄った。
一瞬の出来事であったそれに焦凍は目を見開きつつも何とか反応するが、もう遅い。

恐らく氷を放とうとしたのであろう片手を掴み一気に畳み込む。
焦凍の体をコンクリートを氷でコーティングしたとても痛いであろう地面に叩きつけて腕をねじ上げた。



「ぐっ…!!」



素早くその手に捕獲用テープを巻きつけ、乗り上げた状態から彼の耳元で笑いながら言ってやった。



「焦凍は自分がこのクラスで最強だと思ってるようだけど、それはただの勘違いよ。
ここでの最強は、この私。君は井の中の蛙よ」

「っ、お、前っ」

「現に、焦凍は私に手も足も出なかったしね。
ふふ、世の中の広さに気づけてよかったわね」



私は、ポン。と核兵器の形をしたハリボテに触れると、インカムからヒーローチームの勝利が告げられた。
それを聞き、私は焦凍のテープを千切り、1人早くその場から出ていこうとする。
焦凍はネジ上げられた腕をどこか痛めていないかと回したりしながら、私のことを睨んでいた。



「海砂」

「…なに?」

「お前が、最強だと?」

「ええ。私はこのクラスの誰よりも強いわ。
焦凍よりも、戦闘センスがあるあの爆豪勝己よりもね。君たちでは足元にも及ばないくらいに」



焦凍を背にしたまま、私は言葉を返す。



「………………」

「誰への感情かは知らないけど、その憎悪の顔。
醜いわ。憎悪に駆られ力を求めてもその力は身にはつかない。よく考えることよ」

「お前に、何がわかる」

「分かるわけないでしょう。私は君でもないし、君のそんな事情、知りたくもないもの。
まぁ話すって言うなら聞くけど」

「…………………」

「恨みや憎しみで身を滅ぼすものは多い。
それに焦凍はヒーローを目指すのでしょう?
ならそのヒーローらしからぬ感情を捨てろとは言わないけど、隠して押さえることね」



それじゃ先に下へ行ってるわよ。と私は手をヒラヒラさせてそこを後にした。




























戦闘訓練の評価は最高得点をたたきだした。
私はすまし顔をしながら内心めっちゃガッツポーズし、皆からも凄かった、かっこよかった、と褒められる。
褒められるのは好きだから、私はにこにこしながら感謝を述べた。



制服に着替えたあと、クラスのみんなは反省会をすると言っていたが残念ながら私はそれを丁重にお断りした。
私は家での仕事にも追われているのである。
残念だがそんな暇はない。



「あっはっはっ!!そりゃそうだろ!
海砂にただの学生が勝てるわけねーだろって!」

「グラララ、ちゃんと手加減してやったんだろうなァ?」

「ちゃんとしてたわよ?エースじゃあるまいし。
でも思ったより弱いんだもの」



今日の出来事をサッチと親父に話したら、それはそれは愉快と言いたげに笑われた。



「なんだよ、俺じゃあるまいしって!
つか、海砂って副隊長ではあったけど、強さはバリバリ隊長クラスだろ?ヒーロー科の生徒つったってこの間まで普通のガキだぜ?」

「あんたこそ何よ。
さも俺は手加減できますみたいな顔して。
エースの方こそ手加減できなさそうじゃない」

「いや、俺の方がマシだろ。
一応海出る前、フーシャ村いた時はルフィいたから手合わせする時はそれなりに手加減してたし。
まぁメラメラの実食ってからは仲間と手合わせする時たまに火加減間違えっけどよ」



エースは自信満々にそんなことを言うが、私はツッコミを入れる。



「エースの弟は規格外よ規格外。
あれは普通じゃないわ。まずガープがおかしい。
あの子に手加減してたとしてもこっちの子に同じ程度の手加減じゃボコボコにして終わりだわ」

「……」



そうツッ込んでやれば、心当たりがあるのかエースは微妙な顔をしている。
私は思わず呆れ顔をしてしまった。



「………その顔、今日誰かボコボコにしたのね」

「………物間を、ちょっと、いや、だいぶボコっちまった」

「誰かは知らないけど、ご愁傷様」



私とエースが余程面白かったのだろう。
サッチはずっと笑って、しまいにはテーブルまでバンバン叩くし親父もテーブルに肘をついてクツクツと体を震わせている。



「…こんな笑わなくてもいいじゃんかよ」

「そうよねぇ」

「ヒィー、おもしろ。つーか元の世界の海賊トップレベルの戦闘能力も異常だったんだろうな。
親父も親父だけど、やっぱ上位に鎮座してた奴らはみんな正直ありゃバケモンだろ」

「本当よ。カイドウとかビックマムとか。
身長も一体どうなってんだか知らないけど」

「四皇はやっぱ別格だよな〜」

「グラララ、お前らも俺の船に乗ってたんだ。
四皇のクルーだったのはどうなんだァ」

「「「そうだけどさぁ」」」



私たちの声が重なった。



「まぁ、とりあえずそろそろお開きにしましょ?
親父も酒はここまで」

「あぁ?飲み足りねぇ」

「親父?ダーメ」



親父のそばに寄って、また酒を注ごうとする手に手を添えて掴む。
まるで色仕掛けをするかのように体も擦り寄せて優しい声になるよう心がけて話しかけるのだ。



「これ以上飲んだら以前のように体壊しちゃう。
病気で苦しんでる親父を見たくないの。ね?」

「………グラララ、俺が娘に弱いのを突いてきやがって」

「ふふ、美女に弱いんじゃなくて?」

「美女の娘に弱いんだァ」

「あら、嬉しい。ありがとう親父」



酒のボトルをするりと取ってから親父の頬にキスを贈る。

親父も男して美女が好きだ。
前世のナースを見れば分かるし、美女の中でもスタイルがいいのも大好物。
私は海賊女帝には及ばないが、これでも白ひげの唯一の女性戦闘員であり、美女ということで知られていた。
今まで何度も告白だってされた。
顔が良いのはさすがに自分でも理解している。



「明日も仕事でしょう?
疲れてるんだから早く休んで、親父」

「仕方ねぇなァ。
可愛い娘に強請られちゃそうするしかねぇか」

「大好きよ、親父」

「グラグラ…俺もだ」



親父はさっきのお返し、と言わんばかりに私の額へ唇を落とすと自室へと向かった。
私はまさか親父からキスをしてくれるとは思わず、してくれた額を抑えて呆然と親父を見送る。



「…………無理。好き。親父好き。結婚したい」

「海砂ちゃーん?お兄ちゃんにも擦り寄ってくれていいんだぜぇ?」

「サッチも明日早いんだから早く寝れば」

「冷たッッ!!!親父との差が激しい!!!!」



うるさく騒ぐサッチは無視だ。
エースへと視線をやり、そばに行くと口の脇に付いていたクズを取ってあげる。
どうした?と言いたげに見上げるエース。



「エースも今日勉強はしたの?」

「おう!ちゃんとやったぜ」

「そう。偉いわね」

「ニシシ」



癖のあるその髪を撫で、優しく頭も撫でればエースは嬉しそうに笑った。
はぁ、可愛い。弟が可愛い。



「いや、お兄ちゃんに対して塩対応がすぎる。
弟になぜにそんなに甘い」

「エースは弟だし可愛いもの」

「オレ可愛いって言われるのは好きじゃねぇんだけど」

「エースがルフィくんに可愛いって思うのと一緒よ」

「…………そりゃ仕方ねぇわ」

「納得が早いんだよお前は」



お前ら俺の扱い本当雑すぎんだよなぁ。とぶつくさ文句をたれ始めたサッチにエースは「だってサッチはそういう担当だろ」と返し、「そういう担当って何????」とサッチは心底不思議そうにしていた。
私はそれにクスクスと笑った。



「大丈夫よ、サッチ」

「何も大丈夫じゃねぇよサッチさんの心は!」

「私もエースも、サッチが大好きよ?」



いつも美味しい料理をありがとう、と感謝を述べて微笑めばサッチはキョトンとしつつもどこか小っ恥ずかしそうに頬をポリポリかいて、おう。と返してくる。



「感謝され慣れてないのバレバレ」

「サッチが照れてるところ見ても気持ち悪いだけっつーかさ」

「俺の感動を返せ!!!!!」



ダイニングでは、今しばらく笑い声は絶えなさそうだ。


























そうだ。サッチ、出来た書類後で部屋に持っていくからよろしく。

おー、いつも悪いな。学校あんのに。

いいのよ。お互い様でしょう?
それに何より適材適所よ。

俺なんもしなくていいんだよな??

逆にお前なんか出来んのかよ。
料理と書類関係で。

イモ洗うくらいはできっかんな俺!!

船の見習いかお前。




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