05
翌日から、授業は始まった。
ヒーロー科とはいえ、ここは進学校としても知られる頭のいい学校。
ヒーロー科だからと勉強を疎かにすることは許されないため、ヒーロー科目が入るが故に授業の進むスピードは異常。
午前中が通常科目、午後にヒーロー科目が来る。
しかし通常科目も沢山あるので全ての科目が駆け足どころが猛ダッシュで進んでいくのである。
「はぁぁ…疲れた」
なんとか午前の授業を終え、昼の時間となった。
まだ入学2日目でこんなハードな授業スピードだと流石に疲れる。
「でも海砂さんは全然普通についていけていたじゃありませんか?」
「ついていけるけど、やっぱ一番初めだと気が張るっていうか」
「そうなんですね」
現在、モモと食堂で並んでいた。
食券は既に出していて、今は出てくるのを待っている。
「はいお待たせ!」
「ありがとうございます」
「さ、海砂さんどこに座りましょ………なんですの、あれ」
「え?なに?」
「あれです。あそこだけ料理の量が異常に並んでいる上に、人が誰も寄って来てないですわ」
「………………」
長いテーブルを埋め尽くすような山盛りな料理。
そしてそれに飛びついているのは、我が弟。
「……エース」
頭痛がした気がした。
「あれ、あの方は…昨日海砂さんを連れて行った…海砂さんの彼氏さんですか?」
「彼氏?やだ、違う違う!あれは私の弟!」
「え!?ご姉弟だったんですか!?」
「血の繋がりはないけどね。でも私の弟よ」
私は立ち止まっていた足を前へと出し、エースのものに近づいた。
「エース」
「ふごっ?んぁ、ふんごがんう!」
「飲み込んでから話してくれる?」
「ゴクンッ、海砂じゃねーか。お前も飯か?」
「それ以外に何があんのよ。
にしても、本当に相変わらず凄い量ね」
「ここの飯すげー美味いんだぜ。
まぁサッチのもすげー美味いけどさ!」
「この片付いてるのさげてきて、ここ私たちに座らてくれないかしら」
「!おう、いいぜ!ちょっと待ってろ!」
山積みになっている空の皿を両手に乗せて返却口に返してきた後、台拭きを持ってきて素早く拭いたエースはニンマリと笑う。
「これでどうだ!」
「エース台拭きでテーブル拭くってこと出来たのね」
「バカにしすぎじゃね!?つーか汚ぇままにしてたらお前もサッチもすげぇ怒るじゃねぇか」
「つまり私とサッチの教育の賜物ね」
頑張った甲斐があったわ。と思いつつモモを呼んでそこに座った。
モモはエースに挨拶をし、名乗るとエースも一旦食べる手を止め、名乗り腰を90度曲げた。
「ご丁寧にどうも。オレは鯨波 海炎。
エースって呼んでくれ。以後お見知りおきを」
「え…え、エースさん、と呼べばよろしいのですか?
あだ名かなにか?」
「まぁそんな感じだ。
むしろ名前呼ばれても反応しねぇ可能性の方が高い」
「名前呼ばれて反応できないなんて…変わった方ですわ」
モモの反応は当然だ。
名前を呼ばれて反応できないのは普通はありえないのだから。
だが私たち家族ですら今世の名前を呼んでいないのだから反応できなくても不思議ではない。
「ま、モモ。早く食べて教室戻ろ?」
「ええ、そうですね」
食べ終わったあとエースに一言言ってから私たちは教室に戻ってきた。
これからやるのはヒーロー基礎学。
どんなことをやる、という事前の連絡もないため何をするのか分からないし、誰が先生をするのかすら分からない。
だからこそ、教室ではソワソワとした空気が漂っていた。
「……………」
何をするにしても、真面目にやるだけだろう。
ソワソワする理由があまり分からない私はのんびりと窓から外の景色を楽しんでいた。
そして、待ちに待った、チャイムが鳴る。
「わーたーしーがー!!」
廊下からでかい声が聞こえる。
声と、言葉からしてただ一人しかいない。
「普通にドアから来た!!!」
やってきたのはオールマイト。
世界中で大人気の、ヒーロー、オールマイト。
人気ナンバーワンヒーローだ。
残念だが私は親父推しだが。
「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ!!単位数も最も多いぞ!」
はてさて、何をやることやら。
「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」
バンッと出されたBATTLEと書かれたカード。
初っ端からぶっ込んできた雄英に私はへぇ。と笑ってしまう。
中には少し気負いしている子もいれば、戦うことに意欲的な子もいる。
戦闘となれば怪我をする子もいるだろうが、どんなやり方で戦闘訓練をするのだろうか。
「そしてそいつに伴って…こちら!!!
入学前に送って貰った『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた…戦闘服!!!」
「「「「「おおお!!!!」」」」」
テンションの上がったクラスメイトたちは立ち上がったりしながら歓喜の声を上げていた。
「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」
「「「「「はーい!!!」」」」」
戦闘服の入ったケースを受け取ると、みんな一目散に更衣室へと向かっていた。
それだけ頼んでいたこれが気になるということなんだろうが、あまりのはしゃぎようでなんだか面白い。
私も更衣室へと移動し、ケースを開けて、制服を脱いでゆく。
「海砂さんはどんなものにしたんです?」
「動きやすさを重視したものよ」
どんな格好か、と言われれば前世の服装、と答えることが出来る。
というか、うちの人間は皆前世と同じ格好だ。
だから私も同じ。
まぁ、機能性はだいぶ異なっているのだろうけれど。
前世のはただの布だから。
前世同様、へそ出しの胸の部分がレースアップになっているものに細身のパンツ、そして腰にサッシュを巻く。
レースアップのやつにブラは必要ないのでちゃんと取っている。
サッシュには親父のジョリーロジャーが印刷されており、それと自作した同じジョリーロジャーのネックレスも付け、高すぎないヒールを履く。
そして髪を最後にクシを通し、終了だ。
ケースに入っていた会社からのコメントに目を通すと、しっかりと要望通り変化した際も服は破れたりすることなく変化するそうだ。
布の強度もしっかりとしている。
よほどの力をかけなければ破れない素材。
「よしっ、と」
「!海砂さん、カッコイイですわ…」
「ん?そう?ありがとう…
って、モモすごい格好。レオタード」
「私の個性上露出しなきゃダメですし、これでも抑えた方です」
「ワァオ」
私よりも背の低いモモ。
だからムチッとした谷間がしっかりと見える。
…まぁ、人のことは言えないのだが。
私の胸はモモよりあるから。
「2人して発育暴力すぎる」
「響香」
私たちを見てそんな言葉を呟いたのは、耳郎響香。
昨日少し話をした。
「何…?一体何を食べたらそんなことになるの?」
「何って…私は特に変わったものは食べてないと思いますけど…」
「私も同じく」
「世の中は不平等だ。
っていうか!海砂のスタイル一体何なの!?
ボンッキュッボンっていうスタイルしてる人初めて見たんだけど!?」
「?そう?」
前世では結構居たから、感覚がおかしいのだろうか。
「よっぽどグラビア雑誌見るより海砂見てる方がグラビアだよ」
「ちょっと意味わからないわ」
とりあえず、行こうか。と女子メンバーで集合地になっているグラウンド・βへと向かった。
▽▲▽▲▽
「格好から入るってのも大切な事だぜ、少年少女!!
自覚するのだ!!!!!
今日から自分は…ヒーローなんだと!!」
集まったクラスメイトは、各々個性的なコスチュームに身を包んでいた。
「さあ!!始めようか有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
私は、みんなのコスチュームを観察するように見渡す。
中でも目を引いたのは、爆豪勝己のものと、体の半分を氷のようなもので覆っている人。
あれは、誰だ?
「君」
「?」
「私は鯨波 海砂。君は…」
「轟焦凍」
「…ああ!斜め前の!」
「…気づいてなかったのか?」
「そんな顔どころか体を半分以上隠してたら分からないし、君のことは後頭部くらいしかちゃんと見ていないもの」
よろしく、と言えば彼もよろしく。と答えた。
焦凍のテンションが、どうも低い。
たぶこれが常時のテンションなんだろう。
あまり感情の浮き沈みをしない子なんだろうか。
私の周りには浮き沈みの激しい人が多かったからなんだか、新鮮だ。
「変わったコスチュームだね」
「…まぁ。お前のはなんというか、私服に近いな」
「ええ。別に戦闘服に特別なものは求めてないもの。
皆みたいにあんな風に張り切って書けなかったっていうのもあるけどね」
オールマイトの方に向き直ると、ちょうどこれから戦闘訓練についての話をするらしい。
「敵退治は主に屋外で見られるが統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売…
このヒーロー飽和社会、ゲフン。
真に賢しい敵は屋内にひそむ!!」
確かに、親父やサッチたちも言っていた。
外で暴れてるヤツらよりも屋内にいる敵のヤツらの方が何かと面倒だと。
結局はボコボコにしているが、頭の回るヤツらが多いんだそうだ。
「君らにはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
「「「「!!?」」」」
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知るための実践さ!ただし今度はぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
確かに、入学の試験でもあったロボは力任せに壊すことが可能だった。
あまり考えずとも簡単だった。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ぶっ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントヤバくない?」
「んんん〜〜〜聖徳太子ィィ!!!」
各々疑問に思ったことや自分の好きなことばかり話し出した。
流石のそれには私も笑ってしまった。
「ふふっ」
自由なクラスだな。
オールマイトはカンペを見ながら細かい設定やルールを話した。
今回の設定としては『敵』がアジトに『核兵器』を隠しており『ヒーロー』はそれを処理をする。
『ヒーロー』は制限時間内に『敵』を捕まえるか『核兵器』を回収し、『敵』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーロー』を捕まえる。
といったものだった。
設定が随分とアメリカンだ。
因みに組み合わせはくじで無作為に選ばれる。
「まだなにか質問はあるかい!?」
「はい」
「はい!鯨波少女!」
「このクラスは21人クラスです。
ツーマンセルでチームを組むなら1人余るわ」
「いい質問だ!だから今回、この戦闘訓練を3人だけ2回やることが出来る!」
これもまた無作為に選ばれるため、準備だけしておくように。との事。
その後、くじを引いた結果、見事にボッチを引き当てたのは、私だった。
おっ、ラッキーくじを引いたのは鯨波少女か!
ボッチくじ引いたのは私です。
ボッチくじなんて言わないの!