我 ら 白 鯨

04



個性把握テストについては、私は3位だった。
握力とボール投げがだいぶ足を引っ張り、3位という微妙な結果になってしまった。
といっても、足を引っ張ったものだって普通の女子よりはだいぶ上なんだろうが、ここはヒーロー科。
私と同じくらいの人は結構いたのだ。

持久走や立ち幅跳びは両腕だけ翼に変えて飛んだ。
立ち幅跳びに関しては∞判定を貰え、翼を出したらたくさんのクラスメイトにその個性は一体なんだ、と質問攻めにあったものの、私はニッコリと笑う。



「ライバルに手の内を明かすつもりは毛頭ないわ」



そう言ってやれば、全員がピシリと固まった。
ここにいるのは全員ライバルだ。
クラスメイトである前に、私にとっては競うべきライバルなのである。

その時、先生がぽそりと"まともなのもちゃんといたか"と言った気がしたが、本当かどうかは分からない。



そして計測が終わりると入学式も終わっていた。
見事に出られなかった。
親父たち来れなくてよかった…



「海砂さん!」

「モモ?」

「海砂さんの個性、何なのかはわかりませんでしたが、とても綺麗でしたわ!」



にっこりと笑って、モモは言う。
だから私のつられて笑みをこぼした。



「ありがとう」

「個性について、話す気はないんですものね」

「このクラスで生活していればいずれバレるのは必然。そんな急いで話す必要もないでしょ?」

「まぁ、そうですわね」



すると、モモはなぜ自身の個性について話した。
モモの個性は『創造』
自身の体の脂質を利用し、生物以外のあらゆる物を作り出すことが出来るらしいが、あくまでも分子構造まで理解してなければならないらしい。
これはまた難しい個性だ。
そして何より、頭のいい人でしか上手く活用ができない個性だろう。



「難しい個性だね」

「ええ。でも私は分からないことをしっかりと追求し解決するの昔から好きなんですの。
だからこの個性はとても気に入っていて」

「へぇ」



ああ、今の発言、エースに聞かせてやりたいものだ。
分からないことを分からないままにするからいつまで経っても分からないままなのだからちゃんと解決すれば何とかなるのに。
モモはそれを自分でなんとかできる人なのだろう。



「海砂さんのあの個性は…確か腕が翼になってましたよね?」

「ええ」

「鳥に変身する個性、とか。
いや、でもあの翼は炎のようでしたわ」

「ふふ」



全て、正解である。
あれは翼だし、炎でもある。
ものを燃やすことは出来ないけれど。



「頭のいいモモの頭で考えることだね」



教室ではクラスのみんなが多くの人とコミュニケーションを取っていた。
あんな始まり方をしたが、やはり皆元気で明るい子も多く、せっかく同じクラスになったのだからと仲良くしたいのだろう。
一部帰った人もいるがほとんどの生徒が残っている。

と、その時だった。
バンッと教室の前の扉が荒く開いた。



「海砂!!!!!お前なんで入学式いねーの!?」

「エース」

「オレ予想外すぎてビビったんだけど!?」



突然現れたエースにクラスメイトたちはえ?誰??とポカンとしているがエースは気にせず中へとやってきて私の元へと来た。



「もう帰れるの?」

「帰れっけどさ。なんでA組いなかったわけ???」

「個性把握テストをやってたのよ」

「なんだそれ」



聞き馴染みの無い言葉にエースはコテンと首を傾げ、その様子に私はクスリと笑う。



「エースもいつかやるはずよ。近々ね。
まぁそれはそうと帰るなら帰りましょう?
それに写真も撮って2人にもちゃんと送らなきゃ」

「あ、そうだった。海砂の荷物これだよな?」

「?ええ」

「んじゃ、帰ろうぜ!」

「ちょ、エース!」



私の荷物を自分が担ぐ荷物のように担ぎ、空いてる片手では私の手を握って引っ張る。
全く悪気のないニパッとしたエースの笑顔には、本当毒気を抜かれてしまう。



「モモ、また明日ね」

「え、あ、はい。また…」

「そうだ。来る時見つけたクレープ屋行くか?海砂食べたそうだったよな!」

「!バレてたの!?」

「?海砂甘いもん大好きじゃん」

「………クレープ屋に肉はないわよ?」

「海砂お前オレのことなんだと思ってんの????」



私は、登校中見つけたクレープ屋にいつか行きたいと思っていたことをエースにバレていたことが恥ずかしくて、なんとも言えないまま、帰路へとついた。




















▽▲▽▲▽























「「ただいま〜」」

「お帰りなさいませ、お嬢様、エース坊ちゃん」

「だぁから!その坊ちゃんってのやめろってば!!」



帰宅した私たちを待っていたのは、この大きな屋敷の管理を一人でしている超有能執事 ネフェロ。
本当のことをいえばただのお手伝いさんを雇うつもりだったのだが、たまたま応募してきた一人に外国の貴族の屋敷で執事長として働いていたというネフェロが応募してきたのだ。

ネフェロは今年で74歳と高齢だが、見た目も性格も素敵で、完全なイケおじいちゃんだ。
元々も職場は引退ということでやめたものの、やはり働きたいと思ったそうで、ならば心機一転 海外に行っちゃおう!と飛び出てきたらしい、母国を。
行動力の塊だ。

因みにその才能も流石は長年執事としてやってきただけあって素晴らしい。
執事だが別に誰かに仕えているわけではなく、強いて言うのならばうちの家族全員に仕えてるようなものだ。



「ふふ、エース坊ちゃんはエース坊ちゃんですよ、この老いぼれからすれば」

「サッチのことはサッチって呼ぶのになんでオレだけ坊ちゃんなんだよ…」

「サッチ様は既にご成人もされておられますからね」

「…………」

「こらエース。そんな顔しないの。
成人するまでの我慢ってことよ、つまりは。ね?」

「海砂…」



エースははぁぁぁぁ。と深い溜息を吐いて、奥へと引っ込んでいった。
きっと坊ちゃんなんて呼ばれ方、前世ですらされたことがないのだからむず痒くてたまらないんだろう。
私もお嬢様という呼ばれ方に慣れるのに苦労した。



「登校初日はいかがでしたか?」



ネフェロは私の荷物を受け取るとそう質問してきた。



「そうね…入学式には参加出来なかったわ」

「え…?どういうことです?」

「どうやら、私の担任は曲者らしくて」



クスクスと笑いながら今日あったことを話してみれば、ネフェロはぽかんとした後に同じように笑った。



「はは、それはそれは。
変わった方が担任になられましたなぁ」

「ええ、本当に」

「ですが、案外お嬢様にはあっているのではありませんか?お嬢様は合理的かどうか、というのをよくお考えになられますから」

「まぁ、そうね。
無駄な時間も嫌いではないけど、時と場合によるものそれは。基本は無駄にしたくないわ」



我が家は、洋式の家だ。
日本の靴を脱ぐという習慣はなく、海外のようにそのまま外靴で入るタイプの屋敷。
私はネクタイを緩めながらネフェロに振り返った。



「書類整理をするわ。
後で飲み物を適当に持ってきてくれるかしら」

「承知致しました」

「それじゃあ、よろしく」



さて、溜まりに溜まっている『モビーディック』の書類をでかしてしまおう。



「なぁ海砂〜」

「?なに?エース」



階段をあがっていると、上からエースが見下ろしていた。



「後で手合わせしねぇ?」

「あー…どうかしたら。
今から書類を片すから時間があるかどうか」

「うわ。またあれ?」

「仕方ないじゃない」



ヒーロー事務所『モビーディック』
言わずもがな、親父の作った事務所だ。
親父やサッチのヒーローとしての知名度はオールマイトやエンデヴァー並だが、だというのに事務所の従業員は親父とサッチしかいない。
その理由は、親父のお目に叶う人がいないのである。
事務所に入れる=前世で言うモビーに乗せる、と同意義であるためその為全く人が入らないのである。

因みに、ネフェロはそのお目に叶った超貴重な人で、人手が足りない時は『モビーディック』でも手伝ってもらっている。



「オレらまだサイドキックとかじゃねぇけどさ、海砂はもはや半社員だよな」

「書類整理できる人が全然いないんだもの」

「雇うにも、親父の好みに合うやついねーしなぁ」

「そういうこと。それじゃ私は部屋に籠るわ。
エースは部屋で予習でもしてなさいよ。
ヒーロー科は勉強も大変よ、きっと」

「大丈夫だって!」

「……後で私に泣きついても私は知らないわよ?」

「心配いらねーって!な!」



エースがそういうのならば私はあとはもう知らない。
好きにするといい。



「何かあったらネフェロに言ってね」

「おう」



すぐそこに自室の扉を開き、まずは制服から部屋着へと変えることにした。




























お嬢様、紅茶と茶菓子をお持ち致しました。

ええ。ありがとう。

…相変わらず凄い量ですね。机が書類で埋まって…

そうね。

やはり、書斎を作りましょうお嬢様。ここはお嬢様が気を抜かれる自室ですのにこれでは気など休まらないでしょう。幸い部屋は沢山ありますから、このネフェロにお任せ下さい。

…………。つくるなら快適なのつくってよ?

勿論です。完成まで少々お待ちくださいね。



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