我 ら 白 鯨

03



結果から言うと、私は受験に成功した。
そして、エースも首の皮一枚で何とか合格したが本人はそれが全然信じられず、親父に夢でないかを確認するために殴ってもらっていた。

親父に自主的に殴って貰いに行くってエース勇者。
親父も合格嬉しさに勢い余って結構な強さでエースのことぶん殴っていたと思う。
だって中々に吹っ飛んでいたもの、エース。

ハイテクな合格通知を貰って、親父たちと一緒にそれを見た時サッチには苦しいくらいに抱きしめられ、親父には目が回るほど頭を撫でられたのはいい思い出だ。



「さ、今日から雄英生になるわけだけど…エースは一体なにをしてるの?」



制服をいじってソワソワしているエースに私はそう話しかけてみる。
ソワソワの仕方からして入学式が待ち遠しいとかそういうわけではなさそうだ。



「………なぁ海砂」

「?なに?」

「………この時期に上服着てるの、すげぇ違和感」

「半裸族だものね、エースは」



中学の時もどえらい着崩していて、毎度先生たちに怒られていたらしい。
それも、見かけられる度に。
しかし一向に改善する傾向はなく、むしろ年々露出していったから先生たちも諦め、ちゃんとした席のときはきっちり着込むことを約束させて中学でもほぼ半裸族だった。

エースのせいで何度私が変わりに先生に謝ったかわかったもんじゃない。



「でも今日はちゃんとした式!
しかも、私たち念願の雄英生になるのよ?
少しくらい身だしなみちゃんとしたら良いじゃない」

「上なにも着ないのが俺の正装だろ!」

「開き直ってんじゃないわよ」



この馬鹿、と頭をひっぱたいていると背後からグラグラと笑う親父の声がした。



「「親父!」」

「朝っぱらから仲がいいことだなァ」



真新しい制服に身を包んだ私たちを見て、親父は似合ってると頭を撫でくり回してくる。
もちろん、私たちはそれを受け入れた。



「悪いなァ。お前たちの晴れ舞台、親として見に行きてぇんだがサッチも俺も仕事が入っちまってる」

「気にしないわ、親父。仕事だもの。仕方ない」

「そうそう!ましてやサッチは来ようが来まいがどっちでもいいし」

「んだとコラ!」

「イテッ」

「あらサッチ」



ペシンと可愛らしい音を立ててエースの後頭部を弱く叩いたサッチ。



「お兄ちゃんに向かってそんなこと言うんじゃありません!」

「いや、本当のことだしよ。そりゃまあ、親父に入学式来てほしいとは思ったけど、サッチは別に」

「お前俺への温度差が激しすぎねぇ??」

「照れ隠しよ、照れ隠し。
私は残念ね。サッチも親父も来れなくなったのは」

「帰ってきたら行けなかった分うんとうまいもん作ってやるから。とりあえず今日はそれで見逃してくれや」

「ええ。次何かあったとき、ちゃんと来てね。お兄ちゃん?」

「いいね今の。グッと来た」



本当、朝っぱらから馬鹿である。



「それじゃ、行こうかエース」

「おう!行ってくるぜ親父!サッチ!」

「行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」
































一応、学校説明会や入試の際には来たけれども…



「相変わらずでっけー学校だな〜」

「本当ね」



これが普通にただの学校だと言うのだから、とんでもない。
地方の遊園地より遥かに大きい敷地を都内に持ってるのだから、さすがとしか言いようがない。



「さ、行こうか」

「おう!」



エースと中へと入り、お互いに上靴を履いて1年生のフロアへと向かう。



「海砂はA組だったよな」

「ええ。エースはBね」

「一緒のクラスが良かったなぁ」

「私たちは姉弟だからね。
姉弟は基本同じクラスになることないじゃない」



今までだってそうでしょう?と言ってみたものの、エースは多分同じクラスになることがないからなってみたい、と言っているのだと思う。



「でもさ、別に双子でもねーんだし良くねぇ?」

「まぁ、確かに一卵性双生児だと顔がそっくりでどっちがどっちなのかわからなくなることはあるでしょうけど、私たちくらいなら、なんて思っちゃうのもわかる」



血筋的にはうちの家族は全く血縁はない。
養子縁組だから双子とかでもないので、そういうところはまだワンチャンあるのではないだろうか。
いや、ないか。



「B組だね。私あっちだからここで」

「おう!後で写真とろーぜ」



んで、親父たちに送ってやんねーと。と笑うエース。
その様子が可愛くて、私は私よりも背の高いエースの頭を撫でた。



「送ったら親父はすごく喜んでくれるだろうね」

「だよな!んじゃやっぱ送んねーと」

「うん。あとでね」

「おう!そんじゃ、式でな!」

「うん」



エースも別れて、A組の扉の前へ。
大きな扉をスライドさせて、中へと踏み込めば中には既に半分以上の生徒がいた。
流石は雄英のヒーロー科生徒というところか。
優等生が多いのだろう。

席を確認し、その席へとつく。
私の席は窓際の一番後ろで、のんびりとできる席なのはとても嬉しい。



「おはようございます」

「ええ、おはよう」

「私は八百万 百と言います。
これから一年間、よろしくお願いしますわ」

「私は鯨波 海砂よ。よろしく」



八百万 百さんか…珍しい名前だ。
とはいえ八百万と呼ぶには地味に長いし、突然名前なのもどうかとも思う。
どう呼ぼうか、ちょっと悩む。



「あの…海砂さん、とお呼びしても?」

「え?ああ、好きに呼んでもらって構わないよ」

「!では、海砂さんとお呼びしますね!
私のこともモモ、とお呼びください」

「名前で?」

「はい!」

「そっか。じゃあモモって呼ぶね」



そう言うと、モモはとても嬉しそうに笑った。
年相応に笑うモモは可愛い。

それからモモとは色んなことを話した。
どこの中学校出身なのか、個性はどんなものか、どんな教科が好きか、などなど。
個性についてはモモの個性が面白すぎて私の個性の話まで行かなかった。
モモの個性で盛り上がりすぎてそのまま別の話へ流れたのだ。





そうしていると、チャイムが鳴って先生が入ってくる…と思いきや前のドアのところで緑色の髪をした子を含む数人と、寝袋に入った芋虫のような人がワイワイしていた。
芋虫のような人がモゾモゾとそこから出て前に出てくると、猫背であまり覇気の無い目、ボサボサの髪に無精髭を生やしていた。



「なんですの、あれは。小汚い……」



前の席であるモモのつぶやきが聞こえたが、あれに現在私はまっったく衝撃など受けず、むしろ若干の親しみがある。
言わずもがな、海賊というのは小汚いやつの割合が非常に高い。
風呂なんてお前いつから入ってない?と聞きたくなるくらい臭いやつもたまにいる。
そんな環境にいたからか、あの程度の小汚さは余裕だ。



「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。
時間は有限。君たちは合理性に欠くね」



小汚い人は相澤消太と名乗り、ここの担任であることを明かす。
そしてそれに続いて言われたのは、体操服を着てグラウンドに出ろ、というもの。
私を含めてこのクラス全員の頭の上に疑問符が乗った。

しかし担任に言われればやるしかなく、私たちはなんで?と思いつつも体操服を取り出して着替え出すことにした。



















▽▲▽▲▽


















「「「「個性把握…テストォ!?」」」」



グラウンドに出て言われたのは、そんな事だった。
個性把握テストというものは聞き馴染みはないが、やることは要は体力測定のようなものなのだろうと推測する。



「入学式は!?ガイダンスは!?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

「…………!?」



確かに私は、早く親父やサッチの力になるべく卒業後すぐにヒーローとして働ける場所としてここを選んだ。
選んだけれども、これは…想像以上にクセがある。
これはこの先生だからなのだろうか。
入学式しないなんて一体どういうことだ。
このクラスの親御さんだって沢山来ていることだろうに。
全国から入学してくる子供を祝いに、そして子供の晴れ姿を見に来てるはずなのだ。



「何だか、変わったクラスに配属されたわね」



きっと帰る時にエースにも何か言われそうだわ。



そんなことを考えていると、これからやる個性把握テストについての説明に入っていた。
やはりこれからやるのは体力テストのようだ。
だが今までやってきたものは"個性"の使用は禁止されたもの。
だから今回やるのは"個性"使用ありのものなんだそうだ。

代表して爆豪という生徒がボール投げを試しに先生にやってみろと言われ、前へ出てきた。



「円から出なきゃ何してもいい。早よ。思いっきりな」



爆豪は軽く腕を延ばし、回したあとしっかりとボールを握った。



「んじゃまあ」



ゆっくりとフォームを取り…



死ねえ!!!



………一体誰に向かって死ねと言ったんだろうか。

爆発とともに飛んでいったボール。
爆発が彼の個性なのだろう。



「まず自分の『最大限』を知る。
それがヒーローの素地を形成する合理的手段」



中学の時は67mと言っていたのが、今回は705m。
個性が入るだけで本当に差が随分と出るものだ。
当たり前な話ではあるんだが。

自分の個性では何でいい結果が出せるものかと考えていると、だれかがこのテストを『面白そう』などと口走った。
その発言に私はふぅん、と目を細める。

これから人命を助ける仕事をする訓練をするというのにそのような心構えでいいと思っているんだろうか。
ヒーローは自分の命さえも投げ打って他者を助ける人もいる。
正直、そういう人こそ私はヒーローと呼べると思っている。
私は本気ですぐにでもヒーローになりたい、親父の隣で戦いたい。
だからどんな理由であれ、ここへ来たからには『面白そう』『楽しそう』といった簡単な感覚でやられるのは不快だ。

そう思ったのはどうやら私だけではなかったようで。



「…………面白そう…か。
ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

「!?」

「……あらら」



私は一人、クスクスと笑った。
担任もあの発言にはイラついたらしい。



「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

「「「「はぁああああああ!?」」」」

「生徒の如何は先生の"自由"。
ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」



あーあー、なんだか、面白いことになってきたじゃないか。

私だって、この体力テスト、面白そうだとは思った。
けれどそれを何も考えなしに口にするわけはない。
この担任がどんな人間なのか、それをわかっていないのにあれこれペラペラと思ったことを話すのは得策ではない。
だから様子見をしていただけ。



「楽しくなってきたわね」

「え!た、楽しいの!?」

「?」

「あ、私 麗日 お茶子!よろしくね」

「鯨波 海砂よ。好きに呼んで」



確かさっき入学式やガイダンスはないのかと質問していた子だ。



「さっき楽しい、って言ってたけど…」

「ええ、楽しいわ」

「ええ…私はもう、不安でいっぱいって言うか」

「そうなの?頑張って」

「緊張しないの?」

「緊張?なぜ?」



私は思わず首を傾げた。
私たちはまず50m走からやるためそちらへ移動する。



「なぜって…えーっと…」

「緊張するのは自分の力に自信がなかったり、覚悟がなかったりするからよ」

「えっ、そ、そうやけど…」

「私は自分の力に自信がある。負けない自信がね。
まぁ、トータルでってなったら分からないけど。
でもそこらの人に負けてあげるほど私は人は出来ちゃいない」

「え??」



測定が始まった。
順番を待ちながら、クラスメイトたちの走りをただ、眺める。

この距離なら走った方がいいわね。



「それに何より、蹴落とし合いって結構楽しいわよ?」

「ええ!?!?」

「ふふ」



戦うのが好き、ねじ伏せるのも好き、論破するのも好き。
何事でも私は勝ちたい。
勝利への貪欲さはうちの海賊団の中でもダントツだった。
けれど知略や知識ではマルコにいつまでも勝てず、酒の量ではワクのイゾウに勝てず、美しさでは海賊女帝に勝てない。
勝ちたくてたくさんの事を学んで、練習して、頑張るけれど、勝てない人には勝つことは出来なかった前世。
根本は変わっていないのにこの世は昔のように大っぴらに喧嘩することも出来なければ未成年で飲酒もできず、張り合えるやつがいない。
はっきり言って、何もかもがつまらなかった。



「……ずっと、言われてみたかったのよね」

「海砂ちゃん?」



私たちが親父が大好きな理由。
もちろん親父の人柄や人間性というものに惹かれているのはもちろんだが、元にあるのは一番最初に抱いた感情。
"憧れ"だ。

親父はかつて、『最強』と呼ばれた男。
だからいつか小さなところだけでいいから、『最強』になってみたいと常々思ってきた。
前世のモビーでは私より強いひとは何人もいたし、格上なんぞモビー以外にも山のようにいるような世界だった。

でも、ここは違う。
同学年に戦うことに慣れている人はおらず、勉学に関してもいくらでも上位に立てる。
いつどこで最強になれるかは分からないけど、とりあえずまずはこの小さな世界で私は親父と同じ『最強』になってみよう。



「お茶子」

「呼び捨て!あ、いや別にええよ!?
いきなり呼び捨てでびっくりしただけね!」

「先生あなたのこと待ってるわよ。凄い表情で」

「え?うわ!!!ごめんなさい!!!!」



バタバタ走っていくお茶子を見て、小さく息を吐き出す。
なんかもう、面倒だからみんな呼び捨てでいいか。



「…あの爆豪とかいうガキの鼻っ柱叩きおるのも楽しそうだわ」



私は一人、最強計画を立ててニコニコと笑っていた。

























何か面白いことでもあったのか?

?いいえ。何もないわ。

常闇 踏陰だ。

踏陰ね。海波 海砂よ。


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