我 ら 白 鯨

02



あれから親父に正式に引き取られて、だいたい半年くらいがすぎた頃、いきなり親父とサッチがおくるみのように布を被せて人を連れてきた。
その時は海賊時代の名残かなんかで人攫いでもしてきたのかとつい勘違いして大騒ぎした。

だが、その連れてきた人物を見せられると、その大騒ぎもピタリとやんだ。
だってそいつ、エースだったから。

エースは泣き腫らした顔をして私を見て、またブワァァァッと泣きじゃぐった。
私に抱きついてきたエースを受止め、服をびっしゃびしゃに汚されながらも、私は可愛い弟さえもここに来たのかと、嬉しさ反面悲しみもありながらもエースを優しく抱きしめるしかなかった。

エースはただごめん、ごめんとひたすらに謝っていた。




どうやらエースは親父たちが出動した仕事で見つけたらしい。
今世のエースの家族はヴィランに一家皆殺しにされたようで、たまたま公園に遊びに行っていたエースだけが生き残ったとのこと。

いや、エース今世でもそんな超悲しい生い立ち!!とついエースをぎゅうぎゅうに抱きしめてしまった。

親戚がいたものの、親戚たちはエースを引き取ることにとても消極的でそのまま預けたところでたらい回しにされるのがオチだと親父は悟ったらしい。
だからいつの間にか養子縁組を組んで掻っ攫うようにして連れてきたんだとか。







こうしてエースもまた今世でも家族になったものの…私の一番の驚き。
それは私とエースが今世では同い歳である事だ。
サイズ感からしてもしかして…と思ったとも。
でもまさか、と思うじゃないか。

前世ではあの戦争の時、エースは20歳、私は三十路の女だった。完全に可愛い弟分だったんだ。
なのに急にタメですと言われても受け入れられるわけないだろ。

でもエースはニカッと笑って言った。
「海砂はやっぱ姉ちゃんって感じだよな!」と。
ということで一応私が姉という形で納まった。
なんなの?エース可愛い。















そうして、数年の月日が流れた。



「エェェェェスゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!」

「ぎゃああああああああああぁぁぁ!!!!!!!」



今日も、このでかい屋敷にサッチの怒鳴り声とエースの叫び声が響いた。



「………はぁぁ。今日もエースつまみ食いしたの?」

「グラララ、飽きねぇなァ」



今日は非番らしい親父とサッチは珍しく家にいた。
私はリビングで勉強をし、親父はのんびりと私の様子を見ている。
どんな勉強をしているのか気になるらしい。



「相変わらず海砂はマルコに似て勤勉だなァ」

「…一番隊の奴らは大体そういうタイプが多いじゃない」

「その中でもお前とマルコはありゃ病気だって他の隊長らは言ってたぜ」

「誰が病気よ」



失礼ね、とカリカリシャーペンを走らせる。



「でも働き者って事で俺らは確かに大いに助けられてるがな。俺もサッチも世辞にも頭がいいとは言えねぇ。前はマルコ、まさか今世では海砂に書類整理してもらうたァよ」

「親父はちまちました作業嫌いだろうし、船長だったから別にいいよ。でもサッチなんか隊長のくせにろくな書類すら出さなかったんだから。
最低限のものさえもね」

「おいおい、それ親父贔屓が過ぎるだろ!」

「あ、サッチ」



エースを殴ってきてスッキリしたのか、さっきより苛立ってないサッチがそこに居た。



「つーか!海賊のくせにインテリなお前とマルコが異常なんだよ」

「はいはい、そーですか」

「かー、可愛くねぇ」

「…可愛くないの?私」

「嘘です可愛いでーす!!」



しょぼん、とした顔を見せれば直ぐにこれだ。
前世からだが、サッチって私の事凄い好きよね。



「でもお前、本当大丈夫かよ」

「?何の話?」

「今受験生だし、なのにうちの事務所の経理とかも担当して、家の金も管理してるのも海砂じゃねぇか」

「別に前みたいに1600人いる会社レベルの書類じゃないし、なんだかんだ経理って単純だもの。
マルコと仕事に追われてた時代に比べたら随分と睡眠も取れてるしやりたいことも出来てるし、特に問題は無いけど」

「……………なんか、すまん」

「謝るくらいならもっとちゃんと書類出して欲しかったわよ」



エースとサッチは隊長の中でもダントツで書類の提出忘れ常習犯だった。
出したと思っても字が汚いやら抜けてるところが多いだのと問題ばかりなのだ。



「グラグラ…そういえば、海砂は確か雄英高校を受けるって言ってたなァ。エースはどこ受けんだァ?
あいつそういう話しねぇから知らねぇんだが」

「同じ雄英高校だよ」

「はぁっ!?いや、いやいやいや!
無理だろ!お前だってわかってるだろ?
そりゃよ、前よりは断然!頭は良くなってる。
でもあのエースだぜ?あいつは、エースは、馬鹿だ!」

「そんな改めて言ってあげなくてもいいでしょ…」



思わず笑いそうになったものの、耐えた。



「大丈夫よ。私が子供の頃からスパルタであいつに叩き込んでるもの」

「は?」

「…エースに勉強教えてたのかァ?」

「ええ。私は元より早くヒーローになって2人の助けになろうって思ってた。
だからそれが早く叶うのは雄英高校か士傑高校。
ここからは雄英高校が近いわ。だから雄英高校ね。
それをここに来た頃のエースに言ったらエースも親父たちのために早くヒーローになるって言ったの」



二人は全く知らない話で、驚いた様子を見せたものの、どこか予想していたのだろう。
二人揃ってどこか呆れたように小さく息を吐いていた。



「だから、なら超難関校と名高いその2つの高校に通うことが一番の近道って話したらエースが私に勉強教えてくれって。やるなら本気でやらなくちゃ。
今からやってたんなら全く間に合わなかったけど、10歳の頃から叩き込んできてるんだもの。
合格してもらわないと困る」



しなかった場合、エースも私の怒りも十二分に理解してることでしょうしね。と私はニッコリ笑った。
サッチは、完全に私の笑顔に顔がひきつっていた。

それもそうだろう。
私やマルコは怒らせるとヤバいというのはモビーでは常識だった。
それでも懲りずに怒らせるサッチやエースはそのやばさは一番身をもって知ってるはず。
この2人が怒らす度に壁に穴が空くのだから船大工たちの仕事が絶えなくて申し訳なかったが。



「グラララララララ!
そりゃ多分学が身についたっつーより完全に海砂に怒られたくなさに機械的に覚えてるだけだろォ」

「それでも別にいいのよ。まずは入学すればね。
入学後の勉強ももちろん叩き込むけど」



どうやら、エースにとってのヒーローへの近道はとんでもない茨の道だったんだな。とサッチは思わずさっきぶん殴った弟へ合掌した。



「海砂は雄英の受験合格率はどうなんだァ?」

「模試でS判定貰ってるからやらかさなきゃ大丈夫よ、親父」

「さすが俺の娘だァ」

「さ、さすが全国模試一桁の女……」

「この間1位とったよ、サッチ」

「怖」



………そこは褒めるところなのになんで怖がられるの??



「ペーパーテストより海砂もエースも実技の方が問題ねぇしな。こりゃ合格して当然だな」

「油断せずにやるわ。実技のは…まぁ覇気使えるから何とかなるでしょうけど」

「覇気があるのと無いのとじゃだいぶ変わってくるもんな」



そう、私たちは今世でも覇気を扱うことが出来る。
私やサッチは見聞色の覇気と武装色の覇気。
親父とエースはその2つに加え、覇王色の覇気を。



「よし、と。今日はここまでにしよっと」

「今日は勉強終わりかァ?」

「うん。やめる」

「じゃ、お茶にでもするか?今ケーキ焼いてんだ」

「やった」

「ケーキ!?!?」

「どっから聞いて来たんだよエースお前」



バンッとドアを開けてやってきたエースにサッチはしっかりとツッコミを入れていた。



「ケーキ食いたい!」

「エース、今日のノルマ、やった?」

「ヒェ」

「やったのか、って聞いてるの。やったのかしら?」

「マダデス」

「ならそれを部屋から、今すぐ、ここへ持ってきなさい。私の隣で、やれ」

「ハイ」

「GO」

「ハイッッッ」



びゅーんっととんで行ったエースに親父とサッチは唖然としている。



「…………海砂、お前エースに何したの???」

「特に?ただ本気でヒーロー目指してるって言ってるのに昔全然私が課した課題やらなかったから私の語彙力の限りを尽くして罵倒して二度とエースと話をしないって怒ったら随分と効いたみたいでね。
今じゃアレ。前世でもやってれば書類ちゃんと出したのかしら」

「グララ………可哀想だからやめてやれぇ」










とりあえず、今日も我が家は平和だ。






















モッテキマシタ!!!

はい、じゃあやろうね。

ハイ!!

エース全部カタコトだけど大丈夫なの?これ。

エースはやればできる子だもんね。

海砂ノ言ウコトハ絶対デス!

洗脳だろこれもはや。




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