我 ら 白 鯨

01



非常に突然だが、私の名は海砂、10歳。
私は前世の記憶があるちょっと特殊な人間である。
前世で、私は女だてら海賊をやっていた。
世界最強と謳われた白ひげ海賊団の、一番隊副隊長を務めていた。


なんで今そんな話をするのかと言うと、私は孤児なのだが、この間施設内の庭にある木に登って誤って背中から落ちた時、打撲だけの大きな怪我は何も無かったのだが気絶したのだ。
その気絶している時に前世のことを思い出した。

そしてそれと同時に、自分の個性が愛した男の能力そのものと言っても過言ではないものであることに気づき、バカみたいに泣いた。
気絶して起きたら突然泣き出すという事態にあの時の先生たちはなんで泣いてるのかわからず、怪我したところが痛いのかとあたふたしていたのを覚えている。
だが痛いのは、強いて言うならば心だ。



「……………………」



記憶を戻した私は、あれからも度々泣いた。
その理由は、この悪魔の実の能力者が8割いるようなとんでもない世界で私のようにあの世界から転生した人を見つけたから。


見つけたのは、テレビで流れていたニュースをなんとなしに眺めていた時だった。



《道路で暴れるヴィラン数名が小さな子供を人質にとったようです!》

《ヒーローはまだ到着しないんですか!》



切羽詰まったようにアナウンサーが語る中、現れた人物。
その人物こそ、私が泣いた原因だ。



《グララララ…ガキがいきがってんじゃねぇぞ》

《親父、あの子は俺に任してくれ》

《あァ、チビはお前に任せるぞサッチ》



《ああ!見てください!白ひげが!
そしてサイドキックのサッチが来ました!
よし!!ヴィランをそのまま倒してくれ!!!》



ニュースなんてまともに見ていない時だったから、知らなかった。
今まで生きた中の記憶でもなかった。

まさか、親父と、サッチも、この世界にいるなんて。



「親父、サッチ」



その時、私はそう言ってボロボロと声も上げず泣いて、またしても先生たちに驚かれた。



あの戦争。
エースが処刑になりそうになった、あの決戦。
エースが海軍に捕まるきっかけになったサッチの死。
そしてあの戦いで、私は死んだ。
でも、ここにサッチがいて、親父もいる。
つまりそういう事なんだろう。

あの戦いで、親父も、死んだんだ。



そう思うだけで辛くて悲しくて、悔しくて。
涙が止まらなかった。

唇をかみ締めて、血が滲むほどに。




落ち着きを取り戻してから考えたが、普通に思った。
海賊だったのに、今度はヒーロー?
振り幅激しすぎない??と後日笑った。




でもあの様子からして、そして何より親父のヒーロー名、事務所の名前。
事務所の名前は「モビーディック」だ。
モビーディックと、白ひげという名前。
完全に彼らも記憶があると、私は確信した。

だから、ちょっとした出来心で事務所にファンレターとして手紙を送ってみた。
内容はこうだ。





超絶かっこいいエドワード・ニューゲート様へ。
並びに、頭にフランスパンのせた女タラシのくそコック様へ。


はじめまして。私は海砂と言います。10歳です。
いつも、二人の勇姿をテレビで見てます。
白ひげさんがすっっっっっっっっごいカッコイイです。
お嫁さんになりたいです。好きです、大好きです。

フランスパンはもっと頑張って白ひげさんのサポートしてください。
動きが甘いです。遅い。そんなんじゃ死ぬよ。
死んだら地獄まで追って蹴り殺します。頑張ってください。


ヒーローだから、怪我をしないというのは難しいかもしれません。
でも、怪我をしないよう、気をつけてください。
応援してます。大好きです。



ファンの海砂より









というものである。
お解りのとおり、ふざけ十割の手紙である。
子供らしさもちょっと意識して書いたとも。

でも送ったあとふと気づいたのだ。
あ。間違って前世の親父の名前で送ってしまった、と。

でもまぁいいか、と私はテキトーに流した。











だって、こうなるなんて思わないじゃないか。



























「海砂ちゃん」

「?なに?先生」

「貴女を引き取ってくれる人が来てくれたわ。
まずは顔合わせ、しましょう?」

「!………わかった!」



そう言われて、今来てるから、会う?と言われて会う!の元気に手を挙げてみた。
その手を先生と繋いで、応接間に行ったらどうだ。



「グラララララ…元気そうじゃねぇかァ…海砂」

「ピッ」

「ブハッ!!お、親父!今海砂がピッて鳴いたぜ!」



そこにおわすのは我が親父殿と、くそコックだった。



「え、え、え………エッ」

「ハハッ、てか海砂、ちっせぇなぁ!可愛いな〜」

「サ、サッチ…?」

「おーう。海砂の大好きなサッチさんですよ〜」



前世でも、私にとっては大事な兄貴分だった人。
仲間で、家族だと思ってた奴に殺された、未練が残る死に方をした、愛する家族。



「ッ」

「ゲッ!!な、泣くなよ!泣くなって!」

「ふぇ、うぇぇぇぇぇ、サッチ〜」

「あ〜、ったくよぉ。ほら」



私が泣き出せば、サッチは私を抱っこしてポンポンと背中を叩く。
相変わらず、面倒見のいい男だ。
先生は旧知の仲であるような私たちのやり取りに驚きつつも、泣き出した私に対して親父たちにすみません、いつもはこんな感じじゃないのに。と謝っていた。



「グラララ、気にするな。
海砂とは昔一緒にいたことがあってなァ。
まさか孤児になってるとは思わなかったが」

「そうだったんですね……」



もちろん、昔というのは前世の話だが。



「親父、ほらよ」

「グラグラグラ…海砂、来い」

「……親父」



サッチから親父へと渡されて、どっしりと座る親父の足に座らせると親父は私の頭をこれでもかとぐりぐり撫でつけてきた。
力が強いから頭がグルングルンと大きく回った。



「海砂」

「ぅん?」

「俺の娘になれ」



親父は、最強の男だったとは思えないほど優しい声で、そう言った。
その言葉に私は目を見開くも、直ぐにこれでもかと口角を上げて、言う。



「もちろん!!!」

「グラララララララ!今からお前は俺の娘だァ!
サッチ、喜べ。妹だぞォ」

「おう!海砂、またよろしくな!」

「うん!」



こうして、色々な手続きがあるためまだ正式には養子ではないものの、私は今世もまた親父の娘になることが出来たのだった。





















親父、好き大好きもう愛してる結婚して。

グラララララララ、俺も愛してるぞォ海砂。

海砂、サッチさんは?

うん、好きだよ。

いやあのよ、そのアンパン好きだよみたいなノリで言うのやめろよ。



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