我 ら 白 鯨

15





試合は進み、ついに私の試合が回ってくる。
対戦相手はもちろん、エースだ。
三奈との戦いは数分で決着が着いてエースが駒を進めたのだ。


ゲートをくぐり、ステージに向かう。
逆側のゲートからは同じように、エースがやってくる。
私たちの顔には、笑みが浮かんでいた。



《さぁて!次の試合はなんと!姉弟対決だぁ!!!
つか姉弟でヒーロー科入学できてる時点でマジすげぇ!》



……思ったよりステージのエリアが狭いわね。
甲板で訓練してた範囲…くらいかそれよりもう少し小さい。



《この姉弟は今のところはこれといって目立ってるようなことは無いが、なんだかんだ常に上位にくい込んでる!
ヒーロー科!正直、高一とは思えない色気を持ってる姉の鯨波 海砂!》



「やだ、私の色気はまだまだ発展途上なのに」



《対!B組の暴れん坊つったらやっぱりコイツ!
ヒーロー科、弟!鯨波 海炎!》



「暴れん坊…ダッセェ」

「暴れん坊なのね」

「別にそんな暴れてねーんだけど俺…
ちょっと物間ぶっ飛ばしたのはあったけどよ」

「前科が一度でもあればそうなるものよ…」

「うぇ」



あれだけで言われんのかよ…などと不満げに愚痴をこぼすエース。
準備はいいか、と問われ私たちは構える。
そして、試合は始まった。



「行くぜ」



まずは様子見。
個性も使わずに私とエースは体術で組手を始めた。
私たちからすれば当然のスピード、当然のパワー。
いつもの様にやっているだけ。

だがそれは周りからすれば異常はスピードであり、異常なパワーでもある。
腕や足が相手に当たる事に出る鈍い音。
観客たちは既に、応援ではなくただ、その試合を見いるばかりになっていた。



「おいどうした海砂!今日は随分と大人しいじゃねーか!」

「そうかし、ら!」

「っ!グホッ」



私の蹴りが綺麗にエースの腹に入った。



「ケホッ、そう来なくっちゃ。避けろよ!」

「え?」

「火拳!!!!」

「ばっ」



は!?え!?
こんなエリア狭いところで火拳なんか放つ!?
普通!!



エースの拳から放たれた炎の拳。
なんとか本人も加減をしているようだが、それでもその熱さに観客たちはもちろんのこと、審判をしている先生も苦しんでいる。



何とか私は放たれる前に空高くにジャンプして避けられたものの…



「蛍火・火達磨」

「コイツ…」



私の事火達磨にする気なのね!!?

蛍火が私に到達する直前に身体を不死鳥化させた。



ボ、ボボッ



《っと、んだありゃ!?》

《海砂の個性だな。
『不死鳥』は受けた傷をすべて再生の炎が焼き尽くす。
その上こんな風に不死鳥に体を変化させるのも可能だ》

《マジか!?つーか何よあの不死鳥!
綺麗っつーか、美しいって感じだなぁおい!》



多くの人が、その綺麗さに息を飲む。



「やっぱ強ェなぁその個性」

「当たり前でしょ」



再生の炎がエースの炎を飛ばすと私は腕だけを翼にしたまま人型に戻り、飛ぶ。



「ま、フィールドせめぇけど、思いっきりやろうぜ。海砂」

「調子乗ってると、潰すわよ。ガキが」

「今は同い年だろ」

「お姉ちゃんに刃向かったらどうなるか、もう一度教えてあげる」

















そこからは、はっきり言ってそれを見ていたほぼ全員がただただ、言葉を失ってその戦いを見るしか無かった。
途中プレゼントマイクの思わず呟いたと言うような言葉、「バケモンかよコイツら」というのには言葉を失った全員が激しく同意をしたことだろう。

まるでトップレベルのヒーローたちの試合を見てるような気分になる。
何もかもが、あまりにも同年代の子達に比べて突出しすぎている。
パワー系の個性でもないのに蹴りや拳でセメントはバキバキに割れ、まだ必殺技なんか作ってもいないのに必殺技と言ってもいいほど形になっている技。



「うぉぉらぁぁぁぁ!!!!」

「はああああ!!!!」



さて。そろそろもう、前置きはいいだろう。
これだけ散々、分かりやすくエースを真正面から受止めたんだ。



「そろそろ決着つけましょうか」

「ああ!!!」



エースが一層深く踏み込んでくる。
本当、エースは正直で、真っ直ぐな子だこと。



「貰ったぁ!!!!……ぁ?」





「海炎くん、場外!!海砂さんの勝利!!!」




「な………はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!?」



エースの攻撃を避けた私は、それを避けた上で、エースを背を足蹴りしただけだった。
フィールドの奥に引き込むよう誘導したのも私。
真っ直ぐ私とぶつかってくるようにさせたのも私。
真っ直ぐくる攻撃をあえて全て、受けたからこその利用。



「あらあらあら、随分と間抜けな負け方」

「海砂お前ぇーー!!!」

「勝負は勝負よ」

「ふぐぅっ」



エースは悔しそうに顔をゆがめて私を不満そうに見ていた。
私はそれに気にせず、ミッドナイト先生に向き直る。



「先生」

「?なぁに、海砂さん」

「私、次の試合棄権します」

「えぇ!!?」

「はぁ!?」



エースからも、先生からも、驚きの声が出た。



「今の試合で正直、体力とても厳しいです」

「全然そうには見えないんだけど」

「カツカツです。次の試合出たとしても無様に負けるだけだと思います。正直、そんな姿は晒したくないので棄権させてください」

「………本当に体力ないの?」

「すっからかんです」



エースとの試合で汗はかいている。
息はさほど切れていない。
息が切れてないのが問題なのかしら。
かと言って今更ハァハァ言い出すのもおかしな話だ。



「……分かったわ。鯨波 海砂の棄権を許可します!」



つまり私が次相手する人であった人は、不戦勝で先へと進めるわけだ。
誰だったかしら…忘れた。



「なぁ!なんで出ねぇんだよ!」

「理由は話した通りよ」

「ここまで来たら進めばいいじゃんか!」



エースはゲートに向かう私に張り付くように周りをウロウロしながら訴えてくる。
アンタのゲートこっちじゃないでしょ。



「なぁってば!」

「あーもう、うるっさい!!!!」



ダゴンっという大きな音を立ててエースは地面に顔面をめり込ませた。
その頭部には海砂の強烈なかかと落としが決まっている。



「大人しくしてなさい」



めり込ませたエースを放置し、私は奥へと戻っていった。


















▽▲▽▲▽
























今年の雄英体育祭は1位勝己、2位焦凍、3位天哉・踏陰となった。
教室に戻り、相澤先生から連絡事項を聞いたあと、解散となるいつもの流れ。



「海砂」

「ん?焦凍?」

「帰るんだろ」

「まぁ、それはね」

「途中まで、少しいいか」

「ええ。構わないわ」



エースにLINEで今日は別々で帰るということを一方的に伝えると、私は焦凍と共に帰路に着いた。



「2位おめでとう。言うの遅くなった」

「いや、別に」



自分もそうだが、焦凍も順位とかはあまり気にしないタイプのようだ。



「海砂、なんで棄権したんだ?」

「……体力がなくて?」

「嘘だろ、それ」

「……うん。嘘」



真正面から嘘だと言われるとは思わなかった。
だがまぁ、その通りなので別に今更隠す必要もない。



「順位が上の方が、それはもちろん注目度が上がるし、スカウトも多くなると思う。でも私別にスカウトが欲しいわけではないの。ただ、効率的にインパクトを残せる方法をとっただけ」

「…なるほどな」



確かにあの戦いの後の棄権はインパクトあった。と焦凍は納得するように小さく頷いた。
でもまぁ、あまり真面目なタイプには思われないかもしれないけど、と内心ごちる。



「それで、なにか私に言いたいことでもあったの?
まさかこれだけのために一緒に帰ってるわけじゃないでしょう?」



なかなか話を進めない焦凍に、私はこちらから切り出してみた。
すると焦凍はどこか言いにくそうに、視線を下に向けながらぽつりと言う。



「……今日の昼間、お前言っただろ。
助けて欲しいなら言えって」

「言ったわね」

「だから…相談に乗って欲しい」

「ドンと来なさい」



笑って私はそう言い放てば、焦凍は表情は変わらないが雰囲気がどこかホッとしたものに変わる。
断られるとでも思っていたんだろうか。

とはいえ正直、言ったはいいが本当に相談なりをもちかけてくるとは思わなかった。
私も表には出さないが、驚いている。
そしてなにより、焦凍が案外私に心を開いてくれているのだとわかって嬉しさもある。



「俺の家のことなんだ」

「家の。それはまたデリケートな部分ね」

「ああ。だから今じゃなくて、今度ちゃんと話したい。
近々時間、くれるか」

「いいわよ、もちろん」

「じゃあ、それについてはまた連絡する」

「ええ」



本人が日を改めてちゃんとしたいというのだ。
きっと相当な話があるのだろう。
ヒーローの家庭ということもあって何かと大変なのは同じヒーローの家庭であるからこそわかる。
ただまぁ、エンデヴァーと親父じゃあだいぶジャンルが違うからあまり参考にはならないかもしれないが。



「焦凍はもっと、自分と向き直らなきゃね」

「…ああ」

「自分の好きなところも、嫌いなところも、全部受け入れてそれをうまく昇華できたらもっとあなたは強くなれる」

「……………」



だから、頑張って。と私は激励した。
焦凍はそんな私を見て、口を開く。



「海砂は…」

「ん?」

「海砂は、大人だよな」

「えっ?」



間抜けな声が出た気がする。
大人だよなって…そりゃ、一応中身は大人だもの。
いや、高一であることを考えたら私異常なのか、この性格は。



「海砂は、色んな意味で、強いと俺は思う。
だから、近くで見ていたくなる」

「近くで…?」

「そばに居るとなんか不思議と安心するし、居心地がいい。それに、学ぶことも沢山あるからな」

「私を買い被りすぎね。焦凍は」

「そうでもない。本当のことだ」



不思議と、焦凍は体育祭で出久と戦ってからどこか穏やかだ。
何を出久がしたのかは分からないけど、負の部分が落ちた、という感じだろうか。



「それじゃ、私こっちだから」

「ああ」

「また学校で」

「またな」



さて、家に帰ったらなんと言われるやら。
























帰ってきたなー、棄権者!

ただいま。何よ、文句ある?

いーや?俺の頭じゃお前の考えてること当てるのは無理だわ。

グラララ…優勝すんのかと思ってたんだがなァ?

やだ、親父期待してたの?ごめんなさい、期待に添えなくて。

構わねぇよ。やりてぇ様にやればいい、アホンダラ。




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