我 ら 白 鯨

14




トーナメントはくじ引きで決められた。
私はシード、エースは普通のトーナメント入り。
エースとやるにはエースが二回戦目…第一試合で三奈と戦い勝ち上がってもらわねばならない。



「ま、負けるわけないか」



途中猿夫とB組の人が棄権することになりそこの2枠にB組の鉄哲チームのメンバーが入ったりもしたが、特に何も問題はなく、レクリエーションが始まった。



「なぁ海砂」

「なぁに」

「お前とやる時、本気でやっていい?」

「……エースは私とやるには三奈に勝たなくちゃいけないのよ?」

「俺が負けると思ってんのか?」



昔から変わらない、強い瞳。



「…ふふ、まさか。ちょっと言ってみただけよ」

「だろうな」



海砂ってそういう所あるよなぁ。と呟いたエース。



「私も、エースとやる時はいつも通りに行くわ」

「そう来なくっちゃ」

「どうせお互い、クラスメイト相手じゃ制御しながらやってるんでしょうからね」

「まぁなぁ。あいつら相手に本気でやったらマジで殺しかねねぇし」

「そうねぇ」



これはいい機会なのかもしれないわね。
クラスメイトにも、先生たちにも、そして日本中にも、私たちの強さを思い知らせる。
モビーの、新しいメンバーの強さを。



「…少し散歩してくるわ、私」

「おお。俺はここで寝てるわ」

「寝過ごさないようにね」

「んー」



エースと別れて、何をする訳でもなくブラブラと。
そうしていればふと焦凍が目に付いた。
本線までの、精神統一のような事をしていたんだろうか。
向こうも私の存在に気づき、目が合う。



「こんにちは、焦凍」

「……あぁ」

「調子はどう?」

「…普通」

「そう」



ニコリと笑えば、焦凍は髪をくしゃりと混ぜたあと一度逸らした視線を戻す。



「白ひげ、来てんのか。今日」

「ええ。初めて学校行事に来てくれたの、今日。
まだ会ってないんだけどね」

「そうか」

「でも、だからこそみっともないとこ見せたくなかったんだけどさっき見事に予選落ちかけてドキドキよ」



困ったもんだと笑えば、焦凍は表情も変わらず相変わらず無表情。
感情を表に出すのが苦手なのはわかるが、本当、無表情。



「ねぇ焦凍」

「?」

「私はあなたのプライベートな部分にまで口出しするつもりは無いわ」

「………」

「でも、これだけは言っておく。
なにか助けて欲しいことや聞いて欲しいこと、1人じゃなわからなくてどうしようもない時は私を頼っていいから」



一人の力じゃ、何に関しても、限界はあるものよ。
私はそれだけ言ってその場を後にした。





















▽▲▽▲▽




















そして、ついにトーナメントが始まる。



《色々やってきましたが!!
結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!
ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!
わかるよな!!心·技·体に知恵知識!!
総動員して駆け上がれ!!》



「一試合目は出久なのね」

「うん!頑張れ、デクくん!」



観覧席で私たちはクラスメイトたちの雄姿を眺める。



「海砂はいいよねー、運良くシード入ったんだし!」

「運も実力のうちよ」

「そうなんだけどさぁ」



三奈はムゥとしながらそんなことを言った。
私はそれを見てクスリと思わず笑みを浮かべる。



「ね、私が最初にあたる鯨波海炎って、海砂の言ってた兄弟の人だよね?」

「ええ。そうよ」

「お願い!どんな個性なのかとか、情報プリーズ!」



現状、私たちはB組のことはほとんど知らないと言っても過言ではない。
だがそれはB組にも言えること。
お互い、お互いのことをまだ全然知らない。



「そうね…エースは炎の個性よ」

「炎…」

「自分の体も炎に変換することが出来るわ」

「え!?じゃあ実体掴めなくない!?」

「そうでもないと思うけど」



エースのあれは意識的に炎に変換しているものだ。
その上、覇気を使えば変換したところでさえ攻撃も可能。
前世よりも少々使い勝手が悪くなってるのがエースの個性の辛いところだろう。
前なら別に意識せずとも覇気がなければ勝手に攻撃は炎となってすり抜けていったが今はそうもいかない。



「と言っても、覇気使えるのは私たちだけなんだけど」

「え?なに?」

「なんでもない。気にしないで」



とはいえ、エースがそんなことでめげる性格だったならば勝機はあったかもしれないがアレは頑固な上に辛い場面で笑う男。
使いづらくなろうと昔のように意のままに操れるようになっている。



「ねぇー!もっとこう、ないの!?
弟のここが弱点!みたいな!」

「残念ね。私の弟、強いのよ」

「弟より私を取ってよー!」

「ごめんなさいね、私、家族ファーストで生きてるの」



三奈がワーワー何かと言っていたが私は笑うだけ。



そんなこんなで一試合目は普通科の子対出久の戦いは出久の勝利。
続いて始まったのは焦凍 対 範太。



《優秀!!優秀なのに拭い切れないその地味さはなんだ!ヒーロー科瀬呂範太!!》



マイク先生、言いたいこと随分と言うのね…



バーサス 2位・1位と強すぎるよ君!同じくヒーロー科 轟 焦凍!!》



私はステージにいる焦凍と範太を眺めて、首を傾げた。



「焦凍、随分と苛立ってるわね」

「え?そう?」

「いつも通りじゃない?」



みんなはそんなことを言う。
焦凍は表情が動きにくいから分かりにくいのはわかるけども。



「……でもあれ、随分と激怒してるわよ」



範太、八つ当たりされなければいいけど…



と思った瞬間だった。
巨大な氷に覆われた会場。
驚きのあまり静寂が訪れ、周りも状況の理解が追いつくと瞬殺された範太に周りが同情しドンマイコールが始まった。



「………やりすぎね、どう考えても」

「と、轟くんスッゴ……」



八つ当たり、されたわねぇ。本当に。
範太には正直同情する。痛かったろう。



「私、飲み物買ってくる」

「あ、うん!行ってらっしゃい!」



財布を持ってそこを後にする。

自動販売機のある場所に向かってのんびりと歩いた。
私の試合はまだ先だから急ぐことは何一つない。



「何にしようかしら」

「サッチさん特製のスポーツドリンクなんでどうよ?」

「ひっ!?」



突然ヒヤリとしたものが首に当てられてびくりと体を跳ねさせてしまう。



「よっ」

「サッチ!ちょっとやめてよ!」

「はは、悪い悪い。ほら、差し入れ」

「ありがとう…」



首に当てられた部分をさすりながら、私はそれを受け取る。
サッチのことだ、エースには持ってきてないんだろう。



「つか、お前ら落ちかけてたな」

「あれはちょっと、そうね。舐めてた」

「だろうな。気をつけろよ?みんな本気なんだ。
本気で、必死なんだ」



足元すくわれるぜ。とサッチは私の頭を撫でる。



「俺ん時も色々と大変だった。
本気は出せねぇけど、舐めてかかるとやられる。
めんっどくせーよなぁ」

「…でも楽しいわ」

「楽しめてんなら上々よ」



ニッと笑うサッチにつられて、私も笑みを浮かべた。



「ああ、そういやエースと当たりそうだな、海砂」

「そうなのよね」

「本気でやり合うつもりか?」

「エースがそうして欲しいって言ってるしね。
エース相手なら我慢する必要も無いじゃない」



そもそもエースは元より手加減するつもりは本当にないのだと思う。
あの様子からして、毛頭なかった、という感じだ。



「そうだけどよ、2人とも学校で手ェ抜いてたのバレるだろ」

「バレるわね。でも、力の差をまざまざと見せつければいいじゃない。私たちと同じ土俵に、お前らは立てるのか、って意味を悟らせるようにね」

「ヒュー、性格悪い」

「あら、人聞きの悪い。むしろよくやってると思うわよ、自分自身。飛び出すぎず、引っ込ま過ぎず。
あくまでも学生のレベルでは、ちょっとできる方を保ってるのよ」

「んな事出来んの、お前とマルコとか、イゾウとかだけだからな??器用すぎて意味わかんねぇっつーの」



俺にゃ無理だわ。と肩を竦めた。



「サッチは学生時代どうやりすごしてたのよ」

「俺?俺はもう頭何個も飛び出でる天才って感じだ」

「そっちに思いっきり振り切ったわけね…」

「手加減するのも悪ぃかと思って。
そこにいりゃ分かるだろ、あいつらがどんだけ真面目にヒーロー目指してんのか」

「そうね…それは本当にひしひしと感じる」



憧れの人に近づきたい。
誰かのためになれるようになりたい。
そんな感情が常にそこにある。



「まっ、試合頑張れよ。親父も俺も、応援してっから」

「ふふ、ありがとう」

「んじゃな」



サッチと別れて、私は結局何も買わず貰ったドリンクだけを持って席へと戻ることにした。

























おかえりー!

ただいま。試合はどんな感じ?

上鳴瞬殺!

あらら。



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