13
第一種目がスタートした。
初っ端から焦凍が仕掛けてきたらしい。
氷で前方の人の足元をガチガチに凍らせた様だ。
私は人を踏みながら上を進み、前方へと出る。
ヒーロー科のみんなは我先にとどんどん前へ進んでいくのが見える。
そんな様子を見てみんな張りきってるなぁ、なんて他人事にとらえた。
「あら、入試の時のロボットね」
「よっ、海砂!」
「あらエース。こんなところで何してるの?」
「いや、俺今お前と同じことしてんだけど…」
「エースのことから俺が一位取る!みたいにさっさと行っちゃってたのかと」
そう思っていたからこそ、正直未だこんな場所にエースがいることが驚きだった。
「オレも初めはそう思ったんだけどよ、でもまずは周りの奴らのお手並み拝見ってやつ?同じクラスの奴らは知ってても海砂のクラスの奴らはしらねぇし」
「……なるほどね。少しは頭使ったみたい」
「うるせ!」
くすくすと笑いながら、私たちはロボットに邪魔をされている生徒たちを追い抜いていく。
当然そんな私たちを止めようとロボットが群がるが、私たちには邪魔にすらならない。
ドガシャァンッ
《うぉー!おい見たか今の鯨波姉弟の完璧なコンビネーション!なぁイレイザー!》
《…姉弟揃ってヒーロー科に入学してること自体、うちの学校じゃ史上初だ。そういうことできるだけの力はあるってことだろ》
《ドライかよ》
実況をしているマイク先生とゲストであろう相澤先生の声が聞こえた。
へぇ、姉弟で入学したのは史上初なんだ。
「んっだよこれ。肩慣らしにもならねーじゃん」
「でもわんさか出てこられたらめんどくさいのよね、これ」
「確かに、な!」
うまく立ち回りながら個性を使わずに私たちはどんどん前へと進む。
「やっぱ今からでもトップ狙っちまおうかなー」
「まぁ、好きにしたらどう?」
「海砂はやっぱ狙わねーの?」
「そうねぇ」
一つ目の関門を抜け、次の関門へ。
次の関門はザ・フォールと名付けられた崖がたくさんある場所。
崖と崖の間はロープしかなく、これで渡るしかないらしい。
しかし私たちにはそのロープの上を走るなんてことはそこらを走ってるのとさほど変わらない。
つまり、私たちからすればただのランニングコースであった。
「この障害物走で半分以上に数を落としたとして。
でも、最後のトーナメントの数は限られてるでしょう」
「んぉ?おお、そうだな」
「つまり、ここで半分以上に落とした後、ある程度の実力者を残して次の種目でまた多くの人を脱落させるつもりでしょうね」
「そうなのか?」
「そうじゃなきゃトーナメントなんか出来ないわよ」
そして、できる限り多くの人に生徒を見てもらうためには、それが合理的であり、私たちにとっても何かプラスになることがあるのだろう。
さて、次の関門…最後の関門だ。
怒りのアフガン…要は地雷原ってことね。
「おー。こりゃまた雄英めんどくせーもん作ったなぁ」
「目と脚を駆使しろ、ね。そんなもの私たちには必要ない」
「だな!」
「行くわよ、エース」
「おう」
見聞色のは気を使えば正確にどこに地雷があるのかがわかる。
まぁ使わなくともわかるけれど、使った方が間違いはない。
何もない場所だけを踏んで、飛び跳ねるようにして地雷原を抜けた。
「楽勝!」
「もうトップたちはついてるらしいわね、ゴール」
「ああ。海砂のクラスの奴らが三位まで総なめしてんな」
「ま、彼らはね」
出久に、勝己に、焦凍。
あの3人の競い合い方は本当、互いを削りながらって感じだ。
「それじゃ、姉弟仲良くフィニッシュってことで」
「んじゃオレ先にゴールっと!」
「……エースったら」
「ニシシ」
鯨波 海炎 10位
鯨波 海砂 11位
「さぁ、本当の蹴落とし合いはこれからよ。エース」
「はっ…
日本中の奴らに見せてやる。親父が最強ってことをな!」
「……なんでそうなるのよ?」
「え?ちげーの?」
「違うでしょ。ここでは最強はオールマイト。
でも、私たちが目指すのは組織的な最強。
モビーディックが最強であると、示せばいいの」
親父だってオールマイトに負けてなんかない。
でも親父は親父だから、ユーモアがあって、誰にでも優しく、常に笑顔で接するオールマイトの万人受けには勝てない。
親父の人気はそういうものではないから。
むしろそんな親父はちょっと怖いわね…
「でもオレは親父が最強だと思う。
やっぱりオールマイトもすげーけどよ」
「ふふ、そんなのただの好みの問題じゃない」
「確かに」
そして、予選通過をした上位44名が揃った。
これから始まるのは本戦。
みんなが次の種目はなんだ、とドキドキしながら発表を待つとバーン!と電光掲示板に出された次の種目は、騎馬戦だった。
ルールは至って簡単。基本ルールは普通の騎馬戦同様。
チームを2〜4名で作る。
ポイントは通過した順につけられ、一位ずれるごとに10ポイントの差がつく。
ただ、一位だけには1000万ポイントが与えられると言う。
「…ふふっ、何このルール」
「一位に1000万ってすげぇな」
「一位だからこそ狙われる仕組みにしてるのね」
全く、本当に雄英は突拍子のないことをやる学校だ。
こんな子どもみたいなルールを本気でやってるのだから。
だがまぁ、わかりやすいから逆にみんな燃えるのだろうけど。
そして、チームを組む時間が与えられた。
「海砂!やろうぜ!」
「…えぇ、そうね。
ここは安定したメンバーで挑むのがいいわ」
別にクラスのメンバーとかでもいいが、エースとやった方がやりやすいのは否めない。
なにせ、前世からの仲だもの。
「海砂!一緒に組まない!?」
「ごめんね、三奈。もうチーム決まっちゃったの」
「えー!そんなぁ」
三奈のように、私をチームに、と誘ってくれる人は何人もいた。
それはエースも一緒。
エースもB組の人たちに一緒に!と言われていたが私のようにもう決まってるんだと説明している。
「つまり、それがエースの答えなんだ」
「悪いな、物間。そもそもオレ、お前のその案嫌いだから元からやる気はなかった」
「…これが効率的にA組に勝てる方法だってわからないのかい?」
「効率的とか、そういうの別に考える必要ねぇし。
オレはオレのやり方でやる」
まぁいいよ、他の大半の人は僕に賛同してるからね。とエースを誘っていた人はさっていく。
何やら、不穏な空気。
「エース、なぁに?今の。
クラスぐるみで私たちを蹴落とそうとしてるの?」
「げっ…あれでわかったのかよ」
「当たり前じゃない。
まぁそういうやり方もありなんじゃないかしら」
「まぁな。オレは性に合わないから嫌だけど」
「性に合わないっていうより、理由が嫌なんじゃないの?」
「………海砂って本当よく見てるよな」
「ふふ。そうかしら」
エースは別に、ああいう少し卑怯じみた作戦でも受け入れるときは受け入れる。
それもあまりにもあっさりと。
こちらが拍子抜けするほどに。
そこには大概、理由が大きく関わる。
その行動をするのに、どういった経緯で、どんな理由があってするのか。
それをエースは大事にする。
「私はエースのお姉ちゃんですもの。
エースのこと、ちゃんと見てるわよ」
昔から、ずっと。
「納得がいかないものを無理に納得する必要なんかないわ。嫌なら嫌と言えばいいの。私やサッチ、親父に言ってるようにね」
「おう」
「…さ、そろそろどっちが騎馬か騎手かを決めましょうか」
▽▲▽▲▽
「15分経ったわ。それじゃあいよいよ始めるわよ」
チーム決め兼作戦タイムが終わった。
それぞれ騎馬を組み、配られたハチマキを頭に巻く。
「さ、始まるわよ。エース」
「おう!」
今回は騎馬がエース、騎手が私となっていた。
さすがに女である私に騎馬をさせるのはエース的に嫌だったのでこれはすぐに決まった。
「エース。裏情報なんだけど、今回のトーナメントにはシードがあるそうなの」
「え?何それ?」
「雄英お得意のノリで作ったってところでしょうね。
騎馬戦は一応2〜4人までのチームだから人数合わせるためにもそういう処置があるんじゃないかしら」
「へぇー」
「人数がちょうど良ければシードは消されるでしょうけども」
それも踏まえて行けば……
「上位4チームに私たちを入れれば、ちょうどシードになるわね」
「そうか?」
「ええ。勝ち上がってきそうなところはだいたい4人チームだもの」
私は目の前にあるエースの頭にポスリと手を置き、撫でた。
「さぁエース。
いい子だからめいいっぱい働いてちょうだいな」
「ニシシ、任せろ!」
「ふふ。よろしく」
そして、スタートの合図が出された。
「っしゃあ!!!」
流石はエースというところだろう。
女とはいえ、人1人背負っているのにそれを感じさせない動きだ。
とはいえ親父やサッチもこれくらいは普通なのだけど。
「おらー!邪魔だどけー!」
「エースどこ向かってんのよ?」
「え?一位んとこ」
「さっきも言ったでしょ!出久は狙わなくていいの!」
「ええー」
「もう……」
わざわざ勝己や焦凍のいる戦場に行きたくないわ。
避けれるなら避けたいもの…
「まぁまぁなもんじゃないかしら?」
「え?何が?」
「得点よ」
「は?取ってねーだろ、オレら………
ってあり!!?何でオレらこんな点数なってんの!?」
電光掲示板を見たエースは驚愕の声を上げる。
私の首元にはヒラヒラと何本ものタスキがあった。
「海砂お前いつの間に!?」
「昔よく遊んでたのよねぇ。イゾウとハルタと。
誰が一番自隊の隊員からお金スってくるかって」
「お前らなんつー遊びしてんだよ!!?」
「何よ。何回あんた私に奢ってもらったと思って?」
「時々妙に羽振り良かったのそれかよ!!!」
こう言ってはなんだが、私のスり技術は達人だ。
勿論、この遊びを始めた初めの頃はスったものはちゃんと返していたがある時からイゾウたちが前もって隊員たちにこの遊びをする、だからスられないよう気をつけるこった。と忠告するようになった。
そうなってからはもうスってしまえば自分のものにすることが許可された。
親父の許可の元である。
因みに初めの頃は上陸する際のみだったが許可を得てからは前もってみんなに言う為その日は乗船してようが財布を持つことを義務付けていた。
その忠告があるとみんな自分の財布や何やらを随分と大切そうにしまうようになったが、結構な人数がスられていたと記憶している。
スられなければ寧ろみんなに褒められるくらいだ。
なんだか趣旨が変わっていたような気もするけど。
「大丈夫よ、スられた奴らはスられたことにも気づかないわ」
だって私、達人ですもの。なんて言って笑ったらエースにお前それでもヒーロー志望か。とツッこまれた。
なにか文句でもあるのかしら。
「さ、あとは逃げ回るわよエース」
「もういいのかよ!?」
「塵も積もれば山となる。タスキ一つ一つはさほど点は多くないけどこんだけあれば大丈夫よ」
「……お前そんな首元あって暑くねーの??」
「正直暑いわね」
もっさりと積まれた首元のタスキ。
これのおかげで完全に私たちは上位に入った。
「ふふ、注目が出久に行ってよかったわ」
みんな揃いも揃って1位にしか向いてないから自分の点数が持ってかれたことに気づいてないんだもの。
「海砂ってやっぱ腹黒だよな…」
「やめてくれる?頭が回ると言って欲しいわね」
「いやお前とマルコは腹黒だろ!」
「ちょっと!私は百歩譲って腹黒だとしてもマルコは違うでしょ!マルコは性悪よ!」
「オレより悪口じゃんか!?」
エースはフィールド内を走り攻撃を軽々と避けながら私との会話を続ける。
「あの人根っこはとんでもないドSなんだから!
優しいけどスイッチ入ったらやっばいわよあいつ」
「いや逆にそんなスイッチ入って海砂何されたんだよ、んなに言うって……」
「あら、聞きたい?」
「あ、イヤイイデス」
「夜のベッドでのことなんだけどさ」
「言わなくていいですぅ!!!!!」
「つまんないの」
「面白がるな!」
赤くなるエースに私はクスクスと笑った。
マルコは独占欲が強い男だったから私を船で抱こうとは絶対にしなかった。
たまにちょっと手は出るけど、最後まではしなかった。
それもあってか、島につけば溜まった分一気に吐き出すかのように夢中になって私の体を貪るし、お互い歳も若いとは言い難い年齢故に楽しみ方が多様になっていた。
だからこそのマルコのドSっぷりが嫌という程発揮されていたのだと思う。
たまにこいつ殺すって思うほどには。
「おんぶしてて疲れない?」
「え?別に。海砂くらいいつまでも持ってられる」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」
「寧ろ動きてぇんじゃねーの?お前」
「欲を言えばね。
でもここはエースに任せるって決めたんだもの。
エースに任せるわ」
「そ」
何チームか、私たちに襲いかかってきたものの、私たちに敵うわけもなく簡単に散っていく。
私たちはその後も1位のタスキを掛けた出久と焦凍のやり合いをチラチラと見ながら、タイムアップを待つ。
《TIME UP!早速上位4チーム見てみよか!!》
「あ、やだ。ちょっと待って」
「海砂?」
「あちゃー……ちょっとこれは大穴」
「?」
しくじった。と私はおでこに手を当てた。
《1位 轟チーム!!2位 爆豪チーム!!3位鉄て…
ってアレェ!?オイ!!!心操チーム!!?》
「あれ、もしかしてオレら落ちた?」
「落ちたわね。うふ」
「うふじゃねーーー!!!!」
どーすんだよおい!?とエースは焦ったように聞いてくるが、もうどうしようもないのである。
「なるようになるわよ!」
「何言ってんだおまえぇ!!?」
そして4位に緑谷チームが呼ばれた。
私は私で読みが外れたなぁと頬をポリポリかく。
私たちは5位で、はっきり言って心操チームが入ってくるとは思わなかった。
ここは完全に油断していた。
《っと、通常なら上位4位までなんだが、今回の体育祭はちょっと違うんだぜ!今回は波乱を呼ぶ体育祭にしようと思って最後のトーナメント戦にシード枠を作った!!》
親父たちにみっともないところ見せてしまったと反省していれば、シードの話が出たことで私は顔を上げる。
《シードには2人までが入れる!
っつーことで、5位の鯨波チーム!
お前らも最終トーナメント出場だぜ!》
「あらやだ」
「おっしゃぁぁあ!!?
え!?マジで!?海砂これ狙ってたわけ!?」
「え?あ、ええ、そうね」
「嘘つけ」
とりあえず、トーナメントには出れそうだ。
ホッと安堵のため息を私はついた。
ギリギリだったわね…
あっぶなかったァ。
こんなところで落ちたら親父に何言われるのやら。
サッチは心底バカにして笑うだろうよ。
後で殴ろうかしら。
いやこれオレの勝手な憶測だからな!?