10
翌日、雄英高校は臨時休校となった。
しかし私とエースは、学校へと来ていた。
「ったく、サッチの奴バカじゃねぇ?
ヒーローなのにヒーローの道具である武器忘れるとか」
「まぁ、昨日の襲撃事件のことで親父もサッチも仕事詰め詰めにされてたからね」
一体何をしに来たのかというと、サッチの忘れ物を届けに私たちは雄英まで来たのである。
親父とサッチが今学校にいるのだが、その理由は昨日の襲撃事件の一件が関わっている。
事件のことを仕事中速報で知り、仕事を終わらした親父とサッチは帰ってくるやいなや私に何があったのか、と事情聴取した後、雄英の方から正式に仕事としての何かの依頼があったらしいのだ。
「親父たちは保健室にいるらしいわ。
多分相澤先生たちと話をするためかしらね。
警察もまたいるんだって」
とりあえず保健室に行きましょ。と私とエースはガラリとした校舎を歩いた。
「いっつもたくさん人いっからこんなに人いねーと変な感じだな」
「普通でしょ」
一階にある保健室にはすぐについて、ドアをノックすれば中からどうぞ。と声がかかり私はドアをスライドさせる。
そこには親父とサッチはもちろん、オールマイトや校長先生、謎の包帯男とマイク先生、ミッドナイト…などと広めの保健室には結構な人数がおり私は数度瞬きをした。
「ん?海砂入んねーの?」
「…いや、思った以上に人数いて驚いたというか」
「悪いな海砂!エース!助かった!」
中に入り、先生たちに挨拶をする。
そして目的の人物の方へと視線をやればヒーローの輪の中で一際頭の主張が大きいマイク先生とサッチが並んでいて、吹き出しそうになった。
一方は前方へ、一方は天へと髪の毛が向いている。
なにこれ。
「うわ、変な髪型が並んでるぜ。海砂」
「んふっ、や、やめてエース」
「弟!誰が変な頭だっ!?
クレイジーなのはサッチだけだろ!?」
「はぁ!?これは俺のアイデンティティだ!
オフの日には髪の毛下ろしてるてめぇとは年季も情熱も違うんだよ!年中無休のリーゼントだぞこっちは!
キャラ作りヒーローめ!この山田が!」
「NO!本名言うのやめろ。
しかも悪口みたいに本名言うな」
「どっちにせよ変な頭ってのは変わらないわよ、2人とも」
「何ィ!?」
「What's!?」
マイク先生は私を姉、エースを弟と呼ぶ。
鯨波という苗字は長いから省いたらしいのだが、それにしても弟や姉呼びというのはどうなのだろう。
たまぁに鯨波と呼ばれる時もあるが。
それと、何やらマイク先生とサッチが親しいようだ。
同じヒーローだから合同とかで任務をしたりするんだろうか。
「はい、サッチ。
今度は忘れないでよ、商売道具なんだから」
「おう。いやぁドタバタしてていつもと違うやつ持ってきた時は焦ったわ」
「つかサッチ、マイク先生と仲いいんだな?」
「?そりゃな。
俺とマイク、そんでこのミイラマンは同期だし」
「え?そうなの?」
「そ、俺らみんな雄英OBの30歳よ」
「その前にこのミイラ誰だよ」
「それね。私も気なってた」
「海砂の担任」
「「えっ」」
ベッドに座るようにして安静にしているミイラマン。
確かに、言われてみれば相澤先生っぽい。
ミイラマンは目元の包帯を親指で上手くどかすと、相澤先生のやる気なさげな目が見えた。
「あ。相澤先生こんにちは」
「こんにちは」
「凄い包帯ね」
「婆さんが大袈裟なんだよ…」
たしかにあまり必要なさそうなところまで包帯されてる気がするけれど。
「それにしても、昨日は鯨波少女の個性のおかげで相澤くんたちの怪我が深刻な事態にならなかった。
ありがとう、鯨波少女!」
「私なにかしたかしら?」
「アンタの個性、"不死鳥"の炎で早い段階に細胞が活性化されてたからね。治りが早い上に材料がない場面だったろうに応急処置もちゃんとしてくれてた。
特にイレイザーヘッドはそのおかげで失血量も少なかったんだよ」
偉いね、はい。ハリボーおたべ。とハリボーを手の上に乗せられたがその瞬間にエースがかっさらって行く。
まぁ、グミはあまり好きではないからいいのだけども。
「海砂」
「!…親父?」
「お前ェ…一度死んだなァ?」
「え」
教師陣は、一応私の個性を知っているが珍しい個性である私の力をちゃんと見た事はない。
だから昨日、相澤先生に初お披露目であったのだが…
「ミイラのガキに聞いたが」
「白ひげさんミイラのガキって呼び方やめて貰えませんか」
「首の骨折られたそうじゃねぇか」
「………………」
死んだ、と言うよりかは死に至るほどの大きな怪我を負わされた、ということだ。
前世でマルコは銃弾だって山ほど受けてたはず。
なぜ私にはこんな反応?
「俺ァ、そんな話は昨日聞いてねぇが」
「…だって、別に些細なことじゃない」
「些細だァ?てめぇの娘の首の骨折られることが?」
「………マルコの時は何も言ってないのに」
「あれは野郎だ。てめぇの信念でやってた事だろう。
そもそもああいうやり方を始めた時にあいつとも話はしっかりとした上でのあれだ」
そんなことをしていたのか、マルコ。
でも、確かに親父も納得していなければあんな戦い方、許すはずがない。
「再生の炎がすぐに傷を燃やすからって、わざわざ怪我を負うような戦い方はやめろ海砂」
「…私だって別に折りたくて折ったわけじゃないわ。
傷は直ぐに治るけど痛みがないわけではないもの。
それにあの脳みそ出た怪物は相澤先生をぐしゃぐしゃにしてたから相澤先生を助けないとダメだと思って、正直焦ってたのは認めるわ。しかもまさかあれがオールマイトと同じくらいのスピード持ってるとも思わなかった」
油断をしていた。
いいわけになるだろうけど、油断をしていたのだ。
相澤先生を助けなければいけない、主犯格も取り押さえなければ、すぐ近くには梅雨たちも潜んでいた。
あの場には、昔のように信頼し何かを任せられる相手がいなかった。
自分が、全部やらなくては。と焦ったのだ。
「仕方なくそうなったんならそういえばいいだろうが。
俺ァそんなことで怒る男だと思うのか?」
「……いいえ」
「何かあったのを報告する際は全て報告しろ。いいなァ」
「わかったわ、親父」
怒られて肩を落とす私の頭を撫でくり回す親父の手を取ってギュッ、とその手を握ればその手を一度解くと私を抱き上げて膝に座らせた。
「まぁ、その個性があるとわかった時点でお前がそう言う戦い方をするのもわかってた。帰ったらそれについて話し合うぞ」
「ええ」
「出来が良すぎるってのも、考えもんだなァ。
マルコもお前も」
「んま、良いじゃねぇの親父!
正直海砂ができ良いから俺らは助かってるわけだしよ。
お前も、これから気をつけろよ」
フォローするようにサッチはそう言って、私の頭を撫でた。
親父とは違って、とても優しい撫で方。
私は、この撫で方が昔から大好きだ。
「……サッチ」
「ん?」
「もっと撫でて」
「…………俺の妹世界一ィッ!!!!!!」
「「「「「うるさ」」」」」
サッチにたくさん撫でられたあと、親父の足から退けたらエースが私に背後から抱きついてきた。
エールなりに私に甘えてるらしい。
「でも海砂」
「?なんです、リカバリーガール」
「あんた、個性が"不死鳥"だから怪我をしても大丈夫だからといってあまり怪我をする戦い方をしちゃあダメだよ。
海砂は女の子なんだから」
「………」
「個性の申請書で"不死鳥"は自身の怪我を治し、不死鳥になることが可能、としか書かれていなかったからね。今回あんたのその炎に活性化作用があるとは思わなかったよ」
リカバリーガールはそう言って飴を食べだし、私は書いてなかったっけ?と記憶を辿る。
が、そもそも書いた記憶がないのだが。
なぜだ?
「………あ。その申請書私書いてないもの」
「え?」
「サッチに書かせたのよ。
仕事が溜まっててそれどころじゃなかったから、知ってるサッチに書かせたんだけど…書きこぼししてたなんてね」
「ゲッ……」
「まぁいいわ。確認を怠った私の責任よ。
ごめんなさい、先生方」
そうだ、それを書いたのはサッチ。
あの時はサッチが溜めていた書類のせいで多忙を極めたのだ。
久しぶりに徹夜までして書類整理をしていた。
サッチがやっていては終わらないので私が全てやって、学校に出す個性の申請書をサッチにやらせていた。
まさかこんな形で暴露することになるとは。
「私の個性である"不死鳥"は書かれてた通り、不死鳥になることが出来て、自身の怪我を燃やし再生する。
この再生の炎は基本自分にしか大きな効果はない。
他者には精々治癒の活性化を促す程度よ」
他者に対しては完全にリカバリーガールの劣化版ね。と人差し指に点した炎を見ながら説明する。
「海砂のはリカバリーガールと違って無理のない程度にしか活性化させねぇから他者にそれ使ってもお互いに消費するものは何もねぇ。
そこはリカバリーガールとは違う利点だわな」
「サッチの言う通りね。超短時間での治癒は出来ずとも通常の治りかは遥かに早くなるわ」
エースは私の指に灯した炎の元に自身も同じように指先に炎を灯して俺も炎〜、などと緩い絡み方をしてきた。
「グラララ、ついでに言うとこいつァ俺らの幸せの青い鳥でなァ」
「……親父やめてよ、恥ずかしいわ」
「きっと近くにいるテメェらにも幸せいつか運んでくれるんじゃねぇかァ?」
「親父ってば!」
「つかさ、海砂不死鳥化して担任のこと治したら?
リカバリーガールと海砂の個性で一層早く回復しそうじゃん」
「いやそれ相澤先生に負担じゃないかしら」
リカバリーガールの治癒はリカバリーガールが個性を使う際に一時的に超活性化し、治癒していく。
だが私のは活性化させるとその活性化は持続し、持続の時間は当てる炎の強さや時間の長さによって変わる。
「やってくれるなら俺は構わない」
「……じゃあ、一番不安そうな目をやるわね、先生」
「!」
「先生の個性は目が重要だから、ここが機能しなければ大変よ」
許可をとってからベットへ乗り上げて、治療を開始する。
両手に炎を灯し、目隠しをするかのように相澤先生の目元を覆うと相澤先生は抵抗する様子もなくそれを受け入れる。
「………暖かいんだな」
「炎だから熱いと思われがちだけど、この炎は誰かを傷つけることは出来ないのよ」
「おまけにうちの海砂の炎は綺麗だろ?
海砂も美人で癒し効果は測りきれない!
我が妹ながら頼りになるぜ、ほんと」
サッチは鼻高々と私のことを自慢した。
親父はその様子を呆れながら鼻で笑うように見ている。
「お前の場合妹にまで下心がありそうだ」
「なんだとイレイザー!」
「逆にサッチって下心以外で動くことあんのか?」
「あるわ!!!
エースてめぇ俺の事なんだと思ってやがんだ!!!」
「だってサッチ、家にあるプール入る水着姿の海砂見て鼻の下伸ばしてんじゃん」
エースから飛び出た言葉に白ひげ以外のヒーローと警察が動きを止めたがサッチはそれを知ってか知らずか、変わらずエースへと言葉を返す。
「あの姿を見てなぜ逆に鼻の下が伸びない!?
あのたわわな胸!鍛えられ締まっているものの決して女らしさを損なわないクビレ!プリっとしたケツ!
グラビア目の前で見てんのと同じだぞ!?」
「…………うちの生徒に手を出す前に捕まえた方がいいんじゃないのか」
「妹相手に気持ち悪」
「イレイザーとマイクは知らねーからだろ!!!!」
「バカみたいな言い合いしないでくれないかしら。
別に好きなだけ鼻の下伸ばせばいいじゃない」
「ほら見ろ!うちの妹は寛大だ!」
「サッチが変態なのは昔からよ」
慣れてる、と言いたげな海砂の発言に彼らは心底大丈夫なのか、と心配してしまう。
「さてと。そろそろいいかしらね」
「悪いな、鯨波」
「海砂でいいわ、先生。どうせ先生のことだからサッチの事も鯨波って呼んでたんでしょ?
それに今ここに鯨波は4人もいるもの。
あと私名前で呼ばれたい人だから名前で呼んで」
「……プライベートの時は確かにサッチのことを鯨波とは呼んでるが…まぁ、そうだな。わかった」
「ありがとう、先生。…さ、帰るわよエース」
「おう」
ベッドから降りようとする私にエースは手を差し伸べてきた。
エースは乱暴だ雑だと思われがちだがなんだかんだ、女性の扱いが分かっている。
本人曰く前世でナースたちに散々言われたんだとか。
やっぱりモビーのナースたちの威力はすごいと思う。
「ありがと」
「ん」
「それじゃあ、鯨波少女、鯨波少年!
わざわざありがとう、気をつけて帰るんだぞ!」
「おう」
「それじゃあ先生たち、お仕事頑張ってね」
ヒラヒラと手を振って、さぁ帰ろうと振り返るとエースがスマホを見ており、特に気にせず置いたカバンを手に取るとエースが突然あ゛!!!と大きな声を出す。
「?なによ」
「海砂!来る時帰りここランチで寄ろうっつった店あと30分で営業時間終わっちまう!!!」
「え?あらそうなの。
……じゃあ後日また行けばいいんじゃ────」
「走るぞ!!!!!!」
「きゃあッ!!?」
ぐるりと景色が一変。
そして腹にかかる圧迫とその腹に回されている手の感覚。
完全に、担がれている。
キョトンとした顔をする先生たちの顔がよくわかる。
「しっかり掴まっとけよ海砂!!!!」
「え!?ちょ、ヤダ!
エース待って、ちょ、ねぇって!!!」
「屋根伝って最短約10分!余裕!行くぜ!」
「余裕!じゃないこのバカ!下ろして!ちょ、嘘っ、
嫌〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
後に先生たちは語る。
完全にあれは人攫いの光景であったと。
「グラララララ!」
「……白ひげ、サッチといい鯨波少年といい、少々ヴィランチックなところがあるね……」
「全部身内相手だァ。
それに俺らは全員血縁関係はねぇしなァ。
海砂とサッチがくっついても別にかまやしねぇが、サッチも無理強いをする男じゃねぇ。そもそも海砂がサッチに負けるタマじゃねぇんでなァ」
「完全に俺は返り討ちにされるなー。
海砂怖ェんだよ、怒るとマジで」
「エースは強引なだけだ」
「………血の気が多い一家だ」
間に合ったァ!!
うっ……っ、お腹痛い………
飯!飯食おうぜ海砂!
…………はぁぁぁぁぁ