我 ら 白 鯨

09



私が落とされたのは、火災ゾーン。
そこには敵たちが潜んでいて私と猿夫は敵を蹴散らしながら走っていた。



「雑魚のくせして数だけは一丁前ね」

「っと、海砂さんこれからどうする!?」

「私は相澤先生の所へ行くわ」

「え!?」



猿夫は本気で!?と言わんばかりの顔を向けてきたが、私は本気だ。
相澤先生の身がどうも安全だとは言い難い。
プロとはいえ相手との相性というものがある。
相性悪くとも対策はしているだろうが、そうなれば恐らく長持ちはしないはず。



「私は向こうに戻るけど、猿夫まで危険を冒す必要はないわ。どうする」

「ど、え、えー…」



バキィッと覇気つきの蹴りを敵にお見舞いしてやれば敵は見事に吹っ飛び奥のコンクリートの壁にぶち当たった。
殺さない程度の手加減はしたけど、コンクリートにヒビ入ってるわね。
背骨骨折くらいはしてそうかしら。



「行っても足でまといになりそうだし、ここでヒット&アウェイで何とか凌いでるよ」

「そう?じゃあ頑張ってね。また後で」

「!!」



私は思い切り地面を蹴り、宙に飛び上がると不死鳥へと変身する。
下で隠れている猿夫が呆然とする顔が見え、気づかれないだろうがそんな猿夫に少しだけ笑って私は最短距離で相澤先生の元へ向かった。



「…いや、そんなランニング頑張ってみたいなノリで言われても……てか、あれが海砂さんの個性…?」























空を飛んで、最速で相澤先生の元へやってきた私の目に映ったのは、脳みそが丸出しの妙な怪物によって腕をグチャグチャにされた相澤先生だった。



「!」




「"個性"を消せる。素敵だけどなんてことはないね。
圧倒的な力の前ではつまり、ただの"無個性"だもの」

「ぐぁ…!!」



空から見えた。
相澤先生のもう片腕もグチャグチャになって、顔面を地面へと叩きつけられている。



「許さねぇ…」



私はまたスピードを上げ、急降下した。
相澤先生に乗り上げている、怪物へ一直線。



「!」

「先生の上から、退け。怪物がッ!!!!!」



腕だけを翼にしたまま、スピードを殺さずに本気の覇気を纏わせて、力いっぱい怪物の横っ腹を蹴った。
その時はもう敵が死ぬとか生きているとか、どうでもよかった。

ググッと巨体であるだけあってなかなか直ぐには吹っ飛んではくれなかったが、踏ん張って蹴り抜くと怪物は吹っ飛んでいく。



「…なんだあのガキ。脳無はダメージ吸収の個性を与えてるのに…ぶっ飛ばされた?」






「先生っ!」

「が、っ、鯨波…なん、でっ」

「喋らないで!」



私の炎では怪我を消すことが出来ない。
先生の傷に使えるのはせいぜい出来て止血程度だ。
それでもやるべきだろうと思い、私はすぐさま一番出血の酷い腕へ炎を当てる。



「!危ない!」

「!」



一瞬で詰め寄られた気配。
振り向いた時には私の首に怪物の大きな手が当てられており、気づいた時にはそのまま持ち上げられ、首を締められていた。



「あ、がっ…」

「鯨波!!!っ、俺の生徒を離せ!!!」

「脳無、とりあえずそのガキだけでも殺しておけ」



その瞬間だった。
ゴキリッ。



「…!!!」

「あーあ。可哀想に、イレイザーヘッド。
お前の大事な生徒が一人、死んじゃったなぁ」



まるで、小枝を折るかのように容易く折られた海砂の首。
脳無はダラりと力の抜けた海砂の体をそこらに投げ飛ばした。



「お、まえ、らぁっ………!!」









「ゲホッ、ゲホッ、ガッ、あー。
ちょっと痛いじゃないの、何してくれんのよ」

「「!?!?」」



ゆらりと立ち上がる私を敵と相澤先生は信じられないものを見るような目で見てきた。
私はコキリ、と首を回して首の調子を確かめ、そこで拾った敵が使ったであろう刃物を構える。



「私じゃなけりゃ死んでんだ。
あんたも半殺し以上にされても文句は、ねぇよな?」



ニィと私は笑う。
あぁもう。ヒーローらしくないのはわかってる。
でもこいつらは私を怒らせたのだ。

気持ちが高ぶった時ばかりに出る昔使っていた汚い男言葉。
海賊船で育ったのだから綺麗な口調に育てというのは無理な話だと言うのにいつだったか、ナース長に年頃になって凄く怒られ、強制的に矯正させられてからはキレた時にしか出なくなった言葉だ。



「私、結構料理は得意なんだよ。
さぁ、どこから捌いてやろうか、このデカブツ」



先に動いたのは怪物。
また一瞬にして現れて、拳を振りかざしてきたが私にそんなものは当たらない。
正直肉眼で追えてるかと言われたら追えてないけれど、だからこそ見聞色の覇気がある。
元の世界じゃこの速さでの戦いはよくあったから、別に苦でもなんでもない。



「はっ、でかい図体して随分と機敏だが、拳ひとつ当たってねぇよ」



怪物の拳は当たらないのに、私の持つナイフだけが相手を切り裂いていく。
その度に私には血が飛んできた。



「…なんだよ、あいつ。
雄英生なんだからヒーローの卵なんじゃねぇのかよ。
脳無切り裂いて笑ってんじゃん」



その頃、黒霧というあの黒いモヤの敵が主犯格である手の男、死柄木の元へやってきて生徒のひとりに脱走されたことを報告した。



「黒霧おまえ…
お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ…
さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。
ゲームオーバーだ、あーあ…
今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」



私は怪物を相手していて、あまり主犯格である敵の言葉が聞こえていなかった。



「脳無、そのガキをどっか遠いところに吹っ飛ばせ」



命令に従順な怪物は、切りつけられながらも私の腕を掴むと思い切り振りかぶって投げ、私は放物線を描きながら宙に投げ出された。










投げられた時に腕は握りつぶさられるわ肩は脱臼するわ、あの怪物は力加減というものが一切出来ない仕様になっているのか?
片腕全体に再生の炎が灯り、私は落ちながら、我らのヒーローである彼の登場を見た。



「もう大丈夫。私が、来た」



いつも笑って現れる我らの平和の象徴は、笑っていなかった。



「…あの怪物が、多分オールマイトを殺す兵器だろうけど…」



あれだけでオールマイトが殺せるとは思えない。
だが、あの怪物は切りつけてもすぐに再生していたからあれは超再生の能力もあるはず。
それにあの怪力に、一発目の私の蹴りは吹っ飛んではいたが効いてる様子はなかった。



「複数個性持ってるってこと?」



そろそろ飛ばないと地面にたたきつけられるなと思い不死鳥へ変化し、地面スレスレで体制を整えると前方に見知ったメンバーが走っているのが見え私はスピードを上げた。



「みんな元気そうね」

「うわぁぁあなんだ!!?びっくりした!!」

「……炎の、鳥?」

「あ?」



鋭児郎、焦凍、勝己の順に反応してくれた。



「私よ。私。海砂」

「なんだ!?その姿!」

「私の個性よ」

「個性ィ!?」



彼らの頭上から話しかけるように、私は飛ぶ。



「あなたたちが来てるってことは、あなたたちのいたゾーンでは敵はもう大丈夫ってことね」

「おう!俺と爆豪がいたのは倒壊ゾーンだ!」

「俺は土砂」

「そうなのね、無事でよかった。じゃあ私先いくね」

「あ!?おい!牛女運べんなら運べや!!」

「嫌よ、重いもの」

「んだとてめェ!!」



勝己の文句は無視をして、私は先へと急いだ。
向こうは私を排除したつもりかもしれないが、排除などできていない。
本当、こういう時空を飛べるというのは楽だ。



「相澤先生!!」

「む!鯨波少女!?」

「オールマイト!」

「…はぁ?あのガキ戻ってくんの早すぎだろ。
一体なんの個性だ?」

「鯨波少女!何故ここに…!
君は緑谷少年たちと共に相澤くんを安全な場所へ!」



オールマイトはそう言って、私を投げ飛ばしたあの怪物と戦闘を始めた。
相澤先生は今一刻を争う大怪我だ。
相澤先生を非難させて治療するのが一番だろう。



「梅雨!実!出久!」

「海砂ちゃん…あなたさっきの怪我は大丈夫なの?」

「鯨波さんっ」

「うわぁぁぁ〜鯨波ィ〜」

「相澤先生を早く避難させるわよ!」



担ぐように相澤先生の体を支えた。
後ろではオールマイトが爆音のようなものを立てながら、戦っている。
その行為を無駄にすることにならぬよう、私たちはまっすぐみんなのいる方へと向かっていたのだが、出久が何故か不自然に止まった。



「出久?」

「蛙スっ…っ…ユちゃん!」

「頑張ってくれてるのね。なあに緑谷ちゃん」

「相澤先生担ぐの代わって…!」

「うん…けどなんで…」

「…!?ちょっと、出久っ!?」



理由を尋ねる梅雨の質問に答えなど返さず、代わってもらうやいなや出久は涙を浮かべながらオールマイトの方へと走り出した。
出久では勝てっこないのに、飛び込むなんてなんて馬鹿なことを。

黒いモヤが立ちはだかったと思った途端、その横から遅れてきた勝己たちがやってくる。



「どっけ邪魔だ!!デク!!」



私は、それにどこか安堵を覚えた。
出久一人では可能性はゼロだが、彼らがいたのならば、まだ、まだ逃げれる可能性が出てくるからだ。



「みんな来てくれたんだわ」

「よし。梅雨!実!相澤先生は私に任せて。
ちょっと荒くなるけど、これ以上ここにいたら私たちまで巻き込まれかねない。扱い荒くなっても幸い相澤先生は気を失ってるみたいだし、意識戻っても痛みは覚えてないでしょ」

「任せてって、何するんだ?鯨波」

「私が、運ぶのよ。一人で」



ボ、ホボッと炎が灯る音がすると、海砂は不死鳥へと変化した。
その光景に梅雨たちも驚いていたが、そんなことは無視して趾の部分に先生の服を引っ掛けてすぐにみんなの元へ飛んでいった。



「え!?青い炎の、鳥!?」



階段の上にいるみんなの元へひとっ飛びし、少し相澤先生を上へと投げてその内に私は人型に戻り、相澤先生をキャッチする。



「海砂ちゃん!?」

「ここに怪我人はいる!?」

「13号先生が少し…」

「13号はどこ!?」

「こっちだ鯨波」



目蔵が私を呼び、そちらを見れば宇宙服のようなコスチュームが壊れた姿で倒れている13号がいた。
こちらもこちらで、一人を逃がすために奮闘した跡が見られる。



「相澤先生と13号の応急処置するわ。
目蔵、手伝ってくれるかしら」

「あぁ」

「ありがとう。じゃあ目蔵、なんでもいいからとりあえず布を破って止血用の包帯にするわ。長めに。
先生の服でもなんでもいい」

「分かった」



指示を出し、私は相澤先生と13号の怪我の状態を確認する。
13号の怪我の仕方は随分と変わった怪我の仕方をしているが、多分これはあのモヤの個性で自分の個性でも食らったのだろう。
体の皮膚がチリのようになって崩れていっている。
下手したら13号は跡形もなく消えていたが、ここにいたみんなが何とか対処してくれたんだろう。



「布作ったのならこれ以上血が出ないようキツく縛って」

「………こうでいいか?」

「ええ。相澤先生の分だけでいいから」



私は両手に再生の炎をともすと片方は相澤先生に、もう片方は13号に当てた。
相澤先生はまず頭の怪我からやらなくてはならない。
腕の方が酷いが、頭の怪我はシャレにならない。
だから先にこっちを対処しなければならなかった。



「……出来た。あとは何かあるか?」

「あとはもうほかの先生たちが来てくれるのを待つしかないわ。手伝ってくれてありがとう目蔵」

「いや、当然のことをしただけだ」

























私が相澤先生と13号の治療に夢中になっている間に、オールマイトの戦いはオールマイトの勝利で終わり、天哉によって連れてこられたほかの先生たちも合流し、この襲撃事件は終わりを迎えた。




















海砂、怪我とかしてねーよな?

?別に。見ての通りよ。エース。

だよなぁ。

……襲撃で命の危機にさらされた姉に対する反応じゃないわね。

いや、海砂強いし大丈夫じゃん。むしろ敵殺してねーよな?

普通の人間なら確実に死んでる攻撃を食らわせた怪物もいたけど、怪物だったから死ななかったわ。

……大丈夫か?本当に死んでねぇよな?捕まったりしない?

ちゃんとその怪物も逮捕されたわよ。

ほぉー。



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