我 ら 白 鯨

08



新しい学校での生活にも慣れてきた頃。



PM 00:50



「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」

「ハーイ!なにするんですか!?」



教卓の前に立つ相澤先生は、今日のヒーロー基礎学についての連絡をする。
に、しても相澤先生のあの言い方。
あれでは急遽3人体制にになったと言わんばかりだ。

…恐らく、先日の報道陣の侵入の件だろう。
この雄英には関係者以外が入れないようにバリケードが敷かれている。
私たちの持つ学生証のようなものにチップか何かが埋められていて、それを持っていたら中へと入ることが出来るのだ。
だから何も持っていない人が入ろうとすればそのバリケードが発動する仕組み。
この間のあれはそのバリケードを何者かが破壊したのだろう。
私たちには何も知らされてはいないが報道陣があそこまで侵入できたのはそれしかないのだ。



「水害水難なんでもござれ。人命救助レスキュー訓練だ!!」



RESCUEと書かれたカードを見せる相澤先生。

レスキューか…
ヒーローというのはよく敵と戦う部分を多く切り取られることが多いが、人命救助が一番の彼らの活躍どころ。

相澤先生は今回のコスチュームの着用は各自の判断で良いと言う。
救助に向かないコスチュームもあるだろうから、という理由だ。



「訓練場は少し離れたところにあるからバスに乗っていく。以上。準備開始」



その一言で全員が立ち上がり、各々コスチュームのケースを持っていったり、体操着を持ってきたりと動き出す。
私は動きやすさ重視であるコスチュームである為、着用することを選んだ。





















着替えたあと、私たちはバスへと乗り込んだ。
私はバスの乗車口のすぐ後ろの席に座った。
前にはお茶子とモモがいて、通路を挟むと焦凍がいる。

着くまで寝ようかと思うも、元気なみんなは話をしだした。



「私思ったことをなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」

「あ!?ハイ!?蛙吹さん!!」

「梅雨ちゃんと呼んで」



目だけを瞑りながら、意識はみんなの会話へ。



「あなたの"個性"オールマイトに似てる」

「!!そそそそそうかな!?いやでも僕はそのえー」

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねぇぞ。
似て非なるアレだぜ」



どうやらみんなは個性についての話をするらしい。
この世界では、本当に"個性"というものが余程大事なようだ。
私たちからすればちょっとした付属の力という認識でしかないが、"個性"があるかないかでその子の社会的な価値が決めつけられる部分もある。
無個性と言うだけでバカにされ、虐められ、誰もがヒーローに憧れても個性がなければヒーローになることはまずないだろう。
ヒーローになることへの条件として"個性"の有無はないが、あくまでもあれは有ることが大前提として話が進められているのだから。



「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だよな」

「ケッ」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」

「んだとコラ出すわ!!」

「ホラ」

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

「てめえのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」



さすがの私も、今の発言には笑ってしまった。
フフッと笑えば爆豪勝己…もう勝己でいいか。
勝己に聞こえたようで、振り返って射殺さん勢いで睨みつけてくる。



「てめぇ今笑ったか!」

「勝己を笑ったんじゃなく電気の発言に笑ったのよ」

「あ!?
つかてめぇなんで俺の名前呼び捨てしてんだ!!!」

「私は親しい人や認めた人物は下の名前でと呼ぶことにしてるの。だからこのクラスのみんなはみんな等しく呼び捨てよ?」

「ふざけんなこの牛女!!」

「……………それ、私の胸のこと言ってるの?」

「あぁ!?」



こんな面と向かって牛女と言われるのは初めてだ。
真正面から素直に罵倒されれば、罵倒されたことへの怒りなど湧かずむしろ感心してしまう。
勝己ほど振り切っていればの話だが。



「まぁまぁ落ち着けって爆豪!
それに女子に向かってそんなこと言うなって!」

「うるせぇ」



電気はキレる爆豪を宥めるようにそう笑ったが、本人は多分不貞腐れたのだろうか。
舌打ちをしたあと、外を眺め始めた。



「あー…でも海砂の個性はわかんねーけど、海砂ってすげぇ強いよな!相手瞬殺した轟のこと遊ぶみたいに海砂普通にねじ伏せてたし」

「確かに、海砂ちゃんって未だに色々と謎のままよね。個性についても全然分からないし」

「さっき電気も言った通り、まだ私たちは付き合いが浅い。いずれ分かることなんだし、のんびり待っていればいいのよ。必要になればもちろん教えるしね」

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」

「「「「「「ハイ!!」」」」」」



正しく、鶴の一声である。









そして訓練場へと踏み込めば、正直学校とは思えない光景が広がった。



「すっげ━━━━!!USJかよ!!?」



そう思いたくなるほど、訓練場はだだっ広く、様々な事故を想定したエリアはまるでアトラクションのようにも見える。



「水難事故、土砂災害、火事……etc.
あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です」



その名も、ウソ災害事故 ルーム
まるっきり、某テーマパークの名前をパクっていた。

それを説明するのはスペースヒーロー 13号。
宇宙服のようなコスチュームを身に纏う、どこかほっこりしてしまうような見た目を持つヒーローだ。
13号はオールマイトのように対敵というよりはこういった人命救助で活躍するヒーローである。



「13号、オールマイトは?
ここで待ち合わせるはずだが」

「先輩、それが…」



そのあとの話はよくは聞こえなかったが、どうやらオールマイトはこちらに合流できないらしい。
あの人の人柄的に、通勤してる時に事件や事故が多発して遅れてるかなにかなのではないだろうか。



「えー、始める前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…」

((((増える………))))

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の"個性"は"ブラックホール" どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その"個性"でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

「ええ…しかし簡単に人を殺せる力です。
皆の中にもそういう"個性"がいるでしょう」



13号は、私たちに人を簡単に殺めてしまういきすぎた個性がここ持っていることを忘れないで欲しいと、訴える。
個性把握テストでは己の力が秘めている可能性を知り、対人戦闘ではそれを人に向ける危うさを体験した。
その今までのことを踏まえ、13号はその可能性を秘めた"個性"を人命の為にどう活用するかを学ぶのだと話す。



「君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。
救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな。
以上!ご清聴ありがとうございました」

「ステキー!」

「ブラボー!!ブラーボー!!」



13号のスピーチは、生徒の心にしっかりと刺さったようだ。
皆が拍手をし、真っ直ぐ13号の言葉を受け止めている。

だが、その時だった。



「そんじゃあまずは…………?」



相澤先生の言葉が不自然に途切れた。
次の瞬間には相澤先生の聞いたこともない緊張させるような声を出す。



「一かたまりになって動くな!!!!!」



───奇しくも



「え?」

「13号!!生徒を守れ!!!」



───命を救える訓練時間に私らの前に現れた



「……………」



突然何も無かったところに扉ができたように、ゾロゾロと気配が突如出てくる。
チラリと下を見てみれば、黒いモヤのようなところから人が出てきており、相澤先生はあれが敵だと言う。



───プロが何と戦っているのか



「…大胆だこと」



ワープの個性か何かなのだろうが、ここまで堂々と侵入してくるとは。
いっそ清々しいけれど、対するこっちのヒーローの数は相澤先生と13号だけで、残りは私たちだけ。
敵たちがどれほどの実力者揃いなのかは知らないが、見た感じでは手応えのある者はほとんど居ないだろう。



「13号に…イレイザーヘッドですか…
先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずですが…」

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

「どこだよ…
せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…
オールマイト…平和の象徴…いないなんて」



ひと目で分かった。
身体中に手をつけた奇妙な敵。
あれがこの敵たちの主犯格だ。
あの人物だけが、この敵たちの中で、一番異質だ。



「子どもを殺せばくるのかな?」



───それは、途方もない悪意



「敵ンン!?バカだろ!?
ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

「先生、侵入者用センサーは!」

「もちろんありますが…!」



センサーが反応しないとなれば、それが破壊されたか、それとも妨害されてるか。
何にせよ、そうなった以上校舎に戻る以外の応援の要請手段はないと考えるべきだろう。

それに、校舎から離れたこの場所、少人数が入るこの時間、全て把握した上での犯行。
あの敵によって用意周到に計画された作戦なのだろう。
まぁ、少々荒さが見えるが。



「あれは早く捕まえないと面倒なことになるわね…」



前の世界でならあの敵、このまま運良く生き残れば間違いなく賞金首になるわね。

相澤先生は13号と電気に外部との連絡の指示し、一人敵の大衆へと飛び込んでいった。
大勢相手でも相澤先生はうまく立ち回り、戦闘しているが…



「………大丈夫かしら」



相澤先生は合理性を求める人だ。
それは普段の生活でだってそう。
ああいうタイプは省エネタイプが多いから、あまり体力があるとは言い難いのである。
頭を使って最速で何事も対処するのだ。



「海砂さん早く!!」

「…ええ」



この不安が現実にならなければいいが。



「させませんよ」



避難しようとする私たちの目の前に、下にあった黒いモヤが現れ、そのモヤが喋り出す。
どうやらモヤ自体が人であったらしい。
私たちは立ち塞がったそれを、見上げた。



「初めまして、我々は敵連合。
せんえつながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴 オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」





「………………」



オールマイトの殺害が目的、か。
それにしては随分と装備がないというか…
何か秘策があるのか。
オールマイトを殺せると頷けるくらいのものが。



「本来ならばここにはオールマイトがいらっしゃるハズ…ですが何か変更があったのでしょうか?
まぁ…それとは関係なく…私の役目はこれ」

「!?」



突如飛び出して来たのは勝己と鋭児郎。
二人は目の前の敵を攻撃した。
あまりにも無鉄砲なそれに、私は唖然としてしまう。

………若いって、怖い。



「危ない危ない……
そう…生徒といえど優秀な金の卵」

「ダメだ、どきなさい二人とも!」

「散らして、殺す」



私たちは、黒いモヤに覆われた。






















っ、?ここ、火災ゾーンね。

海砂さん!?

!猿夫?



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