一章
02
はて、私はこんな所で何をしているのだろう。
私はそんな疑問を度々抱く。
その理由は…
「朧ちゃんあそぼー!!」
「朧ちゃんは私たちと遊ぶのー!」
「あたしたちとなの!!」
そう思い出したのはついこの間。
幼稚園で同じクラスのリクオくんにたまたまボールを後頭部に当てられ、軽く気絶をした時からである。
その時後頭部に強い衝撃を受けた為に私は何故か俗に言う前世というのを思い出した。
私は京都の公家の姫で、ぬらりひょんという妖を愛し、愛され、鯉伴という子を産んだ。
その長いようで短い一人の人間の一生の記憶と、己が海賊であった時の前前世の記憶を思い出したのだ。
故に体は子供、中身は大人という某名探偵の様な状況に陥っているのである。
「朧ちゃん、あっちいこ!」
そう言ってニコニコと私の手を引いたのは、同じクラスで思い出すきっかけを生み出した奴良リクオくん。
大変勝手ながら、名前からしてもしや私の前世の血縁者なのではないかと思っている子。
リクオくんは栗色の髪にクリクリとした可愛い感じの男の子だ。
「リクオくん?」
「ボクと遊ぼ!」
ニコッと花のように笑ったその顔にどこか鯉伴の面影を見る。
「うん、遊ぼう」
鯉伴に似てると思ってしまっているからだからか、私はこの子のことをどうも甘くしがちだ。
「何して遊ぶ!?」
「どうしようか」
私は、同じ世界にまた生を受けた。
時代はだいぶ変わったようだけれど、また同じ世界に、だ。
ただ私が死んでから数百年の時が流れている。
前前世と前世の記憶を保持し、転生した私ははっきり言って、またか。という気分でもある。
前世はこれまでにないほど満足し、若干の未練はあったものの満たされたまま死んだ。
なのにまたほとんど一からやり直しか、と思うところは確かにある。
まぁ、強いて良かったと言うならばここが昔の奴良組のあった場所である浮世絵町であることくらいか。
ぬらりひょんや鯉伴は、息災だろうか。
妖怪と半妖だし、たかが数百年程度でなら死んではいないだろう。
「ねぇリクオくん」
「?なぁに?朧ちゃん!」
「リクオくんのお父さんは、なんて名前だ?」
自分で言ってはなんだが、割と突拍子のない質問だったと思う。
けれどリクオくんは特に何を疑問に思うでもなくケロリと答えた。
「ボクのおとーさん?
ボクのおとーさんはね、りはんって名前だよ!」
「!」
りはん。つまり、鯉伴だ。
あの子は私の死ぬ前に結婚していたというのに今の今まで子が出来なかったのか。
きっと周りに随分と急かされたことだろうに。
「そうか、となるとお前は私の孫か」
「?なに?朧ちゃん」
「いや、なんでもない」
こんな可愛い子が私の孫なのかと思うと少し考え深いものだ。
「リクオくんは、お父さんが好きか?」
「うん!大好きだよ!強くてかっこいいんだー!」
「ふふ、そうか」
鯉伴、良かったな。
ちゃんと息子に愛され、尊敬されているぞ。
「ねぇねぇ、朧ちゃん」
「ん?」
「朧ちゃんってさ、妖怪で誰が好き!?」
「……妖怪?」
「うん!」
さっき私もなかなかに突拍子のない質問をしたとは思うが、彼もまたなかなかに突拍子のない質問をぶつけてきたでは無いか。
「妖怪か…」
「うん!」
リクオくんの目はキラキラとどこか期待をしている眼差し。
「私は…やっぱり"ぬらりひょん"かな」
「!だよね!!ぬらりひょん、カッコイイよね!」
リクオくんはパァと至極嬉しそうな笑顔を浮べた。
私はリクオくんにとってある意味唯一妖怪ネタの通じる相手でもあることから、度々私にこういう話を吹っ掛けてくるのだ。
「うん、ぬらりひょんカッコイイね」
ああ、そうだとも。
私の夫は、それはそれはかっこよかったとも。
口にしたら死ぬほど調子に乗っただろうから言いはしなかったが。
それに私も息子の鯉伴もとてもカッコイイ。
私の息子だからな。
「朧ちゃんとは妖怪のお話ができるから楽しいなー!」
「はは、ありがとう」
それは暗に他の人じゃ全く話が通じないと言っているようなものだ。
「朧ちゃん!砂でお山作ろう!」
「ああ、そうだな」
私は相変わらずニコニコするリクオくんににこりと笑いかけた。
今世で私は、ぬらりひょんと鯉伴に私自ら近づくことはきっとないだろう。
貴方はきっと
未だに私を愛してくれているかもしれない。
でも、私は公家の【朧姫】ではなく新しく
【桜夜 朧】として生まれ変わったのだから。
貴方と鯉伴の進む道を
私は静かに横から眺めていよう。
私たちの孫が、どの道を進むのかを
見定めていよう。
私の愛する奴良組に、幸あらんことを。
朧ちゃんトンネル作ろ!
トンネル?
ここぐーってほるの!
ああ、やってみようか。