一章

01




─時は流れ

──江戸

───明治

────大正

─────昭和

──────そして平成








「くぁぁ……あー、ねみぃ……」




東京の一角にある、大きな大きな御屋敷。
その屋敷は一体いつからそこに建ってるのかもわからないほど、昔からある御屋敷。




「あら、おはようございます。鯉伴さん」

「あぁ、おはようさん若菜。朝飯出来たのかい?」

「はい!にしてもいつもより早起きですね?」

「リクオが早く起きたみてーでな。
爆睡してるとこ腹に突っ込んできてよぉ」

「あらあらあら…ふふふ」




鯉伴の腕に抱かれてニコニコしているのは、この屋敷で生まれ、育ち、家主とも言える奴良組二代目 奴良鯉伴の息子。
その名を奴良リクオという。
若菜と呼ばれたのはそのリクオの母にして、鯉伴の妻である。




「たっくよぉ……リクオ、お前父親の腹にいきなりすっ転んでくるんじゃねぇよ。
何事かと思ったぜ」

「??」

「"?"じゃねーっつーの」




鯉伴は朝一発目の愛息子から貰った鳩尾目掛けたダイナミックな転倒で目覚め、そして悶絶するという『リクオ目覚まし』を体験した。
リクオはたまたま早起きしてしまい、大好きな父の元へ行こうとし、たどたどしいヨチヨチとした歩みで向かったところ布団と自分の足が絡まって父にダイブしてしまったのである。
これは完全な事故だ。




「ま、とりあえず飯にすっか」

「ええ、そうしましょう!
みんな待ってると思いますから!」




夫婦、そして子も揃えて広間へ行けば既に準備されている朝食に鯉伴は笑みをこぼす。
鼻を刺激してくる美味しそうな匂いに腹の虫が鳴きそうだ。




「なんじゃ、鯉伴お前今日はもう起きとったんじゃな。珍しいもんじゃ」

「おー、親父。おはよーさん」

「おう」

「じっちゃ!」

「朝から元気じゃのう〜、リクオ」




リクオとコミュニケーションをとり始める好々爺はリクオの祖父であり鯉伴の父にして奴良組並びに魑魅魍魎の主の初代 ぬらりひょんだ。




「ほーれ、リクオ。ワシの隣に来るかい?」

「いく!」




それを聞いて鯉伴は抱き上げていたリクオを降ろしてやれば、ヨチヨチとぬらりひょんの元へと向かっていく。
そのヨチヨチ歩きで今朝自分が悶絶したと思い出すと、なんだか虚しい気分になった。




「リクオはおじいちゃんが大好きなのねぇ、やっぱり」

「じいちゃんっ子って奴かねぇ」

「リクオはワシに似とるからのう!」

「いや親父より断然若菜似だろ」

「誰も顔とは言っとらんわい!!」




顔は確かに若菜さん似で愛らしいがのう。と付け足す。




「リクオが親父似、なぁ。どこがだ?」

「中身じゃな」

「……ついにボケたか」

「蹴り飛ばされてぇのかいお前は」




リクオを挟んで交わされる会話に、周りの妖怪たちは苦笑いだ。
しかしこれもリクオが産まれてからはいつものことなので暖かく見守るばかりだが。




「蹴るも何も本当のことだろ?2歳児だぞ?
2歳児のどこが親父に似てるって?」

「この子はワシに似る。確信しとる」




果たして自分の質問の答えになっているのか微妙な回答が返ってきた。
だがとりあえず今わかるのは……




「リクオ、人生間違えない為にはじーちゃんのような性格になるなよ!」

「鯉伴表に出やがれ。蹴り飛ばす」




口元引くつかせて鯉伴を睨むぬらりひょんに、鯉伴は笑った。




「親父の蹴りなんざ怖かねぇっての。
おふくろの蹴りとゲンコツ以上に怖いもんは俺にはねぇ」

「……それ言っちゃあみんなそうに決まっとるじゃろうが……」




いい加減にしないと皆が朝食を食べられないので鯉伴は頂きますをして、朝食を始めれば食事が始まる。
人数が人数なだけに朝からワイワイと賑わう。

しかし、ぬらりひょんと鯉伴は箸を動かしながらも話を戻す。




「というか、鯉伴はさほどアイツの鉄拳くらってねぇくせに何言ってんじゃ」

「それでもくらったもんはくらった」




子供の頃よりもおそらく大人になってからの方が多分くらった。




「そんなにお義母さんのゲンコツは痛かったんですか?」

「「ありゃ痛いってもんじゃねぇ……」」

「え?」




二人の会話を脇で聞いてた若菜はふと聞いてみれば、2人がなんとも言えぬ顔でそう呟いた。
おかずに伸びていた箸も止めてまで。




「初代の奥方様……
朧様は公家の姫君ではありましたが、それはそれは大層お強いお方でしたので」

「そうなの?
お姫様なのに戦えるなんてカッコイイわね!」

「はい、それはそれは……とても凛々しく、そして大変お美しいお方でしたとも」




ウンウンと感慨深そうに鴉天狗が若菜に語った。




「おふくろのゲンコツと蹴りをくらったら数分は動けねぇよ」

「まぁ……」




鯉伴は痛みでも思い出したのか、思わず頭に手を当てた。




「幸いあいつはそう怒る質じゃなかったの救いじゃが…アレで仮に手の出やすい性格じゃったらワシら今頃顔変形しとるんじゃねーか?」

「いやおふくろ顔面はやらねーだろ」

「……頭の形が変形、か」

「親父は既にしてんだろ」

「やっぱお前表出ろ」




鯉伴の言葉にどこかの妖怪たちがブハッと噴き出した音がした。
実に不毛な言い争いを頭上で行われているリクオはそんなこと知らずに口の周りを汚しながらご飯に夢中である。




「これは変化だってお前知ってるじゃろうが!」

「冗談だって。
んな朝から怒んなよ。血圧上がって死ぬぜ?」

「誰が死ぬか!!」

「親父も若くねぇんだからよ?」

「お前と100年くらいしか変わらんわ!!」

「100年はでかいだろ。一世紀だぞ?」

「あー」




相変わらずな親子喧嘩をしてる所、間に置かれた不憫な孫がご飯をこぼした時に可愛い声を上げたことにより、二人はリクオがいたことを思い出す。
ついつい言い合いに熱が入ってしまい周りを忘れることもまた、いつものことだ。




「リクオ、ボロボロじゃねぇか」

「ん!」




ふと息子を見てみると口の周りと襟元当たりが凄いことになっていた。




「ほら口拭いてやるから動くなよ」

「や!」

「や、じゃなくてな」




甲斐甲斐しく息子の世話を焼く鯉伴に今度はぬらりひょんが思わず笑った。




「?なんだよ?」

「いや、昔ワシもお前にやったのう、って思ってな」

「…………いつの話だよ……」

「400年くらい前じゃな、普通に」




そりゃそうだろう。
鯉伴はまだ400にはいかないものの、あと数年で400の数に入るくらいは長く生きているのだから。

するとその話を聞いていた鴉天狗は幼かった頃の鯉伴を思い出し、懐かしそうに言う。




「幼子だった頃の二代目は、大変可愛らしゅうございましたな……。いつも奥方様にひっついて離れるとすぐ大泣きされてました」

「カラスいらん情報を流すな!」

「その反面初代が奥方様にくっついてると嫉妬してよく初代のこと蹴ってました」

「……お前朝からなんなんだ?
実は俺のこと嫌いか??仕事サボるからか?」




公開処刑されてる気分の鯉伴は項垂れるしかなかった。
妻の若菜は小さい頃の自分のことが知れて嬉しそうだが暴露されてる身からしたらたまったものではない。




「……リクオ、一緒に飯食おうな」

「あい!」

「……可愛いなぁ」




何百年経とうとここ、奴良組は幸せな空気に包まれていた。

































ゲッ!!俺の卵焼き食ったの誰だ!?

…………。

……親父……おい。

ぼーっとしてる方が悪いんじゃ。のう?リクオ。

あい!

ほれみろ。

リクオ、じーちゃんが悪いよな?

あい!

だとよ。

なんじゃとう?

お二人共、リクオ様を巻き込まないでくだされ。

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