二章

07



その日、うちのクラスに転校生がやってきた。



「京都から来ました、花開院といいます」



その名を聞いた瞬間脳裏に浮かんだのははるか昔、私と妹を護衛していたハゲと当主であったあの狐のような天才陰陽師。



「フルネームは…花開院ゆらです。
どうぞよしなに…」



「ほぉ…あいつらの子孫か」



当然といえば当然だが、全く面影は無い。
しかし思わず私はそんなことを呟いた。
もちろん、誰にも聞こえない大きさで。



「席は…桜夜ー」

「はい」



私は名を呼ばれ手を挙げる。



「あいつの隣の空いてるとこが席だ」

「わかりました」

「桜夜、何かと面倒見てやれなー」

「断る」

「そんなド直球に断ってくるお前に先生ばびっくりだ」



即拒否してやれば、担任は間抜けな顔をする。
発言通り本当にびっくりしてるんだろう。
担任の顔がいつも以上に間抜けだ。



「分からないことがあれば聞けばいい。
今更あれこれ世話をされる歳でもなかろう」

「相変わらずお前古風な話し方で上から目線だな」

「当然のことを言っているだけだが?」



担任は確かに。と普通にいつも通り納得する。
面倒がないので別に構わないが内心それでいいのか、と思ってしまう時も時折ある。



「よろしゅう、桜夜さん」

「ああ」

「ほな、何かわからないことあったら質問するね」

「好きにしろ」


















▽▲▽▲▽





















今日もいつも通りの一日を終える。
転校生には移動教室などの時にどこなのか分からないからついて行っていいか、などというような質問しかされず好きにさせていた。

しかし中学生になったからと言ってついこの間までは小学生だった私たち。
中身はあまり変わっていないようで、放課後になり自由な時間が増えた瞬間転校生へと質問をぶつけ始め、私はそれをカバンに荷物を詰めながら横目で眺めていた。



「花開院さ?!!
どこから引っ越してきたのー?」



京都だろうな。
京都から来たと自己紹介したのを聞いておらなんだか、たわけ。



「花開院さんて呼びにくい!
もう『ユラ』でいいじゃん」



馴れ馴れしい。
それは貴様が決めることではない。



「部活どーしてた?」



どーしてた?という質問自体意味がわからん。
普通なにやっていた?だろうが。

クラスメイトたちのどこか頭の足りない質問に何故か内心ツッ込みつつ帰る準備を続けていると清継くんがまたしても来て妖怪の話をでかい声で話し始めていた。



「町内の怪奇蒐集マニアの友人から買いつけた『呪いの人形と日記』がある!!」

「えー?」

「あれを使って!!
必ずや時論を証明してみせる!!」



相変わらず、清継くんは阿呆なようだ。



「その話…本当?それ…私も見たいんやけど」



誰も食いつかないと思ったネタに、誰よりも早く、そして誰よりもキラキラとしながら食いついたのは転校生だった。

まぁ、そうなるだろう。
私からすれば転校生の反応当然のものだった。
花開院となれば陰陽師なのは必然。
妖怪を滅するのがお前たちの仕事だ。
………ハゲはほぼ無意味だったが。



「いやー!嬉しいよ!!
わかってくれる人がいて!!」



なにやら都合のいい方へと誤解していく清継。
いや、分かってないぞそいつは。
自分の仕事だから乗ってるだけだ。



「めずらしいの?」

「そんなことはない!!
有志は他にもいるよ!!
ここにいる鳥居さんと巻さんもそうだ!!」

「え!?」

「私ら!?」

「それに実はこのクールな朧くんもそうなのさ!!」

「………………おい」



メンバーとして私の名前が呼ばれ、自然と眉間に皺を寄せながら清継を見た。
なんで、私がいつそんなことを言った。



「私…急にお腹が…」

「わ…私は頭痛が…」

「ほ、ほら!朧一緒行ってくれるみたいだし!」

「ありがとー!
朧ちゃん!私らの代わりに!ね!」

「貴様ら蹴られたいのか?」

「「目がマジ!!!」」



私をダシに使うとはいい度胸だ。



「おや…家長さんと奴良くん!!
ちょうどいいところに!!」

「ゲッ」

「しまった!!」

「よぉーし!!のってきたぞぉ!!」



一人で勝手に調子に乗った清継くんは言った。



「清十字怪奇探偵団!!
今日は僕の家に集合だからなー!!」



高らかと話す清継にため息すら出てこない。
というか、なんなんだその名前は。
ネーミングセンスの欠片も感じない名前だ。



「悪いが私は帰るぞ」

「いいやダメだ!!朧くん!
君は今日こそ来てもらう!!」

「なぜ私が」

「君も奴良くん同様名誉会員だからさ!!」

「前から思っていたが君は12歳だというのに随分とおつむが足りんようだな。
見ていて非常に可哀想に思える」

「朧の言葉のトゲが凄い!!!」



巻のツッコミは無視しよう。



























帰ろうとしたが、カナに一緒行こうと頭がもげる勢いで下げられ結局来てしまった清継宅。



「はぁ…すげぇ…ここ…清継くんち?」

「ふふふ…僕のプライベート資料室さ…」

「超成金じゃないすか…」

「口をつつしみたまえ!
大学教授をしている僕の祖父が使っていた部屋をまるごとかりてるんだ。
ま…そのうち僕の資料でうめてみせるさ」

「悪趣味な家だな」

「「「「………………………」」」」



………事実を口にしただけなのになぜ黙る。



に、しても……



「……………リクオくん」

「へっ!?」



マフラーをしている女子と話をしていたリクオは私に話しかけられてビクリとした。



「な、なに?朧ちゃん!」

「その子」

「え!?」

「私は知らん。紹介してくれるか?」

「え、あ、う、うん!」



その子、どこか雪麗の面影があるな…



「この子はえーっと、僕の友人で…」

「及川つららです!」

「つらら、か」



氷に因んだ名前。
そしてリクオと近い者。

側近、と考えるのが妥当。
となれば雪麗の縁者だろうか?



「私は桜夜 朧。よろしく」

「え、ええ」



つららは微笑んだ私を見て、ほんのりと頬を赤らめた。



そして本題に移る。
清継の言う呪いものは日本人形だった。
確かに雰囲気はすごくある。

清継はとりあえず日記を音読することにした。



「2月22日…引越しまであと7日。
昨日これを機に祖母からもらった日本人形をすてることにした。
といっても機会をうかがってはいたがなかなか捨てられなかっただけで、雨がふっていたが思い切って捨てた…」



ふと人形へ視線をやると手の位置が変わり、その目から血のような黒いものが目から流れていた。



「すると今日なぜか捨てたはずの人形が玄関においてあり目から血のような黒っぽい…」



人形の変化に気づいたリクオは何を思ったのか、人形にタックルを決める。


「どぉしたー!!リクオ━━━━!!
貴重な資料にタックルかますな━━━!!!」

「ハハ…ごめんきいてたらかわいそーで!」

「んなアホな」



「………」



孫よ、流石にそれは無いだろう。



「2月24日、彼氏にいって遠くの山に捨ててきてもらった。その日の夜…帰りから電話。
『助けてくれ…気づいたら後ろの座席にこいつがのってた…』」

「え?ど、どーなるの?それで」



私は話を聞きながら人形を観察する。



「考えてみれば昔から変だった…この人形…
気づけば髪が伸びているようにも見えた…」



ああ、今度は髪が伸びたな。



「あ…若…これ…」

「あぁ…まずいぞ…」



若、ね。
やはりつららは奴良組の者か。

それはが分かったのはいいのだが、もう少し小さな声で話せば良いものを。
全部近くにいる私に丸聞こえではないか。



「2月28日、引越し前日。
おかしい…しまっておいた箱が開いてる…」

「日記を…
読むのをやめてぇぇ━━━!!!!」



リクオの叫びと共に聞こえたのは何かが爆発するような音。



「浮世絵町…やはりおった。
陰陽師 花開院家の名において妖怪もののけよ
あなたをこの世から…滅死ます!!」

「…お…陰陽師…だって!?」



転校生が陰陽師であることに清継くんは大興奮
転校生は自分で何者であるかを話した。
己は京都の花開院の末裔で、要は修行のためにこの地に来たと。

そして彼女は笑顔で言った。



「より多くの妖怪を封じ!!
そして…陰陽道の頂点に立つ花開院家の頭首を継ぐんです」



…………花開院家の頭首がそんなにいいのか?
400年前の天才当主は随分と面倒がっていたがな。









その後、人形は完全に封じられその日はお開きになった。






















日曜日!奴良くんの家に集合だ!いいね!!

断固断る。

またかい!!朧くん!!
なんでそんな消極的なんだ!!

前も言ったろう。私はお前ほど暇ではない。

朧ちゃんなんか強い。
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