二章

05



あれから数年の月日が経った。
私は中学生となった。



「……やはり、妾たちとは共に来んのか…?」

「何度言えば良いのですか。
私は行かぬ。私はこの土地にいたいのです」



中学生になって、そこそこの時が経つ。
そろそろ新生活にも慣れ始めたこの頃。
そして今日両親が海外へ旅立つ日。
会社の海外展開の為だ。



「朧、本当に大丈夫か?」

「父上いい加減にしてくれ」

「だって………」

「朧…妾たちの宝…
おぬしに変な虫でも付いてしもうたら妾…
その相手を一飲みにしてしまうかもしれん!」

「確かに証拠隠滅にはもってこいですが」



母の妖怪としての本当の姿はヘビの姿。
それも人の数倍もあって丸呑みは赤子の手をひねるよりも簡単なほどの大蛇。
人など余裕で呑み込めるだろう。



「私も12。大人です」

「まだ子供だよ!
というかオレは一緒にいたい!」

「鬱陶しい。さっさと行ってください」



父上こんな人じゃないのになぜ今になってこんなことになる。



「仕方ない…ほれ和史殿ゆくぞ」

「毎日電話かメールするから絶対返してくれ!」

「メールにして。
面倒でしない場合もあるが私はとりあえず生きれるから心配はせんでいい」

「娘が妻に似すぎてなんか冷たい!
そしてめっちゃ上から!!」

「妾に何か文句でもあるのか?」

「ないっす!!」



そうして早朝両親は空港へ。
私は少し時間が経った後学校へ向かった。




















▽▲▽▲▽




















「だから…いるんだよね!妖怪は!」



学校に着けば、小学からの知り合いである清継がバカな事を話していた。



「……………」



意気揚々と、妖怪は存在すると言い出す。
昔はいないだなんだとリクオとしょうもない喧嘩をしていたのに180°意見変えおって。
ああいう奴は疲れる。

幼稚園からの中でもあるカナに借りるものがあり隣のクラスに今来ている訳だが、他クラスとはいえ別に気まずいと感じることは無い。
ものを取りに行ってくれているカナを待っているとクラスの女子が話しかけてきた。



「ねぇねぇ!桜夜ちゃんはどう思う!?
清継くんの言う妖怪!いると思う!?」

「………知らんな」

「ええー、つまんないその答え!」

「そんなもの私に求めるな」



流石高嶺の花〜!なんて言われるが全く意味がわからん。
私はこの中学で高嶺の花だのと呼ばれているがなぜそうなったのかは知らん。



「ええー!?清継くん旧校舎行くのぉ!!?」

「旧校舎…?」

「朧ちゃん知らないの?今話題なんだよー。
ウチの中学の旧校舎、出るって噂なの!」



ほらあそこ!と私のいる場所からギリギリ見える位置の旧校舎を指す彼女。



確かに言われてみれば、外見だけなら出そうな雰囲気はあるな。



「朧くん君もどうだい!
是非、君も一緒に行こうじゃないか!」

「断る」

「ええ!何故!!」

「君は暇かもしれんが私は忙しい」

「朧ちゃんどストレートに清継くん暇人疑惑たたきつけた」



自ら妖怪に近づくのは危険。
中には害のではなく幸福を与える妖怪もいるが、皆が皆そうでは無い。
むしろ大概は害を及ぼすだろう。
そんな危険の中にわざわざ飛び込むこやつらを守る道理は私には無いのだ。



「朧ちゃん…行かないんだよね?」

「………リクオくん、君はそこで何を聞いていた?」



行かんと言ったろう。と少し不機嫌そうに言うとリクオくんはどこか安心した様子でそうだよね!ごめん!と謝る。



「…君は行くのか」

「……だって、清継くんだけじゃ絶対危ないよ…」

「だろうな」

「死んだりしたら本当にシャレにならないし…」



それにもしもウチの組の奴らだったらホントただじゃおかない…と小声でボソボソ言ったの普通に私に聞こえてるが…まぁいいか。



「ま、気をつけることだな」

「うん、ありがとう」






































夜になり、私は思わず旧校舎が見える校舎の屋上に来ていた。
やはりどうも気になってきてしまったのだ。
リクオがいるから大丈夫だとは思うのだが。



「…思ったよりも随分と集まっているようだな」



いくつか妖気も混じっているのは恐らくリクオの護衛だろう。
とはいえ……



「……どうやらリクオは気づいておらんな」



私の孫は鈍感か?
………それと………



「いい加減出てきたらどうだ」

「バレちまってたか」



そんなことを言って物陰から出てきたのは、数年ぶりの鯉伴だった。



「…………」

「何の用だ」

「…………なぁ、あんた」

「貴様が、何年も前からずっと私のことを嗅ぎ回っていたことは知っている」



そう、助けたあの日から鯉伴は私のことを調べ回っていた。
本来なら気づかれなかっただろうその調べ。
しかし私には見聞色の覇気がある。
コソコソしていてもバレる時はバレるのだ。

だがまぁ、大したことは知れなかったろう。
せいぜいあの母上と人間の間に生まれたリクオと同じクォーターであるくらいか。



「私に何が聞きたい」

「………じゃあ、単刀直入で言う」

「ああ」

「あんた、おふくろ…なのか?」

「………………」



どこか泣きそうなその顔。
震えている、愛しい息子の声。



「…………それを聞いて、お前は何がしたい」

「俺は、ただ知りてぇんだ。あんたが、おふくろなのかどうか。そしたら説明がつくんだよ。
あの日、死ななかった理由が。
あん時助けてくれたのがあんたで、助けてくれた理由も、その容姿も」



鯉伴のあの時の記憶はあやふやなものだったがとてもリアルだった。
知っている母よりもあの時の母は幼く、華奢で、声が子供のものだった。
そう鯉伴は言う。



「……………」

「なぁ、答えてくれ。教えてくれ。
………あんたは、おふくろなのか?」

「…………」



素直に、そうだと、肯定することが出来ないのはなぜなのだろう。



「私の名は、桜夜 朧」



素直には言えないけれど、私は。



「前世は、ぬらりひょんの妻であり…私は、そなたの母であったものだ」



私の声は、思っていよりも小さな声だった。



「…やっぱり、おふくろなのか…」



真実を告げれば、特に驚くわけでもなくやけに静かな声で鯉伴はそう言った。
そして鯉伴は、ゆっくりと私の方へ歩き出し、その手を伸ばしてきた。
私はそれに何も反応せずただ立ちつくす。



「おかえり、おふくろ」



抵抗する素振りを見せない私をふわりと抱きしめてきた鯉伴。
久しぶりに包まれた息子の腕。
その香りは、昔と何も変わらなかった。



トクントクンと心臓の動く音が聞こえる。
鯉伴の存在を、しっかりと感じた。
あの日の消えてしまいそうな鯉伴ではない。



「………やめてくれ、鯉伴………」

「息子からの抱擁がそんなに嫌かよ」

「違う」



違う、逆なのだ。



鯉伴は私をゆっくりと離す。


「なぁ、いつ、転生したんだよ。
ていうか転生って普通すんのか??
たまたま?」

「偶然だな。幼稚園の頃にリクオにボールをぶつけられた衝撃で思い出したんだ」

「それは…なんというか。
悪かったような、良かったような…」



なんとも言えない心境のようだ。
息子のおかげというか、そのせいというか、という顔だ。



「親父に会わねぇのか」

「ああ」

「どうしてだ?
親父は今でもおふくろのこと───」

「言うな」



私は、鯉伴の口を強制的に塞ぐ。



「私を今でも想ってくれているのは何となく察したさ。これでも、あやつと共に一度は生きたのだからそれくらいはわかる。
でもだからこそ、私は会いになど行けんのだ。
私は私であって、もう昔の私では無い。
ただ記憶のある別人」

「そんな事ねぇよ。おふくろはおふくろだ」

「それにお前もぬらりひょんも今の生活に満足しているのだろう?ならそのままでよい。
私が出る必要は無い」

「親父はおふくろに会いたがってる。
ずっと一人で、おふくろへの想いずっと抱え込んでるんだぜ」

「…………あいつは、一途すぎて辛いな」



私の心も痛くなる。



「それでも私は自らは会いになど行けん。
私は今の奴良組を壊すのが嫌なのだ」

「おふくろ…」

「だが私のこの容姿だ。昔と何も変わらん。
あやつに出会ってしまえば、あやつは否が応でも確実に関わってくるだろう」



それがたとえ記憶のある私でも、無い私でも。



「鯉伴」

「………」

「ぬらりひょんには私のことは絶対に言うな」

「どうして」

「私とぬらりひょんの為だ」



一度会ってしまえば、今耐えているものも全て水の泡となる。
会ってしまえば、私の抱える想いもまた、溢れてしまうのだろう。



「お前は、リクオを育てることに専念しろ。
あともう少しあの子には人間の世界と妖怪の世界の違いを教えてやれ。
危なっかしくて見てて疲れる」

「そ、そう言われてもな…」

「……元気そうなお前の顔が見れてよかった」



鯉伴がいるのなら、ここを任せてもきっと大丈夫だろう。



「またな、鯉伴」









奴良組の未来の三代目を、よろしく頼む。






























おふくろ…………

鯉伴様!先に行かないでくだされ!

鴉天狗。

?こんな所で一人でなにを?

…………少し、話をな。

……おひとりで??

んなわけねぇだろ。
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