──京の都
───闇に包まれた、夜




「ハァ、ハァ」




赤子を抱いた女人は必死に何かから走り逃げていた。
しかし突然何かにぶつかる。




「!?と……通れない!?何もないのに…」




そこには何も無い、けれど前に進めない。
恐怖から顔が歪むその女人はずるりと足首に魚がまとわりついたことに気づく。




(すすめない………!?そんな…そんな…)




その女人は何から逃げていたのか。
それは、生き胆を狙ってくる妖怪からだった。




「うわぁぁ…ヒィッ、お、お願い…こ…この子だけは…」

「ギヒヒ…
よくやったぬりかべ、三途魚…赤子の生き胆…
喰らえば百人力の妖になれるという…」




妖怪たちは、囲うように集まった。
女人は赤子だけは助けてくれと命乞いをするが…




「女よ逆じゃ喜べ…ワシの力となるのだから!!」




妖怪が女人へと襲いかかった瞬間、後ろのぬりかべが何者かに斬り捨てられた。
それ一瞬のことで、女人は何が起こったのかわからず涙を流しながら振り返る。
しかし、次の瞬間声を上げたのはその女人ではなく女人を襲っていた妖怪たちが脅えたように叫んだ。




「ぬ…奴良組だぁぁぁああああああ!!!
奴良組が出たぞぉおおおお━━━━━━!!」

「さぁて今日もいこうか…お前ら。妖狩りだ」




奴良組と言われたその妖怪集団。
その中心にいる銀にも見える金髪と黒の髪を持った男は妖狩りだと言った。
その言葉を合図に妖怪が、妖怪を襲う。




「貴様らの大将は誰か!?この牛鬼が相手になるぞ」

「はは、やはりお前が一番の出しゃばりか。
よこせ、えりまきにする」




牛鬼と名乗った男の手にはたった今殺したばかりの犬妖怪がいた。




「…………お役に立てて光栄…」




人間から見ていても、奴良組とやらと相手の妖怪では圧倒的な力の差があった。




「ふふ…ステキですぅ」

「だろう雪女。これがワシの組じゃ。ハッハッハ」

「いいえ、あなたがステキなの。総大将ぬらりひょん様…」

「やめろ。ワシを殺す気かい?」

「あら、一度くらいいいじゃない。妾と口吸ひ」




妖怪から逃げていた女人はガタガタと震えながら、ぬらりひょんと呼ばれた男へ助けて、と訴えた。
女人は震える声のまま言えば、彼はそんな女人を見てまだ居たのか、と言いたげに笑った。




「ゆけ…生き胆なんかに興味はない。
ましてやしょんべんくせぇ赤子の胆なんてな。
ワシは…魑魅魍魎の主になるんじゃからな…」
























妖狩りを終え、宿泊する遊郭に戻ってくるといつものように酒と料理を楽しむ。
だが総大将ぬらりひょんはどこかつまらなげだった。




「総大将?どうかされましたか?」

「ん?いや、なんでもねぇさ。ただ…」

「ただ?」

「なんじゃか最近つまらんと思ってな。
手応えある奴もおらんし京の都に来てそこそこ経った。
どうも、京にゃ飽きちまった」




やっぱり江戸がええのうとぬらりひょんは呟く。
鴉天狗はそんなつまらなげな総大将の興味をそそるものは何かないかと記憶を漁る。




「あぁ!そう言えば総大将
"治癒姫姉妹"のことはご存じですか?」

「?ああ、名前だけはな」

「では、その噂の方は?」

「噂?なんじゃそれは」




そこまでは知らなんだぬらりひょんは、先を催促するように鴉天狗に視線をやる。




「治癒姫姉妹…
姉姫を朧姫。妹姫を珱姫と言うらしいのですが」

「ほぉ」

「姉姫は日ノ本一、妹姫は姉姫を除けばこの京一と謂われる美貌を持った美姫姉妹だとのことでして」

「日ノ本一、ねぇ。そりゃまた大層なもんじゃな」

「恐らく噂が一人歩きしたのでしょう」




実はまだ他にも噂がありまして、と言えばぬらりひょんは興味がそそられるがまま言え、とまた催促してくる。




「ええっと、確か…
『美しき治癒美姫姉妹。
姉姫その凛々しゅう気高きその姿、まるで天女の如し。
妹姫その愛らしゅう全てを包み込むその姿、まるで花の如し』
という噂があるのです」

「天女に花か!そりゃあいい」




ニヤリと笑うぬらりひょんに鴉天狗はいつもの調子が戻ってるなと思い安堵する。
相変わらず、総大将は楽しいことが好きな性格で、子供心を忘れない方だ。




「よし、決めた」

「は?なにをです?」

「明日その姫らの元に行ってみる」

「は!?」

「なぁに、別に何かをしてくるわけじゃねぇ。
それ程の噂の立つ美姫姉妹を見に行くだけじゃ」




心配はいらん、と言われるが正直、このぬらりひょんのことだから何をしでかすかわからない。
故に鴉天狗は険しい顔つきをした。




「……見に行かれるのはいいですが、お願いですから問題は起こさぬように」

「わーってる。
というかワシはそんな問題など起こしとらんわ」

「何かと火種を持ち帰ってくることも多いでしょう!
あなたは!」

「………相っ変わらず真面目じゃのう、おぬし」

「普通です!!」

「お前のは普通とは言わん」






奴良組は今日も宴で夜を明かす。









───物語は、ゆっくりと動き始めた











カラス、その姫姉妹の屋敷はどこじゃ?

いやそこまでは知りませんよ…

なんじゃ使えんのう

噂教えただけでもいいでしょう



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