あれから数年が経ち、珱は16に、私は17になった




「朧!駄目だと言えば駄目だ!!
何度言わせるつもりだ!!」

「父上こそ何度言えばわかる。
私は貴方の言いなりになるつもりなど微塵もない」

「町へ行くなど許せるわけがあるか!
珱も朧もわしの大事な大事な娘!
危険のある街に行かせられるわけなどあるか!」




私は父に無断で外に行こうとしていたところを見つかり、現在言い争い中である




「町に行くだけで何をそうムキになる。今は昼間だ。
妖怪などおらぬわ」

「そうとも限らぬ!
愛しいお前に何かあっては母になんといえば良いか!」




そんなことを言う父を鼻で笑ってやりたくなった
貴様が死に、万が一、いや億が一に母上の元へ行けた場合娘を金の道具にしておりましたと正直に言ってやれ
そして母上に嫌われれば良い
結局今、こやつが愛しているものは我らではなく我らの持つ"力"だろうて




「時間の無駄だ」

「これ、朧!待たぬか!!!」




私は、父を無視して外へ出た
当然、家の者…去年あたりから家に居座る陰陽師が後を追ってくるも、それらを全て撒いて京の町へと出る
今世は前世と異なり思うように鍛えは出来ないがそれでもこの時代の者共を撒くには困らない程度には鍛えているのだ、私は






街へ着けば、そこは人で賑わっていた




「……珱も連れて来られればいいのだが」




だが流石に珱も来るとなると易々とは追手を撒けなくなるだろう
真面目に撒こうとすれば出来るが、流石に姉が自分を抱えられるほどの力を持つとは思わないだろう珱には相当な衝撃を与えてしまう



「…土産を買ってやるか」




金銭は多めに持ってきているし、問題は無いだろう




朧はそう思いながら京の町を練り歩いた
一応持っている小袖の中で一番地味目のものを選んだ
しかし地味とは言ったものの、あくまでもそれは姫としての地位での地味
傍から見れば十分華やかなものに見えるだろう




「…甘味でも食べるか」




近くにあった団子屋に入り、茶とみたらし団子を頼む




「あらぁ…こりゃ凄い別嬪さんや」

「………………」




ふと長椅子に座る私の目の前のところから声がかかった気がして顔を上げると、そこには烏帽子をかぶり陰陽師のような格好をした狐っぽい男がお茶片手にぽかんと私を見ていた
不躾に見つめてくるその視線が鬱陶しく、私はその男を見て視線を逸らした




「……君、姫さんやろ?どこの姫さん?」

「貴様に答える義理はない」

「めっちゃ気ぃ強いんやね。
ボクの勘としては…治癒姫姉妹の…姉姫様やない?君」




治癒姫、それは私と珱を総称して言われる名だ
わかってるなら何故わざわざ聞く、と黙って眉間にシワを寄せた




「図星やな。…へぇ、まさかこないなところで会えるとは。驚きやわ」

「馴れ馴れしく話しかけるな」

「酷いなぁ。でも噂の通りの美貌や。
地味目の着物着はってもなんの意味があらへんわ。
目ぇ惹いてしかたない」




噂?と思わず顔を上げるとニコニコとしたそいつの顔が視界に入った
こやつの笑顔は、なぜだか無性に腹が立つ




「知らんの?君たち姉妹の噂。
姉姫は日ノ本一、妹姫は君除けばこの京一と謂われる美貌を持った美姫姉妹の噂や。

『美しき治癒美姫姉妹。
姉姫その凛々しゅう気高きその姿、まるで天女の如し。
妹姫その愛らしゅう全てを包み込むその姿、まるで花の如し』

…ってな」

「…………」




噂など興味などなかったが、まさかそんなことが流されてるとは思わなんだ

朧はやっとやって来た団子と茶を受け取り、黙ってこれを口にした




「あ、せや。名乗ってへんかったな。
ボクは花開院十三代目当主 花開院秀元や」




うちの陰陽師君んちおるやろ、と笑う秀元とやらにまたイラッとする
何かと癇に障る男だ




「…朧よ」

「朧姫ちゃんやね。よろしゅう」

「よろしくするつもりはない」

「取りつく島もあらへんなぁ」




そんなことを言うのにどこか愉快そうなこの男

そもそもだが、何故ここに花開院の当主がいる?




「てかさ、朧姫ちゃん護衛は?」

「置いてきた」

「え、危ないで?」

「放っておけ」

「いやいや」




仮にも向こうからすれば依頼を受けた公家の、ましてや守護対象がこんなところで一人のんびりお茶を飲んでいるなんてなんの冗談だ、と言いたいところだろう




「おてんば?もしかして」

「なにをもっておてんばというのかは知らん。
私はただ私の思うまま、思うがままに生きるだけ。
誰の指図も受けん」

「………勇ましいもんやなぁ」




仮にも前世では海賊をやっていたのだ
そこらの女と同じにしてもらっては困る




「私は男からの指図は特に受けるつもりは無い。
大した器も技量もないくせに男であるが故にふんぞり返る奴らは最も嫌いだ」

「…男嫌い?」

「好きではないな」




食べ終わった串を皿に並べ、茶を飲む
そうすると口の中も喉もすっきりして、目の前の男を見た




「私はもう行く。屋敷に連絡は不要。
その気は無いだろうが、念の為言っておく」

「分かっとるよ。でもホンマに気をつけや。
昼間でも出る妖怪はおるから」

「返り討ちにしてくれるわ」

「……………」




私の返しにキョトンとすると、その直後声を上げて笑った




「アッハハ!君面白いなぁ…姫様が妖怪を返り討ちね。
いいと思うでー、その意気込み」

「………」




その様子を無言で見つめ、特にそのあとは言葉を発することなく私は会計を済ませてそこをあとにした





それを秀元は目を細めてその姿を見送った




「朧姫のもうひとつの噂…
"気高き天女 誰にも降らぬ 強き天女"…か。
確かにあれは誰にも降らんわ」




噂そのままの、姫だった
この世のものとは思えぬほどの美貌
誰にも降らぬ気高さ、凛々しさ




「もうちょい治癒姫姉妹の屋敷に陰陽師、増やした方がええかもなぁ」




あの姫ならばきっと妖怪たちも力ずくで奪いに来そうだ
兄がいるとはいえ、些か不安もある




「……………そろそろ戻るかぁ。お姉さんお会計




そういえば本家抜け出してたの忘れてたわぁ、と秀元は会計を済ませて本家へと歩を進めたのだった











珱には………甘味の土産でよいか



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