私の覇気に当てられて、みんな仲良くお昼寝(気絶)しようの一件から半月が経った。




「……何やってるんだ、お前たちは」




いつか見た4人組が煙管片手にたむろっていた。
いや、牛鬼は煙管持ってないのでただ座ってるだけだが。




「ややっ、久しぶりじゃのう奥方!
相変わらずの美しさじゃ」

「それはどうも」

「どうかしたのかい?朧」

「いや、でかい男四人組がこうも縁側で集まってたから何やってるのか気になっただけだ」

「ただの世間話ですよ、朧様」




牛鬼の言葉に妖怪の世間話とはどんなものかふと気になったがここで変に話を広げてもあれかと思い朧はそう、とだけ返しておく。




「そういえば、今日は総会だったな」

「ええ。ですので我々は本家に赴いたのですよ」

「まぁわしら特になんの用もなく遊びに来ることもあるがのう」

「頻繁に来すぎだと思うぜ、俺は」

「なんじゃあ?
一ッ目、わしらに会えて嬉しくないのか?」

「なんだってお前らに会って喜ばにゃいけねぇんだよ…」




そうは言いつつも仲のいい彼らのことだ。
朧はふっと笑うと、朝から調子が悪かったものの、その調子の悪さがより増して突如襲ってきた。
それに思わず、顔を歪める。




「っ」




気持ち悪い。




急な体調不良に追い打ちをかけるように今度はフラリと立ちくらみのようなものがして朧はしゃがみ込むと着物の袖で口元を抑える。
その様子に騒いでいた四人は慌てて朧に駆け寄った。




「朧!?どうしたんじゃ!?」

「ぅっ、っ」

「朧!っ、一ッ目!鴆を呼んでこい!
確かもうここに着いてたはずじゃ!!
引きずってでもええ!!」

「わ、わかった!」




ドダダダっといつになく焦った様子で鴆ー!!と叫びながら走り去る一ッ目を朧はちらりと流し目で見送るも込み上げる吐き気に気分が悪くなる。
胃の中にあるものが逆流してくるような感覚に顔を顰めながら堪らず呻き声を上げた。




「奥方気持ち悪いんか?
吐くなら庭の方に吐いてええからの?」

「朧大丈夫か?
体調が悪かったんなら休んどればよかったものを…」




朧の背をさするぬらりひょんは体調不良に気づけなかったことにショックを受けてるのかその声には少し悲しげだ。

だがそんな中、苦しむ朧を見て牛鬼はふむ、とあることを考えていた。
そして頭の中でなにか結論が出たのか、意を決したように朧に尋ねた。


「朧様……無礼を承知でお聞きします。
……最近月のものは来ておりますか?」

「?………………いや」




別にそういう話には恥じらいはないので朧は特に気にした様子もなく普通に答える。
すると牛鬼はやはり、と呟くと朧を真っ直ぐ見据えて言い放った。




「……もしや、ややが出来たのでは?」

「「「……は?」」」




牛鬼以外の声が重なり、牛鬼に視線が集まった。




「鴆に診てもらわねばちゃんとはわかりませんが、以前書物で見たややができた時の症状とよく似ておりますのでもしやと思いまして」



淡々と告げられる牛鬼の予測に、ぬらりひょんと狒々は慌てた。




「や、ややじゃと!?!?」

「おめでたじゃねぇか奥方……!!」

「い、いやまだそうと決まったわけじゃ、……ぅっ、ぐ」

「朧様ご無理はなさらず…」

「一ッ目ええええええ!!
さっさと鴆を連れてこんかぁぁぁぁぁぁ!!!!」




屋敷中に響くような、どでかい声を発したぬらりひょんに思わず密かにうるせぇと思ったのは秘密だ。
すると向こうからドダダダっとさっき聞いた音と同じ足音が近づいてくる。




「ちょっ、一ッ目!?一体なんだってんだよ!!?」

「うるせぇいいからさっさと来いってんだ!
総大将が呼んでんだよ!!」

「だからっていきなり部屋入ってくるやいなや襟持って引きずるか!?ゲホッ」




一ッ目がぬらりひょんに言われたとおり本当に鴆を引きずって来た。




「鴆!!」

「そ、総大将…一体なんだってんですかい?
……奥方?体調悪いのか?」

「あぁ、診てやってくれ」

「そういうことですかい…
じゃあ総大将、奥方を部屋に運んでくだせぇ」

「わかった」




朧を抱き上げ自室へと運んでいくぬらりひょんを不安げにほか三名も見つめつつ、そのあとを思わず追った。















▽▲▽▲▽















診察の間は部屋には朧と鴆だけがおり、診たあと鴆は外で待機しているぬらりひょんへと声をかけた。
すぐに彼は入ってきて一緒に待っていたらしい先程の三人が心配そうに部屋を覗き込む。




「……そこから覗き込むのなら入ったらどうだ?」

「い、いやしかしな…」

「入っていいのならわしゃあ入るぞ?
ほれ、牛鬼も入れ」

「狒々…押すな」

「一ッ目も、入れ入れ」

「なんで狒々が言うんじゃ。そこはワシじゃろ」

「ええじゃろうが別に」




結局全員中に入り、鴆の言葉を待つ。




「それで、どうじゃったんじゃ?」

「そうですね」




鴆は朧とぬらりひょんを交互に見て、笑った。




「おめでとうございます。三月みつきといったところかと」

「…………そ、れは…………」

「やや子に御座いますよ、奥方。総大将との」

「や、や子」




優しく微笑みながら、告げられた言葉。
あまりにも突然過ぎて、他人事のように聞こえた。
ゆっくりと、私はそこに手を当ててみる。




──ここに、新しい命が、いるのか?




「大将!!やったのう!二代目じゃぞ!!」

「ワシと、朧の子か……っ、よくやった朧!!」

「うぐっ」




ガバッと勢いよく抱きついてきたぬらりひょんに鴆は朧の身を案じろと注意をした。




「おめでとうございます総大将。
この牛鬼、大変嬉しく思います」

「いつかできるとは思ってたがやっぱ早ぇな…
…まぁあんたらの頻度なら出来てもおかしかねぇが」

「よし、大将はそのまま奥方についててやんな。
わしは屋敷中に言いふらしてくる」

「おう、頼んだぜ狒々」

「狒々お前ぇな……」

「一ッ目、牛鬼、お前たちも行くんじゃ。
大将の子ができたんだぜ?今日は宴じゃ」




牛鬼は異論はないのか、スクリと立ち上がる。
面倒くさそうな一ッ目は狒々に襟を持たれてさっきの鴆よろしく引きずられて部屋をあとにした。




「……ここに、ワシの子が居るのか」




腹に手を当てている朧の手に重ねるようにぬらりひょんは手を置くとなんとも言えない感情が込み上げてきた。




「うるさいのも出てったところですので話をしますが、三月ではまだまだ子が安定しておりませんのでどうか奥方は安静になさってください」

「……わかった」

「そして奥方の様子ですと多分つわりがある様なので、無理に食事を完食はしなくてもいいですが毎食少しでもいいのでしっかり食べてください。いいですね」

「あぁ」

「栄養をとらねばやや子にも影響しますからね」




なんだか、実感がわかない。
私が母になるのだ。
この、私が。




「……実感が、わかないな」

「今はそういうものでしょうな。実感など腹が大きくなり始めてやっと感じるものでしょうから」

「……そうだな」




まだまだぺったんこな腹に。
ここにぬらりひょんと己の子がいる。
今は小さな小さな命でも数ヶ月すると存在を主張するように腹が脹れてくるのだ。
そう思うと、なんとも言えぬ感情が込み上げる。




「ぬらりひょん」

「なんじゃ?」

「ありがとう、私に子をくれて」

「……ワシだってそうじゃ」




必ずこの子を産もう。
そしてたくさんたくさん、愛してやるのだ。




「奥方が身ごもったということですし、これからは俺も定期的に本家に来て診ますね」

「……貧弱な鴆がそんな定期的に来れるのか?」

「前から思ってたがあんた物事はっきり言い過ぎだよな、奥方」

「貧弱に貧弱と言ってなにか悪いか」

「そこが朧のいいとこなんじゃ。
それに鴆、お前は間違いなく貧弱じゃ」




あまりにも無礼な夫婦。
鴆は拳を握り額に筋を立ててこんの夫婦……!と震えていた。




「はぁ…………
まぁ、とりあえず何かあればすぐに呼んでください」

「おう、よろしく頼む」

「私が子を産む前に死ぬなよ」

「オイ、俺は別に死にかけじゃねぇぞ」




相変わらずそう主張してくる鴆が面白くてくすくす笑えば心底疲れた顔をする鴆。
本当からかい甲斐のある男だと思う。




「とりあえずこのまま奥方は安静でいいですね」

「ああ、分かった」




その時だったダダダダダタっと廊下から何かがすごい勢いでこっちに近づいてくる音がし、それが部屋の前まで来たと思った瞬間障子が勢いよく開いた。




「朧ッッ!!!」

「姉様!!!!」

「……雪麗に珱……せめて一言言ってから開けろ。
着替えでもしていたらどうするつもりだ?」




慌ててきたのは雪女の雪麗と妹の珱だった。
きっとふれまわっている狒々たちの話を聞き付けてきたんだろうが、勢いが何分良すぎるのだが。
ぬらりひょんもなんだなんだって顔をしている。




「それはどうでもいいわ!ややができたって本当!?」

「ま、まぁ……三月といったところらしい」

「三月!姉様おめでとうございます!!」

「ありがとう」

「妖様とのお子ですか……!」

「……いや逆に誰だと思ってるんだ?」




あいにく、そういう相手はぬらりひょんしか存在してないのだが、と心の中でツッ込む。




「身ごもったんなら、朧!
あんたこれから一切の家事をすることを禁ずるわ!!」

「は……」

「そりゃいい案じゃ。
朧、家事はするな、いいな?」

「……なら何をしろと」

「「「何もしない」」」




この三人の考えが一致するとは、なんと恐ろしいことか。
私が顔を引きつらせていれば鴆が今度は愉快と言わんばかりにくすくす笑いだしていて白い目を向けてしまう。




「く、くく、奥方は随分と大切にされているようで安心しました」

「……うるさいぞ」

「総大将たちに任せていれば何からでも守ってくれそうで安心ですな」

「当たり前じゃろうが」

「…………まぁ、子が産まれるまでの十月十日だけだ。
我慢してやるさ」




そう言って笑った私の髪に口付けをひとつ落としたぬらりひょんに珱は顔を赤くした。
相変わらず、初心な妹だ。





















奥方ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

やや子ができたってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

本当ですかぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!




…………部屋の外うるさいな

広間既にお祭り騒ぎになってたわよ。

……早すぎないか?

雪女、珱姫今日は宴じゃ!豪華な飯作ってくれ!

はい!妖様!!

材料買い足しに行かないと、あと酒も。



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