婚儀をあげてもう少しで一ヶ月が経とうとする頃。
奴良組の妖怪たちが実は密かに懸念していた事件が、ついに起こった。




「…………雪麗、今、なんと?」

「だから…ぬらりひょんの子供できたって女共がなんか大量に押しかけてるのよ」




朧は自室で自分の着物を縫っていたところ、いきなり訪ねてきた雪麗に何の用かを聞くとそんなことを言われた。




「…………へぇ」




雪麗は朧の雰囲気に怒気が混ざったことに気づく。
だがしかし、朧の反応は当然。
祝言をあげて、まだ一ヶ月もギリギリ経ってないところでいきなり昔の女を名乗り子供が出来ただなんだと押しかけられたのだ。




「ぬらりひょんは?」

「完全にないとは言いきれないから追い出すに追い出せずにいるわ」

「そう。…まぁ、確かにぬらりひょんは女遊び激しそうだからこうなることは何となく予想していた」

「激しそうっていうか激しかったわよ。それはそれは」




女をとっかえひっかえ、あっちへ手を出しこっちへ手を出し。
その様子を見てきたからこそ雪麗ははっきり言ってざまぁみろと内心思っている。

一度は己も惚れた男。
いや、未だに惚れたままかもしれないが朧という存在が出来て自分が入り込む隙も、自分が朧に勝てる気も全くしない為彼への恋愛感情は急激に冷めていっているのも本当。
故に今回のことはいいお灸になればいいと思う。

それに、正直なところ、雪麗は朧という人間にとても惹かれている。
女として憧れるような女なのだ。
だからぬらりひょんが朧以外の女にこれから目移りすることはまず無いだろうが、手の早い奴のことだから今回のを教訓にすればいいのだ。




「ぬらりひょんは今どこに?」

「広間よ。押しかけられてる女たち相手してるわ。
他の妖怪たちも」

「とりあえず完全に違うって女だけは負い返せばどうだ?」

「それは既にやったわよ」




さすが仕事の早い雪麗だ。




「何人残った、その疑惑女共は」

「十人くらいね」

「……結構残ってるのね」

「けど妾としては全員違うわ。
ぬらりひょんの好みじゃないのもいるし、これはほぼ確実にぬらりひょんが魑魅魍魎の主になったからの押しかけね」




雪麗はそう断言したので、朧はその理由を尋ねた。




「だってまず子供が本当にできていたのならなんで今まで来なかったのよ?それに京へ行くとなってから支度やらなんなりでそんな女と遊ぶ暇はなかったはずだものぬらりひょんにも」

「そう」




そうなればあまり腹の脹れていない、妊娠主張の女妖怪はまず却下である。
あそこまでの大掛かりな出入りなのだ。
ぬらりひょんとて相当気合を入れての遠出の出入りだったはず。




「あと生まれたって子供連れてる奴は全員ぬらりひょんっぽさがまずない」

「……母親似なんじゃないのか?」

「ぬらりひょんよ?あのぬらりひょんよ?
ぬらりひょんの血が女に負けると思うわけ?」




それを言われては黙るしかない。
けど雪麗の言う通りぬらりひょんの遺伝子が相手の女のものに負けるなんてことはない気がする。




「じゃあ、一番疑わしいのは大きい腹した女だと」

「ええ。そうね。それが一番かしら。
でもその女達はぬらりひょんの好みじゃないのよねぇ」

「好みじゃなくても気が乗ったらやりそうだがな」

「そこなのよね」




朧は不機嫌そうにチクチクと着物を繕う。




「女共が押しかけたことは置いておき…
それでその女どもは何を求めてここへ?」

「妻にしろ、よ。その時点で絶対魑魅魍魎の主の妻になる為に来たとしか考えられないと思わない?」

「そうだな」




しかし流石に押しかけ女房もいいところだ。
だが、そうなってもおかしくない状況になるまで女遊びに興じていたぬらりひょんもぬらりひょんだ。




「ぬらりひょんが既に妻がいるって言ってもあいつらなら妾めかけでも、ですって。
そこまでして魑魅魍魎の主の女になりたいのかしら?」




私は御免だわ、と雪麗は言う
朧は雪麗がぬらりひょんに惚れていたことを出会った時から知っているし、なんなら本人の口より聞いた身だ。
だから朧は雪麗がそう言うとは思わなかった。




「なによ、その顔は」

「雪麗はどんな形であれ惚れている男
ぬらりひょんの女になりたいとは思わないのか?」

「違うわよ。惚れ"てた"の間違いよ、それ。
もうあいつへの恋慕は急速に冷めてるわ」

「ほう、それは知らなんだ」

「相手があんたじゃどんな美姫と言われる女でも裸足で逃げるってもんよ」

「なんだ、それ」




クスリと笑い一旦縫い物をやめて傍らに置いていたお茶を飲む。



「妾は妾以外を愛する男なんて嫌よ。絶対に。
雪女は嫉妬深いの」

「自分以外を愛する男なんて女なら誰だって嫌だろう」

「それでも側室をとるのは変な話じゃないでしょ?」

「確かにそれはそうだが、私だって嫌だ。
ぬらりひょんが私以外の女に愛を囁いたり、甘い言葉投げかけるなど許さん。
その場合はぬらりひょんをボコボコにしてやるだけだ」




その時は覇気付きの蹴りや拳をお見舞いしてやろう。
最悪顔の形変わるまでボコボコにしてやる。




「……ふっ、アハハハッ
数ヶ月前まで姫だった女の言う言葉じゃないわね」

「姫であった頃でも同じこと言うぞ」




愛しい人に自分だけを見てほしいと思うのは何らおかしな話じゃないと私は思う。
この世界は一夫多妻が認められていて側室なんぞ権力者なら当たり前な話だ。
事実私や珱は豊臣秀頼様の側室になれと言われて大阪城へ攫われたのだから。




「……女たちはどうするつもり?
ぬらりひょんの妻として、あんたは」

「追い出すの一択だな」

「本当にぬらりひょんの子供を孕んでいたとしても?」

「あぁ。あくまでも遊びで手をつけた女どもだろう?
そんな女どもが今更なんだ」




ぬらりひょんの妻は、この私ただ一人だ。




「ぬらりひょんの過去の女なんぞに興味はない。
今も、これからも私がぬらりひょんの女だ」

「………朧って本当、惚れ惚れするほどいい女だわ」

「急になんだ」

「何でもないわよ」




となれば、やることはひとつよ。
雪麗はそう言って立ち上がり朧の着物箪笥を開け放つ。




「……雪麗?人の箪笥をいきなり漁り出すとは何事だ」

「あんたはうちの総大将の女。妻よ。
追い出すんなら徹底的にやる。
あんたを着飾って美しさで勝てないと滅多打ちにしたあとその気の強さで心も滅多打ちにしてやればいいのよ!」

「…………」




はて、私はなにか雪麗の変なスイッチでも入れてしまったのだろうか?
朧は思わずそう思った。




「さぁ朧!やるわよ!!」

「……雪麗のそんなやる気、未だかつて見た事がないな」

「まだ出会って数ヶ月で何言ってんのよ」

「そう言うな」




ムッとする雪麗に微笑みながら朧は立ち上がり、近寄る。




「雪麗のその提案、乗ろう。
さぁ雪麗、この私を美しくしておくれ」

「……任せなさい。ぬらりひょんが惚れ直すほどの更なるいい女作り出してやるわよ」

「それは嬉しいものだな」




そして、私と雪麗の計画は始まった。


















どの着物がいいかしら……

ぬらりひょんから沢山反物やら着物貰ってるからな

……ここはあえてこれかしら

……これか?

えぇ、コレにしましょう

わかった



(17/29)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -