大阪城に連れ去られた私と珱は、城のある部屋に連れて行かれた。
そこには上座には一人の女性と、その前にいる若い姫のような人が三人。
脇には家臣と思わしき男がズラリ。
なんとも奇妙な部屋に来てしまったものだ。




「待っておったぞ、朧姫、珱姫」




上座の女性が煙管片手にそう言った。
大阪城で側室の話、見るからに上品な女性。
多分、あの方は淀の方様。

淀の方様の言葉に三人の姫たちが振り返り、私たちを見る。




「ああ、あれが朧姫と珱姫………?」




一段と髪の長い気の強そうな姫が言う。
………って人のことは言えないか。




「日ノ本、そして京で一番の美貌と噂の美姫姉妹…
噂どおり美しいのう。近う近う」

「……………………は…はい……」

「…………………」




なんだろうか、淀の方様から変な感じがする。
不気味な感じ、というのだろうか。
普通の人ではないものだ。

だが、淀の方様だけではない。
周りの家臣たちからも何か変なものを感じる。


珱は戸惑いながらも私の手を取り近づく。



話では豊臣秀頼様の側室にという話で連れてこられたはずだ。
それも、父上を殺してでも。
はっきり言って、そこまでをして私たちを側室にする理由が全くわからない。




「ちょっと…いつまで緊張でふるえてるの?貞姫。
淀殿への自己紹介の途中よ」




やはりこの女性は淀の方様か。

淀の方様。本名は、茶々様。
絶世の美女と謳われた信長公の妹お市の方の浅井との間に生まれたご息女で、三人いるうちの長女。
そして、ご太閤殿下 豊臣秀吉様の二人のご正室のうちの一人。
他界された太閤殿下の初めのご正室でもあった北政所様は今はもうここ大阪城には居らず、十何人といる側室を持ってしても子ができなかった太閤殿下の子を二人も授かり、現豊臣当主の秀頼様の実母である淀の方様の権力は計り知れない人だ。




「私のような田舎者を側室に選んでいただき光栄です」




淀の方様にペラペラと長ったらしく自己紹介をする髪長姫と呼ばれた姫、宮子姫は淀の方様に気に入られようと必死なんだろう。
この姫は周りの異常さに気づいてないのだろうか。

できる限り珱と離れぬよう寄り添っていた時だった。




「ではさっそく」




なにが?とそう思って周りに目を配っていたのを淀の方様へ向けると何故か、宮子姫に口付けている淀の方様。
そして聞こえてきたのはズギュ、ズギュという何かを吸い上げるような音。




ンゴクン




淀の方様が何かを飲み込む音がすると、支えを失ったかのように宮子姫は後ろへと倒れる。
その口元からは血が流れ、目は白目を向いている。
ひと目でわかった。




絶命している。




「ん……………………ん
やはり不思議な力を持つ者の肝は違う…………」




き、も………?
私たちは目の前の光景に言葉を失うと同時に、私は理解した。



──淀の方様は、妖怪だ。



「あ、姉様っ」

「私から離れるな珱姫…!」

「ぁ、ぁ」

「そなたも恐ろしければ私にしがみつけ小さき姫よ」




がたがたと震え始めるすぐ隣の姫にそう声かければギュッとすぐに手を握っていた。




「はう…はう…や、やっぱり喰べられてしまうのね…
私の……見た未来が現実に…!!」

「見た、未来…だと?」




貞姫と呼ばれていた姫はあまりの恐ろしさから逃げ出そうすると周りの家臣。
………いや、妖怪が動き、その行く手を阻んだ。




「………まさか、全員………妖、か……」




妖怪に囲まれているなど、なんの冗談だ。
さすがに、笑えん。



貞姫の叫び声に駆けつけた人間の家臣だろう者はこの部屋にいた綺麗な顔立ちをした青年のような者に首を斬り捨てられ、即死。
貞姫は逃げようとしたからだろう、中へ戻すよう引きずり込まれ宮子姫同様に口吸いで生き胆を取られる。




「なんて、惨い……」

「ひっ、ひっく、うぇんうぇん」




どうにかこの幼い姫を怖がらせぬようにと私と珱の間に置いたが、なんの意味もなかったようだ。
どうするべきかとその姫を見れば、珱の手に落ちた幼き姫の涙が真珠へと姿を変えた。
それには私も珱も驚く。




「そ、うか……」




"不思議な力を持つ者の肝は違う"
淀の方様もさっき言っていた。
ここに集められた姫は皆、我ら姉妹同様何かの異能を持つ姫か。




「あ、姉様…姉様…」




カタカタと震えている、妹の手。
その手を一度強く握ったあと、私は二人の前に出る。




「姉様…!?何を…!」

「下がっていろ」




後ろに下がっていた私たちの元へ淀の方様がゆっくりと立ち上がり近寄ってくる。
家臣…妖怪たちもまた同じだ。

私は思考をめぐらせる。


覇王色の覇気を使うか……?
だがそうすれば、後ろの珱たちにも負荷がかかる。
確実に二人は意識を飛ばすだろう。
この状況でそれは得策ではない。
どうする、どうしたらいい…!?




「まっこと、美しいのう朧姫」

「!」




淀の方様の意識が私へと向いた。
なんとか二人ではなく、私へ向いたらしい。




「日ノ本一など大層なものだと思っておったが
噂もバカには出来ぬのう?」

「淀の方様こそ、あの絶世の美女と謳われたお市の方様の御息女ゆえきっと大層お美しいと思っておりましたが……随分と醜くいらっしゃる」

「ホホホ、気の強さも日ノ本一かえ?おぬしの噂…
"気高き天女 誰にも降らぬ 強き天女"
というのも本当のようじゃ」

「私が誰かに頭を垂れるとでも?……片腹痛いわ」




私の鋭い睨みに淀の方様はピクリと微かに反応した。
くれてやったのは殺気を込めたものだ。
その殺気に反応したのだろう。




「そうじゃな、わらわに頭を垂れる必要はない。
その肝さえいただければのう?」




目の前に来た淀の方様を相変わらず睨みつける。




「おそれることはない。朧姫…………
そなたたちの血肉は妖怪千年の京の礎となるのだから。ゆだねよ…美しき姫………」




淀の方様が私の顎を掴んだ。
やむを得ない、この至近距離で覇王色の覇気をぶつければ淀の方様も気を失うかもしれない。
それに賭けていざ、と力んだ時だった。




ダンッダンッダンッ




畳を力強く蹴る音。見知った気配。
掴みあげられる私の視界に映ったのは、淀の方様の後ろから迫るぬらりひょんの姿。
それに驚いていると一瞬にし淀の方様と私の間に入り込み、刀を降った。

しかし当然それでやられる淀の方様ではない。
淀の方様自身は何もせず、ぬらりひょんの刀を受けたのは多くの鬼と思わしき妖怪たち。
間に入ってけれたおかげで私は離されたものの、ぬらりひょんの刀を受け止めたうちの一人である大きな鬼が金棒を振るう。




「何奴じゃ!!」




金棒の一振を躱したものの相当重い一撃だったのだろう。
風圧でぬらりひょんの着物がビリビリと破れ、彫り物を入れたその背が露となる。




「………ヤクザ者か」

「ワシは奴良組総大将ぬらりひょん。
こいつはワシの女じゃ。わりいがつれて帰るぜ。
あとそこにいる妹の珱姫な」

「なんと…妖が人を助けに?」

「貴様…なぜ…」

「よぉ、朧姫。
相変わらず綺麗過ぎてこんなとこでも見惚れちまうぜ」




馬鹿なのかこいつは。
敵妖怪の根城とも言えるだろうここに私や珱を助けに単身で殴り込みに来るなど。
ひとつの組を背負う総大将の行うことだとは到底思えない。
ましてやこんな状況で阿呆なことを口にする。
私は唖然としてしまった。




「異なことをする奴じゃ
血迷うたはぐれねずみか何かか……!?」




その瞬間、天井を突き破るかのようにして現れ大量の妖怪は、紛れもなく百鬼夜行だった。
それには淀の方様たちも予想外だったのか、驚いている様子だ。




「なんだ…きたのかてめーら」

「百鬼夜行ですからな」

「入れ墨だけじゃ、さびしいでしょう」

「…………バカな奴らじゃ」




下僕たちの登場に、ぬらりひょんはただ笑った。




「……なにやら珍客が多いのう。力の差もわからぬ虫ケラが……」




あまりにも突然すぎる出来事が多すぎる。
呆然としてしまっていた自分をこの時本気で呪いたくなった。

そうしてる間に私は顔に板をつけている人型の鬼らしい者に捕らえられ、また自由を失ったのだ。
折角ぬらりひょんが一瞬でも、解放してくれたのに。




「くせ者じゃ、キタナイネズミが入り込んでおるぞ」




誰か余興を見せてくれぬか?
淀の方様はそう言うと、前に出たのはぬらりひょんの着物をビリビリにした大きな鬼。
凱朗太と名乗ったその鬼は羅生門に千年棲う、などと無駄な情報をつけつつ奴良組の妖怪へ強烈な一撃を与えた。



──雷雷棍棒 豪風──



くらった妖怪たちはまるで紙で作られた玩具のようにペシャンコになり吹き飛ばされる。




「跡形もなく吹っ飛びおったわ!!」

「なんじゃ呆気ない」




ぬらりひょんの気配は消えてない。
吹き飛んだと油断した凱朗太は、目の前に突然現れたぬらりひょんに目を見開くももう遅かった。




「のけ」

「な…なあああっ」

「邪魔する奴ぁ、たたっ斬る」




こちらもまた、一撃。
たったの一撃で凱朗太を切り倒すと、それを見た奴良組の士気は上がる。

だが調子付いた奴良組をそのままにするほど彼らも大人しくなどない。




「…何をしておるお前達…妖としての…
格の違いを見せてらんか…!!」




奴良組と大阪城の妖怪の乱戦が始まった。




















っ、どうしてここへ来た妖怪…!

待ってな朧姫、絶対ぇ助けてやる



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