▽ 02
はい、坂田 銀華です。
私の切実な願いはどうやら却下された模様。
「銀華様、おはようございます」
「おはよ」
気づいたらイケメン巨人に抱っこされてたというあの事件から既に3年の月日が流れ、私は3歳になっていた。
夢ならば覚めてくれと何度いるかもわからん神に祈ったものの、ダメだったのだ。
そんなこんなで『坂田 銀華』は『奴良 銀華』へとシフトチェンジした。
……シフトチェンジか?これ。
ジョブチェン?うーん、わかんね。
まぁそれは良しとして(良くないけど)。
どうやらこの世界には天人はいないらしく代わりに天人みたいな外見した妖怪がいるらしい。
……いや、はい、らしいじゃなくて、います。
むしろこの家妖怪屋敷です。
さっき挨拶してきた首無なんかその名の通り首ないし!あれでどうやって飯食ってんだよ!!
「よっと」
「!?」
「俺のお姫様はこんな所でなぁにしてんだい?」
背後から突如脇に差し込まれた手でそのまま私は持ち上げられた。
どうやら抱っこされたらしい。
「お父さん」
「おはようさん、銀華」
「おはよ」
この人は大変不本意ながら転生的なものをしてしまった私の今世の父で、あの開眼直後イケメンドアップの顔を見せてくれた、奴良鯉伴。
相変わらずイケメンである。
そもそもだがなぜこの家が妖怪屋敷なのかと言うと、ここは関東の妖怪たちの元締めでもある『奴良組』の総本山だからだ。
関東任侠妖怪総元締という極道一家でもある。
そりゃね?確かに私もね?
攘夷戦争とか出ちゃってね?
やんちゃしてた時もありますよ。
でもさぁ……こりゃあないんじゃないの!?
なにをどう間違えれば妖怪のヤクザ一族の本家の一員になっちゃうわけ!?
え、じゃあ私ってもしかして妖怪になっちったわけ!?とか思った日もあったけれどそんなことは無かったようで。
この世に今現在いる血縁者は3人。
祖父と両親だ。
私の両親、父はこの奴良組の二代目総大将をしているのだが父はまさかの半妖という特殊な人で母は極々普通な人間でした。
となると祖父母夫婦が生粋の妖怪と人間の夫婦となるわけで、私の祖父が生粋の妖怪『ぬらりひょん』だった。
つまりよく考えてみれば私は、妖怪のクォーターという立場だ。
いやいやいや!!!!!なぜ!!!
そんな特殊設定望んでないんですけどォォ!!
妖怪のクォーターとかなんだよ!!!
聞いたことねーよ!!
ていうか『ぬらりひょん』の孫かよ!!!
もうちょいかっこいい系の妖怪がよかった!!
てかもうせめて昔の異名にちなんで鬼系の血筋とか!?
でもやっぱぬらりひょんって頭長いのね!!!
おじいちゃん後頭部なんかクソ長ぇんだよ!!
「もうちょいで朝飯できるみてぇだが、広間に行く途中だったのかい?」
「いや別に」
「んじゃ、どっかに行く途中だったのかい?」
「ううん。ボーッとしてただけ」
「なんでい」
暇だったのか、とお父さんは笑いながら私の頭を撫でる。
はっきり言って私はこの父や今ここにいない母、そして屋敷のみんなから向けられるたくさんの愛情にただただ困り果てていた。
生憎前世では親の愛情なんぞ受けたことがないどころか親の顔すら知らん状況だったから。
「にしてもいつ見ても銀華の髪は綺麗なもんだ。
真っ白で銀華みてぇ」
「私?」
「あぁ。純新無垢で、これから何色にでも染まれるとこがお前さんみたいだろ?」
「…………」
何色にでも染まれる、か。
「って言ったって難しくてわかんねーよな」
「……お腹減った」
「そうかそうか。んじゃ一緒に広間行こうな」
そのまま私はお父さんに抱っこされたまま広間に行くと中では既に朝食が用意されており、多くの妖怪たちが私や父に挨拶をしていた。
「おう、てめーらおはようさん」
「珍しく今日は朝から起きとったんじゃのう、鯉伴」
「たまたま目ぇ覚めてな。
ほら銀華、じーちゃんだ。おはようしような」
朝飯などはいつも広間で簡単にみんなでテーブルを囲んで食べる。
上座下座などはあまりないけれど、やはりおじいちゃんたちは一番奥の席だ。
いつも私が座る場所は何故かいつもおじいちゃんとお父さんの間で、お父さんに降ろされながらそう言われ私は定位置に向かいながら挨拶を交わす。
「おはよ、おじいちゃん」
「おお、おはよう銀華。今日も朝から可愛いのう」
「もうそれ毎朝の挨拶になってんな」
「可愛い孫娘に可愛いと言って何が悪い」
父も祖父も、初の子・初孫ということでかやけに私を可愛がる節がある。
前世の自我そのままでここに生まれてしまったからこそ客観的に見れるが……控えめに言って過保護。
まだ外に出てない段階でこんなに過保護じゃあこれから成長するにつれどうなるかわかったもんじゃない。
「銀華ちゃんおはよう」
「おはよー、お母さん」
「今日も元気ね!」
台所にいた女衆が広間に来て、みんな揃った。
それを見て父が手を合わせて挨拶をする。
それを合図にみんな挨拶をして朝食に取り掛かった。
「はいよ、銀華」
「ありがと、お父さん」
朝飯に限ってはいつもバイキング的形式の為、大皿にドンと料理が盛られて来る。
そのため小さな私では届かないのでいつもお父さんにご飯を取ってもらっていた。
野菜からおかずまでバランスよく盛られたお皿を受け取り、モッキュモッキュと食べ始める。
「銀華は好き嫌いせずなんでも食べて偉いの〜」
そう言いながらおじいちゃんは私の頭をぽふぽふと撫でる。
「だって食べられるだけマシだもん……」
「「…………はい?」」
前の子供の頃なんか銀時と人の物奪ってでも食べなきゃ死んでたし、大人になっても金欠で空腹に耐えなきゃいけなかったし。
これだけご飯あって不自由なく腹を満たせるというのは幸せだと私はとても思います。
「……銀華、もしかしておかわりとか我慢してるのか??」
「ううん。いつもお腹いっぱい食べてる」
なら、食べられるだけマシってなんだ。と父と祖父の顔が言っていた気がする。
私はガン無視でご飯を食べているけど。
「おじいちゃん、卵焼きとって」
「え?あ、おお、卵焼きじゃな。ほれ」
「ありがとー。……ダークマターじゃない卵焼きって、美味しいよね」
「「…………ダークマター……?」」
一体それはなんぞやと言いたげな親子に挟まれながら、私は卵焼きをひと口食べた。
鯉伴、ダークマターってのは、なんじゃ?
…俺もよくわかんねェ。若菜、ダークマターって?
一言で言えば暗黒物質ですかね?
……それがどう卵焼きと結びついた??
ワシに聞くな。
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