▽ 20
「ここなの、リクオ」
出入りにやってきた私たち。
移動する最中に夕飯の時になんで居なかったのかと聞いたらどうやらリクオは旧鼠たちに攫われていたからなんだそうだ。そりゃ災難。
リクオのその記憶を元に出入りに来たのだが……
「ああ」
百鬼を率いるリクオと、その隣にいる私。
今は夜も深けて人もいないような、そんな時間だ。
「リクオってば中学生の癖してホストに行ったの。
そっちの性癖かぁ」
「行ったんじゃなくて攫われたの間違いだ。
あと俺は男色じゃねぇ」
相変わらずアホな会話をしながらここまで来た。
さぁて、ネズミと対面と行こうか。
私たちは旧鼠が待つという建物に入った。
「な…」
「こ…これは…」
ぞろぞろと現れた私たちに旧鼠たちは驚いていた。
なんかみんなホストみてーな格好してんだけどなにこれ、ネズミがホストしてたの??
ていうかさ、この足元の霧?みたいなのは何??
これ…あれかな、昔の歌謡祭のあの白いにやつみたいなあれだったら私死ぬほど笑うんだけど。
「アホなこと考えてんじゃねーぞ、姉貴」
「この足元の霧は歌謡祭のあれなのかどうかを私は真剣に考えている。アホなことではない」
「確かにアホな事ではねぇな。バカだ」
おいコラお姉ちゃんに対してバカとはなんだ。
「星矢さぁん!!こ、これは!?」
「星矢様━━━!!」
「化猫組のヤツらがいますぜ!!」
彼らを見て、一応確認として良太猫にあれかと聞けば、良太猫はあれが憎きネズミであると断言する。
「またせたな…ねずみども…」
「何者だぁ!?テメー」
「本家のヤツらだな……」
「3代目はどーした!?」
「いや…あんなガキはどーでもいい…回状は!?
回状を見せろ!!ちゃんと廻したんだろーなぁ!!」
「………ヤツが書いたのなら破いちまったよ」
「んだと━━━━━━━━!?」
ふむ、確かにおじいちゃんの言う通り知性が足りなさそうだ。それも絶望的に。
私も足りてるとは自信もって言える方ではないが、そんな私でもこりゃ足りねぇと思うくらいだ。
ありゃ壊滅的に足りてないわ。
「ならば約束通り殺すまでよ」
星矢と呼ばれたホストは後ろにある大きな檻を叩いた。
その中にはカナちゃんとへっぽこ院ちゃんがいる。
が、次の瞬間には首無と青に救出されていた。
「ってアレ━━━━━━━━━!!」
…………アホくさ。
「どうする闇の帝王。人質ねこが逃げちまったぜ」
嘲笑うかのように響くリクオの声。
いや、いやいやいやいや。ネコて。
ネコて……!!!
一人で何かと葛藤する私をよそに星矢こと旧鼠は、舌打ちをすると命令を飛ばした。
「舐めやがって…
てめぇらみな殺しだぁ━━━━!!」
その声に合わせ、両妖怪たちは衝突する。
「弱そ」
実に、つまらない。
「女だ!!女はおれがやるぅ〜〜!!!」
「呪いの吹雪」
──雪化粧──
「おお〜、ガッチガチじゃん。やるね」
「はい!やりますよ!」
張り切る雪女に笑みをこぼすと、向こうで毛倡妓がネズミ嫌いィィィ!!!と叫びながらネズミを倒していた。
うん、私もネズミ嫌いだよ毛倡妓。
「くそっ、ならこの女だァ!!!」
「キャー、銀華こわぁい」
棒読みでそんなことを言いながら、ひょいひょいと攻撃を避ける。
「姉貴遊んでねぇでちゃんとやれよ?」
「注文の多い弟だなぁ、たっく」
腰に携えた木刀を抜いて、私を殺す為に飛び込んできたネズミの脳天に思い切り木刀を叩きつける。
ドゴォッ
「テメェら如きじゃあ…
指一本どころか髪の毛一筋だって触れられやしない。
だからとっとと失せな、薄汚えドブネズミ」
床に顔面がめり込んで、その後ピクリとも動かなくなったネズミ。
その様子に旧鼠達だけでなく奴良組の面々も何故か驚いた顔をしていた。
なんか文句あるかコルァ。
そのまま戦況は奴良組の押せ押せ状態。
旧鼠とこちらの力の差は歴然だった。
「なんで…てめーら…誰の命令で動いてる…
百鬼夜行は主しか動かせねーんじゃ…」
「何言ってんだ、目の前にいるじゃねーか」
「何…ま………まさか……」
「この人こそが!!ぬらりひょんの孫!!
妖怪の総大将になるお方だ!!
そして、こちらにおられるのはその姉君である!!」
「………………………………」
うぉぉい、良太猫ォォォォォ!!
私まで巻き込むなァァァァァァ!!
「そ、そいつが…あのガキの…覚醒した…姿…!?
それに、姉っていやぁ…とんだ箱入り娘だって…」
いや私箱に収まるほど大人しい娘じゃないんですが。
「く…やっぱり……
……あんとき殺しときゃあよかったじゃねーかぁ!!」
「おいつめられて牙を出したか。
だが、たいした牙じゃあないようだな」
「!?」
後悔したとて、もう遅い。
「てめぇらが向けた牙の先…本当に…闇の王んなりてぇんなら歯牙にかけちゃならねぇ奴らだよ。
おめぇらは…オレの"下"にいる資格もねぇ」
──奥義 明鏡止水 "桜"──
リクオの技で、旧鼠は炎に飲み込まれる。
「な…なんじゃこりゃ━!!」
「その波紋鳴りやむまで全てを…燃やし続けるぞ」
旧鼠はあまりの苦しさに叫びながら、最後は破滅した。
「夜明けと共に塵となれ」
「本当に焼却処分したな」
「姉貴の要望通りにな」
炎が止まり、旧鼠とその残党も狩り終える。
「さて、帰るぞおめーら」
「ま…待ってぇ!!お前が妖怪の主か!!」
「……………」
リクオはへっぽこ院ちゃんを流し目で見ると、へっぽこ院ちゃんは勇ましいことに倒す宣言をした。
「お前を倒しに来たんや!!
次に会う時は絶対…倒す!!」
その言葉にリクオはフッと笑った。
「俺を倒したところで、姉貴がいるんだ。
終わりゃしねーよ」
「いや終わらせろよ。巻き込むんじゃねーよ」
「なっ、あ、姉ぇ!?どれや!?どれが姉や!?」
「……いやこんだけ容姿似ててわからんってことある?」
「!」
リクオの隣にいる私を見たへっぽこ院ちゃんは悔しそうな顔をしてきた。なんでだ。
「あんたも!あんたも一緒に倒したる!!」
「いや無理だろ。陰陽師のくせに妖怪に助けられてる時点で終わってんでしょ」
「ふぐぅっ」
「ま、せいぜい気をつけて帰れ。
…首無…お前女に甘いな」
「これがモテ男か」
「お嬢も若も、やめてくださいよ」
私は笑みこぼし、リクオも不敵な笑顔を浮かべながら百鬼夜行は闇に姿を消した。
そういや姉貴って力強いんだな。
いやいや、か弱い女の子だよ私は。
な訳あるか。木刀叩き込んでタイル破って頭突き刺さるっておかしいぜ、アレ。
青田坊だって出来る。
青と同列でいいのかよあんた。
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