人生もゲームもバグだらけ | ナノ


▽ 17


翌日、なんか知らないが朝から宴騒ぎだった。




「なんじゃこりゃ」




身支度を整えて居間に来ればどんちゃん騒ぎで朝っぱらから酒を煽る妖怪たち。
何でこんなんなってんだ?




「おう、銀華おはようさん
…ついでにこりゃあなんの騒ぎだい?」

「はよ、お父さん。
…この騒ぎに関しちゃ私も知らん」

「おはようございます銀華様、鯉伴様!」

「「おぉ」」




パタパタと飛んできて挨拶をするのは既に酒を飲んでるらしい鴉天狗。
ほんのりお酒の匂いがする。




「カラスこりゃ一体なんの騒ぎだい?」

「そうなのですよ!聞いて下され!
実は!また!昨晩!!
リクオ様がまた覚醒なされたのです……!」

「リクオが?」

「へぇ、そりゃ目出てぇな、確かに」




鴉天狗が昨日のことを力説してくれたけど……
うん、なんかよくわからん。
リクオに関しては向こうで項垂れてるし。




「まぁなんでもいいや。飯だ飯〜」




朝食にしてはどう見ても豪華すぎる朝食を食べ、登校の時間までダラダラする。




「姉ちゃん……」

「……朝っぱら窶れてんね、リクオ」

「だって……!あれだよ!?」




歯も磨いていつでも出れる状態になったあと、いつまでも項垂れてる弟を見兼ねて私はそう話しかけた。
リクオの言う通り、未だに私たちの後ろでは盛り上がっている妖怪たち。




「覚醒したんでしょ?
そりゃみんな騒ぎたくなるわな」

「そ、そうらしいけど僕記憶ないし!!」

「え?ないの?」

「ないよ!」




妖怪化して記憶ないって……
じゃあ鴉天狗が妖怪の時に三代目継ぐって言ってたってやつも知らんってこと??
それって……なかなかアウトじゃない??




「……リクオの発言チグハグでわけわからんって事か」

「うっ」

「人間の時は断固拒否。
妖怪になりゃ三代目継ぐって?」

「だ、だから僕にはそう言った記憶は……!」

「つっても鴉天狗に言質取られてるしなぁ」

「ふぐっ……」




私は妖怪化した時の記憶は問題なく残っている。
私とリクオでは一体何が違うんだろうか。
……いや、前世の記憶ってか、前世の自我のままって時点で何もかも違いすぎるんだけども。




「あんまチグハグな事言ってみんなのこと混乱させんじゃないぞー」

「……そう思うんなら姉ちゃんが継げばいいでしょ?僕以外に候補なのは姉ちゃんだし、姉ちゃんの方がどっちかって言うと僕よりは似合うだろうし」

「似合う似合わんの問題じゃなくね??」

「それは、そうだけど……」




私は頭をガシガシかいて、のんびりと庭を眺めた。



「私は、奴良組継ぐ気はないよ」

「……なんで?
前から気になってたけど、姉ちゃんが継ぎたくない理由って聞いたことない」

「え?そうだっけ?」

「うん」




いつでも学校行けるようにだろう、リクオはカバンを傍において私の隣に座った。




「私が継ぎたくない理由ね。
もちろんそんなもん、たったひとつだよ」

「……それって??」

「面倒臭い」




........................ 。




二人の間に、沈黙が訪れた。




「なんだよその理由!!!
もっとまともな理由じゃないの!!?」

「いや超マトモじゃん」

「何処が!!?」

「全体的に」




勢いよく立ち上がったリクオに全力でツッ込まれたが、そんなムキになることじゃなくない?




「だから私は、リクオに継いで欲しいよ!」

「欲しいよ!じゃないよ!!!
僕は!!絶対に!!!やだからね!!」

「リクオのいけずぅ」

「うるさいな!もう僕行くよ!!」

「ハーイいってら」




プンプン怒るリクオがひったくるように自身のカバンをとって、玄関へ行くのを見送った。

その様子に私は小さなため息をこぼす。




「弟にこっぴどく振られたなァ、銀華」

「……卑猥物……」

「お父さんな。その間違いふざけんな」




口元引くつかせながら登場した父は、リクオがいまさっきまで腰かけていたところにストンと座った。
座ったまではいいものの、お父さんは煙管を咥えたまま特に何を話す様子もなく庭を眺めている。
…………この人何しに来たの???




「俺ァ…銀華の父親として十数年生きてきたが…
はっきり言って、まだお前のことがよくわかんねぇ」

「……急にどうしたのお父さん」




いや本当。
突然どうした父よ。




「んー特に意味はねぇんだけどなんとなくそう思ってな」

「……そう」




私とは違う髪質のうねる髪がそよ風に吹かれて揺れた。




「なぁ。銀華はよ……一体何を考えて、何も思って、生きてるんだい?」

「…………………………」




何を考えて
何を思って
生きている?

そんなもの……




「お菓子のこと考えて、今日出るコンビニも新作スイーツを思って生きてるかな」

「……お前な……」

「コンビニスイーツなめちゃいかんぞ、お父さん。マジで美味いんだから」




あ、学校行く時駄菓子も買っていこ。
となれば、そろそろ行かないとダメか。




「コンビニ寄ってく用ができたからそろそろ行くわー」

「そうかい。気をつけてな」

「ヘーイ」



鯉伴は先程銀華がリクオにしたように、玄関の方に消えていく娘を見送ると、なにかを考えるように目を細め、そのまま庭を眺める。




「銀華様がどうかしましたか、鯉伴様」

「首無」

「その顔する時はなにか考えている時が多いですから。差し支えなければ、聞きますよ」




そう言ってくれる首無に鯉伴はクスリと笑う。
優秀な側近になったものだ。
昔のトゲトゲしかった首無はどこへ、なんて言ったら怒るんだろうな。とも思いつつ自分が銀華との会話の中で思っていたことを口にする。




「なんでもねぇさ。
ただ、不甲斐ねぇ父親だと思ってよ」

「……何を今更……」

「オイ」




思わず少し離れている首無に向かって裏手を入れる動作をしてしまった。




「……俺ァ父親だってのに、銀華の考えてることがさっぱりわかんねぇ。
違う人物なんだから全部理解するってのはそりゃ無理な話なのはわかってるが…
リクオの事は結構分かるってのに、銀華だけは全然分からねぇんだよ」




どっちも俺の子供なのになぁ。と自嘲がこぼれた。




「……銀華様は……そうですね。
あの方は…私たちに全てを見せているかのようで、なにも見せていないですから。
幼い時からずっと……。
それに気づいたのはごく最近ですよ、私も」

「あいつは、いつだって俺たちと一線引いてやがる。人の懐にゃあズケズケ入ってくるくせして自分の懐には何人たりとも入れやしねぇ」

「えぇ。本当に」




思い浮かべるのは、自身の可愛い可愛い愛娘。
どんなに生意気だろうと、綺麗な顔して下品なことを言おうとも、鯉伴からすればどんな銀華も愛おしい我が子だ。




「どうすりゃあいつの心に少しでも触れられるか皆目見当もつかねぇ。…どうしたもんかねぇ」

「鯉伴様は、ご存じですか?」

「何をだい?」

「これもここ数年で知ったんですが……
銀華様は一年の内、ある二日間だけ、その日になると誰にも気づかれぬようひっそりと屋根の上で独り酒盛りをしてるんです」

「……妖怪では成人してるが…高校生でもう一人で酒盛りしてんのかい?あいつ」




しかもなんだって屋根の上?と鯉伴は不思議そうした。



「初めはただ単に月見酒なのかと思ってたんですが、どうやら違うようでして」

「そうなのかい」

「ある一日は、ご自分用の盃と、誰も使わぬ盃を二つ。そこに酒を注ぎなにかを考えるように目を閉じていつも飲んでいます。
もう一日の日はご自分用だけ持って、空を見上げて飲みます」

「……全く気づかなかったぜ、そんなの」




まさか娘がそんなことをしていたなど知る由もしなかった。
いつからやってるのか、いささか気になったがそれは今聞くことでもないだろう。




「ご自分用のだけの日は、いつも何故か悲しそうな顔をされて飲まれるんです。悲しげで、苦しそうで、何かに絶望しているような……」

「銀華が?」

「はい。その姿はあまりにも痛々しげで声をかけることすら出来ないんです。
誰かの盃を持っていく時もきっと誰かとの酒を楽しんでいるんでしょうから声をかけられず…
結局どちらの日にも声などかけられなくて」




何故そんなことをしているのか。
何故そんな表情をしているのか。
聞きたいことなど沢山あっただろう。
けれど、首無は銀華に声などかけられなかったのだ。




「いつの日か、私達はあの方の抱えるものを一緒に背負うことが出来るでしょうか?」

「……どうだろうな」




娘なのだから、普通の奴よりは銀華のことを知っているはず。
知っているはずなのに、自分は娘のことをなにも知らない。
その現実を突きつけられた気がした。




「でも、その日が来たら俺たちは何を言われようと必ず一緒に背負ってやるさ」

「……そうですね」




けれど銀華が果たして腹に抱えたものを彼らにさらけ出してくれる日が来るのだろうか。





























はぁぁぁ…親って難しいなぁ。

子を育てるというのはそういうことでしょう。

銀華が特に難しいガキだってのは間違ってねーよな?

まぁ、そうでしょうね。

……あいつの好きな駄菓子とか山ほどあげたら喋んねーかな?

バカですかあなた。



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