人生もゲームもバグだらけ | ナノ


▽ 15


休日、私は毎度の事ながら縁側で寝そべりながら心地よい気温で微睡んでいた。




「銀華様?」

「んぉー?」




不意に名前を呼ばれ、振り返ればいつぶりになるか分からないこの奴良組の大幹部の一人である牛鬼がいた。




「あれ?なんで牛鬼いんの??」

「時間があったので、本家に顔を出しに来たのです」

「あらそう」




彼は祖父の代からこの奴良組を支える幹部だ。
そして牛鬼は、とても頭のいい妖怪だ。
彼は人間から妖怪になったらしいが、その元より真面目な性格と勤勉さがあった為に奴良組にしてはとても珍しい頭脳派の妖怪だ。
奴良組は基本脳筋ヒャッハーなタイプが多いのだけど。




「……隣、失礼しても宜しいですか?」

「どうぞどうぞー」

「では」




なんの為に私の隣に来るかは謎だが、別に断る理由もないから許可をすれば、牛鬼は私の隣に正座した。
私は相変わらず寝そべったまま。




「……銀華様は、将来をどうお考えになっていますか?」

「え?突然の進路希望調査??」




脈絡のない質問にびっくりして牛鬼を見上げたら、至極真面目な顔で彼は私を見ていた。
牛鬼が真剣に聞いているのはすぐにわかった。




「……将来ねぇ……」




正直、将来のことなんざ全く考えてない。
普通なら少からずこんな職につきたい、こんな風に生きてみたい、こんなことをしてみたい。
他の子はそんなことを少なからず考えるのかもしれないが、生憎私はそんなことを考えたことすらない。
私は、普通とはかけはなれているから。




「さぁねぇ……時代の流れに身を任せるってのでいいんじゃないの?」

「……では、貴女はこの奴良組をどうするおつもりで?」

「奴良組?奴良組はリクオが何とかするっしょ。
私はノータッチよ」

「もしもリクオ様があのまま継がぬと断固拒否したらどうするのです。貴女にも奴良組を背負う資格は当然あるのですよ?」




頭の悪い私には、頭のいい牛鬼の考えを読むことは出来なかった。

……はて、牛鬼は一体何を言いたいんだ??
私はそれが分からず疑問符を量産しながら寝そべっていた体を起こし、胡座をかいて頭をポリポリ。




「………リクオが断固拒否ねぇ」




とはいえだ。
なぜと言われてしまえば答えられないのだが、リクオはきっと三代目を継ぐ。
私はそう思うのだ。
ああ、これは多分祖父と父親譲りの謎の自信かもしれない。




「そうならないと思うね」

「……なぜそう思うのです?」

「さぁ?これといって理由はないね。
でもただ……漠然とそう思うだけ」




根拠は何一つない。勘だ。
でもそういう勘というのは、割とよく当たるものだ。




「貴女は、継ぐ意思があったから幼少の頃より二代目に稽古をつけてもらっていたのではないのですか」

「え?いや別に」




その言葉は、質問では無い気がした。
確認をしているような、そんなもの。

剣術?私はただ単に前世の感覚取り戻す為だけにやってたんだけど。
お陰様で今じゃもうほぼ元通り。
お父さんにはもちろん、実力隠して今でも時折打ち合いしてるけど。




「二代目が言っておりました。
銀華様は剣の才能があると………。
それに私は貴女には総大将や二代目とはまた全然違う不思議な魅力があると感じています」

「……なんかえらく今日は饒舌だね??」

「総大将や二代目に感じるものは敵味方関係無く自分の全てをさらけ出し、そして内に潜むギラギラしているものにまるで吸い寄せられるかのような魅力」

「無視か」




こんなに饒舌な牛鬼初めて見た気がするけど、まさか無視されるとは思ってなかったわ。
銀華さんびっくり。




「けれど貴女は…
総大将たちに感じるようなギラつきも、内にあるもの全てをさらけ出すこともない。
むしろいつもどこか怠けていて、内にあるものは決して表には出そうとはしない」

「…………」

「けれど、どこか貴女は目を惹く。
いつの間にか気を許してしまっていて、貴女はさらけ出さないのにこっちが気がつけばさらけ出してしまっている。
そして気づけば貴女は自分の懐に入っている。
そんなお人です」




……ねぇ、マジで牛鬼くんどうしたの???
何か変なものでも食べちゃった??
拾い食い?拾い食いしちゃったの??




「"ぬらりひょん"はのらりくらりとしている妖怪。でも貴女は…"ぬらりひょん"と言うよりも…
雲のような方だと私は思います」

「雲ねぇ」




私はそう言われ、なんとなしに空を見上げた。




「誰の心の内にも存在するのに、身近なモノなのに掴むことの出来ないもの。
のらりくらりというよりも貴女は、ふわふわと浮いた浮雲のような人です」

「………もっかい言うけど今日えらく饒舌だね??」

「……銀華様。
私は、貴女にもこの奴良組を背負うだけの器があると考えております」

「なんか今日めっちゃ無視すんじゃん。
ん?どうした?え?なに?反抗期?
妖怪年齢1000歳にして突然の反抗期か?
いやいやいや、怖いんだけど」




え?なに?本当になに?
私牛鬼になんかした??
昔その髪の毛三つ編みにしてやった事そんな根に持ってんの??




「三代目を継ぐ気は、ございませんか」




私の言葉などガン無視。
真っ直ぐと、射抜くように見つめてくる牛鬼。
その強い眼差しに、グッ、と言葉を一度飲み込んで、私は思わずため息がこぼした。




「いやあのね、牛鬼。逆に考えてみ?
私さ、自分で言うのもあれだけどお父さんを超えるちゃらんぽらんだよ?
そんなのが奴良組継いでみ?潰れるぞ?」



「いいえ。
きっと貴女ならそんなことはさせないはずです。
貴女は絶対に奴良組を守ろうとする」

「……牛鬼はさ…仮に私が三代目となったとして…
私について行こうと思うわけ?」

「勿論です。貴女はきっと、いい総大将になれるでしょうから」




総大将ねぇ……
私は思わず、自嘲した。




「私は、人の上に立つ器じゃない。
…私はね、いつだって自分のしたいことの為に動いたんだよ。今だってそうさ」

「…………」

「でも、そうして、失敗するんだ。いつも。
誰に後ろ指さされようとも、転ぼうとも、泥水啜ろうとも、傷だらけになろうとも気にせず必死に、必死に手を伸ばすけど…
いつだって私は大事なものを零し続けた」

「銀華様……?」




どこか困惑した様子の牛鬼に、私は笑った。




「……約束ひとつ守れもしないやつが、誰かの上に立てるわけないだろ」

「………………」

「でも牛鬼が少なからず私をそう思ってくれてるってことは少し嬉しかったよ。ありがとう」

「銀華様…私は」

「大丈夫、きっと。
お前が懸念するようなことにはならないよ。
リクオが何とかしてくれるから。
女の勘は当たるんだぞ〜」




少し重たげな空気を纏っていたはずなのに、気付けはまたケロリと軽い様子でけたけた笑っている銀華に牛鬼は目を細めた。




「……銀華様」

「ん?」

「少しお時間、よろしいですか?これから」

「別にいいけど、どうしたの?」

「銀華様が宜しければ、私と打ち合いをしてみませんか?」

「……打ち合い??」




銀華が多くを語ろうとしないのは知っていた
だから、ならば今はなにも聞く気は無い。
いつか話す気になった時に、聞けばいい。
牛鬼はそう考え、銀華に別の話を持ちかけた。




「二代目も中々の剣の腕前です。
その二代目に才能があると言わしめた銀華様の剣を受けてみたく思いまして」

「あー、なるほど。別にいいよ?」

「左様ですか。では、今から早速いかがですかな」

「おっけーおっけー、どうせやることも無いしねー」




ほいじゃ着替えてくっかー!と立ち上がり身体を伸ばした銀華は準備が出来次第地下の稽古場に行くと言い、自室へと戻っていく。

その様子を眺めたあと、牛鬼も立ち上がると向こうから歩いてくるのは己の大将だった。




「牛鬼か。ここで何しとるんじゃ?」

「総大将…先程までここで銀華様と話を少々」

「銀華と?……ほぉ」




珍しい、と言いたげな様子のぬらりひょんに牛鬼は何も言わず銀華の消えていった方を今一度見る。



「これから銀華様と打ち合いをする約束を取り付けることが出来ましてな。
二代目が褒める腕前の方を見てみようかと」

「なるほどのぉ」

「総大将は銀華様の剣の腕前は?」

「知っとるぞ。
最近は前のような頻度ではやらんくなかったが、やる日にゃあワシも見に行く」

「そうでしたか……
貴方から見て、銀華様の腕前はいかがですか」




長らく総大将として、初代魑魅魍魎の主として妖の頂点に立った男の目には彼女の剣はどう見えているのだろうか。




「あいつの剣の腕前は鯉伴の言う通りありゃ才能じゃ」

「…………」

「銀華は上手く隠してるつもりなんじゃろうが…
鯉伴にもワシにも実力隠してることはバレバレじゃ。なんで隠してんのかは知らんがな」

「ほう……」




初代と二代目がこうも評価するのだから、楽しめそうだな。と気は思いうっすらと笑みを浮かべた。
牛鬼は確かに頭脳派ではあるが、だが彼もまた奴良組らしく例に漏れず好戦的な妖怪だ。
なんせ牛鬼の組は奴良組きっての武闘派なのだから。




「あぁ、ひとつ言っておくぞ牛鬼」

「はい?」




先に稽古場へ行こうとぬらりひょんに一礼し歩き出すと、何故か止められた。




「銀華の剣はお前の思っているような剣じゃねぇぞ」

「……それは……」

「ワシや鯉伴も一応剣を学んだ相手がおる。
だから元となる型が当然ある」

「それは存じてますが…」

「じゃが銀華の剣は、型なんぞ何一つねぇよ」

「……?」




不思議そうに目を丸くした牛鬼にぬらりひょんは笑った。




「ワシも鯉伴も自由な戦い方をするが、銀華はそれ以上に自由な戦い方をする。
はっきり言って、太刀筋がめちゃくちゃじゃ」

「………………」

「まぁやり合えば嫌でもわかるだろうよ。
後で感想聞かせろや」

「……承知しました。では」




ぬらりひょんは銀華と戦う牛鬼がどんな顔をするのか興味はあったが、あとで報告に来る牛鬼がどんな顔をしてくるのかの方が面白そうだった為行くことをやめた。

























牛鬼ごめんおまた〜。

銀華様……二代目も来たんですか。

さっき銀華とばったり会ってなぁ。
牛鬼とやるってんで見にな。

左様ですか。

牛鬼の焦る顔を拝みにってのが本音だけど。

………………。


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