▽ 11
今日もいつもの様に帰宅し、おじいちゃんやお父さんと一緒になってグダグダとしているとテレビから流れてくるニュース。
「……あっれぇ、これってリクオ乗ってる疑惑のバスじゃね?」
そのニュースは私も小学生の時に使っていた馴染みのあるバスが通るトンネルが崩落し、走行中であったバスが生き埋めになったというもの。
「そうなのか?」
「だって時間的にそうじゃね?」
お父さんにそう言われ、時計を見る。
うん、やっぱりそうだと思う。
「これにリクオが……
まぁワシの孫じゃしな、何とかなってる」
「謎の確信」
「俺の息子だからな、無事だろ」
「だからなんだよその謎の確信」
そうしてそのニュースをかけたまま程なくすると、おじいちゃんたちの謎の確信は当たる。
鴉天狗に運ばれたリクオが帰宅してきた。
「え…!なんで!?バスが」
「おおリクオ、帰ったか…お前悪運強いのー」
「よぉおかえりリクオ、無事で何より」
「なんで二人の謎の確信が当たるんだ。
まぁ無事でよかったね。おきゃーり、リクオ」
いつもならすぐに返ってくるただいまという言葉も返さず、リクオはテレビを見て固まっていた。
「リクオ?」
私の声さえも聞こえないリクオには当然、祖父や父の声など聞こえていなかった。
「……助けに…行かなきゃ……」
やっと喋ったと思えば、リクオはそんなことを言った。
そして、衝動的に庭に飛び出た。
「誰かっ はきものを!!」
「どこへ行くんじゃこんな時間から!?」
「決まってるじゃんか!!」
リクオは振り返り、ハッキリと言った。
「カナちゃんを助けに行く!!」
青田坊、黒田坊、みんな一緒に来てくれ!と急かすもそれを止めたのは木魚達磨だ。
人間を助けに行くなど、言語道断。
ここは妖怪の総本山 奴良組であって、そんな人の気まぐれで百鬼を率いられては困る。
木魚達磨はそう言い、それを聞き青田坊は若であるリクオに無礼だと噛みついた。
「無礼?…フン、貴様…
奴良組の代紋『畏』の意味を理解してるのか?
妖怪とは…人におそれを抱かせるもの。
それを人助けなど…笑止!」
「てめ━━━━━━━!!!」
キレた青田坊は木魚達磨に掴みかかった。
周りはそれを割って止められるほど強くもなければ気も強い者もいなかった。
なんかめっちゃ喧嘩になってるんですけどォ。
「や、やめねぇか!!」
リクオの大きな声に、木魚達磨達もハッとする。
「時間がねーんだよ、おめーのわかんねー理屈なんか聞きたくないんだよ!!木魚達磨」
「?」
ザワり、ザワりと少しずつリクオの姿が、変わっていく。
「オレが『人間だから』だめだというのなら、妖怪ならばオマエらを率いていいんだな!?」
「え…………」
「だったら………人間なんかやめてやる!」
さっきまでのリクオとは全くの別人とも言えるその目。
木魚達磨はその豹変っぷりに目を疑った。
というか、私も。
ええええええええええ!!!?
リクオ変身しちゃったんですけどォォオ!!!
原型とどめてなくね!?
いきなりその姿で出会っても200%どちら様?ってリクオに聞くぞ私!!
「今夜はなんだか…血が…あついなぁ」
リクオがポツリと呟いた。
それを、近くにいた鴉天狗が拾う。
「リクオ様、言ったでしょう。それが妖怪の血です」
「血?」
「おじいさまの血です。
リクオ様は…ワシらを率いていいんです。
あなたは総大将ぬらりひょんの血を四分の一も引いているのですから!!」
あれが妖怪のリクオの姿なのならば、私もいつかあんなことになるんだろうか?
「リクオ!」
「親父」
「これ親父から俺が貰ったやつだ。お前にやるよ」
「………」
息子の初出入り。
覚醒した息子に鯉伴は笑顔を隠せなかった。
「しっかり助けて来いよ、カナちゃん」
「……おう」
そしてリクオは百鬼を引連れ出ていった。
久しぶりの百鬼夜行ということで屋敷の妖怪たちはほとんどついて行った。
おかげでこんなに妖怪いない本家とか何年ぶりなんだろうって思うくらいに居ない。
「銀華は行かなくてよかったのかい?」
「めんどい。つかなんで私まで」
「出たお前のめんどくさい」
お父さんは笑ったあとふと覚醒したリクオは親父の若い頃にそっくりだったな、とおじいちゃんに言う。
「言ったろう?あいつァワシにそっくりじゃとの」
「確かに言ってたけど…
俺より親父似かよ、って思っちまうよなぁ」
「……銀華は覚醒しないのか?」
「いやそんな意識的に覚醒出来ると思ってんの??」
出来たらとっくにやっとるわ!!!
とは言いつつも、あのリクオを見てからというものどこか血が熱い。ザワザワするのだ。
「っ、」
「銀華?」
ドクンッ
「うっ」
思わず胸元を強く握り締め、身を屈めた。
一度大きく鳴った鼓動。
血が沸騰してるのかと思うほど一瞬熱くなった。
「そうは言いつつも覚醒したじゃねぇか銀華」
「……は、……ぇ?」
「リクオに触発されたの?」
「ってお前も親父似かよ!!」
意味がわからず、屈めていた体を起こすとさっきよりも些か目線が高い気がする。
それが不思議で首を傾げるとおじいちゃんが棚に置いてあった手頃の鏡を渡してくれ、覗き込むとそこには知らない人がいた。
「……どちら様?」
「自分に向かってどちら様ってこたぁないじゃろ……」
「…エッ、ウソ、変身しちゃったの私!?」
「妖怪化出来たようじゃな」
「銀華は髪色は親父で髪質は俺と同じか。
髪質以外は親父そっくりだなぁ。
リクオは親父瓜二つだったが銀華はミックスって感じだな、俺と親父の」
「なにそれ辛い」
「「どういう意味だコラ」」
二人に軽く怒られた。
解せぬ。
「って妖怪になっても髪の毛うねんのかよ!
クッソ天パの呪い誰かかけたのか!?誰だよ!!」
「なんじゃそのしょうもねぇ呪い」
「くせっ毛はお袋からの遺伝だぜ、銀華」
「おばあちゃんからの呪いかァァァ!!!」
「「失礼だな」」
なんか今日お父さんとおじいちゃん仲良しかよ。
「……ていうかやっぱ髪の毛浮くんだね…
私も浮いてる……」
「おう。なんでかは知らないけどな」
「…銀華はなんというかワシの顔を女っぽくした感じじゃな?」
「クソババアじゃんそれ」
「今のじゃねぇわ!!若い頃のじゃ!!」
おじいちゃんに全力でアホか!と言われた。
解せぬ(2回目)。
「妖怪化するといいことってあんの?」
「いいこと?……まぁ身体能力上がるとかか?
あとまぁ、妖術…畏が使えるしな」
「ふーん」
「興味なさげだな」
「あんまし興味ないねーし」
ふわぁ、と思わずあくびが出た。
「ま、これでリクオも三代目目指すっしょぉー。奴良組安泰じゃん?」
「だといいな。良かったじゃねぇの、親父」
「じゃな」
とりあえず、三人揃って茶をすすった。
お、帰ってきたぜあいつら。
総大将ォォォ!!鯉伴様ァァァ!!
なんじゃ、カラス。そんなに慌てて。
ほ、報告をっ!恐らくリクオ様は一日の四分の一しか妖怪化できない可能性がっ
……は?
……それって、あれか?
四分の一しか親父の血が流れてねぇから……。
あ、リクオ人間に戻ってんじゃん本当に。
何ィィィィィ!!?
銀華様まで覚醒してるゥゥゥゥ!!?!!?
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