▽ 10
私は中学で部活に入っていないため……
というか、名前だけ置いて幽霊部員なため他の生徒よりも早く帰宅する。
余談だが、加藤は確かバスケ部だったと思う。
興味ないからうろ覚えだけど。
そんなこんなで帰宅すると自室に行くまでの間にボーリげふんげふん、首無にばったり会って総会に顔を出すようおじいちゃんから私に伝言を渡されていたらしい。
なにか急ぎのようかと思って荷物だけ置いて制服のまま総会をしている広間へ向かうと、リクオの声がした。
「い…いやだ!!こ、こんな奴らと一緒になんかいたら、人間にもっと嫌われちゃうよー!!」
「リクオ?」
リクオがこんなにも妖怪たちを抵抗するような言葉を吐くのは今までで初めて聞いた。
何かあったのかと広間へ足を早めると走ってきたリクオとばったり会った。
「リクオ?」
「っ、お姉ちゃんの、バカ!!」
「なぜ!?!?」
そのままドダダダダダと走り去る弟。
私今なんで弟に罵倒されたの!?
なんもしてないんですけど!?
弟の罵倒が腑に落ちないまま広間に着いた。
「おじいちゃん、お父さん」
「おお、やっと来たかい銀華」
「おかえり、銀華」
「ただいま。てかリクオあれどうしたの?
いきなりバカとか言われたんすけど。
お姉ちゃん納得いかない」
「それなんだがねぇ」
お父さんは全く状況を理解していない私にさっきの出来事を掻い摘んで教えてくれた。
簡単に言うと、小学校から帰ってきたリクオはなんかいつもより元気がなかった。
でもまぁすぐに元気になるだろ!とほっといて、ここでおじいちゃんが三代目にリクオを据えると言う。するとどうだろう。
リクオが突然みんなに嫌われる!と言って三代目になんかなるかと飛び出した。
ということらしい。
「……あれ?リクオって三代目なりたかったんじゃなかったけか?」
「朝まではそう言ってたんだけどなぁ」
学校で何かあったのかねぇ、とお父さんは腕組んで首を傾げた。
「……まぁそれは置いといて、私が呼ばれた理由は?」
しれっとお父さんの横に座る。
「銀華もワシの孫じゃしな、継承権利は勿論ある。だからどうか聞こうと思ってのう。
リクオがあんなこと言いやがるし、銀華がなるか!」
「は?」
思わぬ言葉を投げかけられ間抜けな声が出た。
だが、おじいちゃんは昔から三代目はリクオ推しだったから冗談で言ってるつもりなのは、わかっていた。
でもそれは私だからわかってる(多分お父さんも)けど、周りからしたら冗談ではなく言ってるように聞こえるだろう。
「いやいや、冗談はおじいちゃんのその頭だけにしてくれや」
「ワシの頭は冗談でもなんでもねぇぞ」
「つか無理っしょ」
「なんでじゃい」
ポンポンと交わされる会話。
「だってほら、私人の上に立つとかだるくて無理だわ」
「なんじゃそのテキトーな理由は!」
「私おじいちゃんとかお父さんと同じで基本放任主義だからさ?てかもはやおじいちゃん達よりはるかに放任主義っつーか?いやもうなんか勝手にやってー、みたいな?」
だから私じゃ無理無理、と笑いながら顔の前で手をヒラヒラとさせた。
なんかギャルみたいな話し方になったのは大目に見て欲しいわ。
「銀華お前な、俺らを巻き込むなよ……」
「だって本当だし?
そもそも面倒事に巻き込むなって感じ」
そう思いつつも毎度毎度面倒事に巻き込まれるという災難な人生だったけどね、前世は。
本当巻き込まれる率ほぼ100%という最早呪いのレベル。
「確かに私奴良組好きだけど総大将になる気は無いよ、おじいちゃん」
「孫が揃いも揃ってこれかい!」
「照れる」
「褒めとらんわ!!!」
このバカ孫がー!!とおじいちゃん噴火。
私はどこ吹く風であくびをひとつ。
すると木魚達磨がふと口を開く。
「総大将、鯉伴様。失礼ながら銀華様とリクオ様は…本当に血の繋がりがおありか?
姿形はもとより考え方もまるで人間ですなぁ…」
「あーん?」
「んだと?木魚達磨」
おじいちゃんとお父さんの目が鋭くなる。
お父さんに至ってはちょっと殺気出てる気がする。
なんか勝手に会話が繰り広げられるが私的には妖怪の世界もめんどくさいもんだなぁという超他人事として捉えておじいちゃんとガゴゼたちの会話を聞き流した。
しかし結局はおじいちゃんはリクオを第一候補であることは頑として曲げず、木魚達磨を睨んだ。
「木魚達磨、さっきの失言に関しちゃ今回は見逃してやるよ」
「鯉伴様……」
「解ってるだろうが銀華もリクオも正真正銘俺の子だ。銀華はアルビノで毛色は俺や若菜とは違ぇが、間違いなく俺たちの最初の子だ」
次そんなこと言ったらお前であろうと、殺すぞ。
地を這うようなその声に私は思わずゾクリとした。
ちらりとお父さんを見れば、体から畏が漏れだしている。
畏が漏れてるということはそれほどまでお父さんが先の発言に怒ったということ。
"間違いなく俺たちの最初の子だ"……か。
なんだか、むず痒い。
「それと、少なくとも銀華たちの前でそういうことを言うな。わかったな」
「……失礼いたしました」
木魚達磨はお父さんの畏れにあてられてか、頭を少し下げた。
「……それって、私が傷つくから?」
「銀華?」
「大丈夫だよ、別に」
話ももう終わりだろうと思い、私は立ち上がり座っていると父さんに笑った。
「私がお父さんの子供であることはぶっちゃけDNA鑑定すりゃわかる話だし、他人にどう言われようと痛くも痒くもないね。
それにお父さんが私を娘だと思ってくれてるならお父さんは私の『親』だよ」
「…………」
「話し終わったみたいだし私行くわ。
んじゃね、おじいちゃん、お父さん」
さて、次はバカといきなり罵ってくれた弟に無駄絡みしに行ってやろうか!!
リックオ〜う。
……お姉ちゃん……
さっきはよくもバカと言ってくれたな!
うりゃァァァァァ!!!
うわぁぁぁぁぁぁ!!?
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