人生もゲームもバグだらけ | ナノ


▽ 06


ある日のこと。
リクオと一緒に庭で遊んでいると、庭に出てきたお父さんに呼ばれそっちへ駆け寄った。




「首無」




お父さんはすぐ後ろに控えてる首無を呼ぶ。




「俺はこいつらに、選ばせたいと思ってんのよ。人か…妖か」

「二代目…」

「一度、妖怪任侠の世界に入っちまったらもう戻れねぇ。半妖のオレは妖を選んだが、銀華やリクオには妖の血が四分の一しか流れてねぇ」




とても優しげな声。
お父さんが私たちのことを愛してくれてるということが凄く伝わってくる。




──おいで。銀華




不意に脳裏に浮かび、思い出したのは、私のとても大好きだった人。
私たちの世界を、変えてくれた人。





「こいつらの人生は、こいつら自身が選ぶんだ…」

「しかし…もしものことがあったら!」

「首無ィ〜…お前さんはホントマジメだねぇ〜。
今日もあやとり教えてたな?」

「う…」




お父さんの言う通り首無は今日もリクオにあやとりを教えていた。
さっきリクオから見てー!とお披露目されたから間違いない。




「“将軍様の御膝下”でもねぇ。
“帝都”でもねぇ。
“東京”になってまた闇は薄まった…」




まるでこいつらの血みてぇに。
そう言ってお父さんは抱き上げているリクオの頭を撫でる。
よく分かっていないリクオはただ大人しく撫でられ、父を見たげていた。
私はお父さんの着物をただキュッと握っている。



「そう、こいつらが象徴なのさ。
人と妖の未来のな…。
だからこいつらの前ではあんまり妖の世界のことは語らずだ。親父にもそうキツく言っとけ」




首無は何も言うことなく、ただお父さんを見つめていた。




「自分で気付いたのなら、そんとき見せてやりゃいい。な?リクオ」

「うわぁ、いたいよおとうさん」




ワシワシと撫でるお父さんはどこか楽しそうで、私たちがどんな道を進むのかを楽しみにしてるんだろうか。




「リクオにゃまだ難しいか。
…銀華はどんな道を進むのかねぇ?」

「私?」

「あぁ。今んとこはどう思ってるんだい?」




片目を閉じて、いつものあの笑顔を浮かべて聞いてくる。
私はそんな父を見上げてふと首無を見てからどことなく庭を眺めた。




「私は選ばないよ」

「……選ばないっては?
人か妖かどっちも選ばねぇってのは…
ちょっと無理じゃねぇか?」

「私は、選ばないよ。お父さん」




お父さんの着物を離していつも河童がいる池をのぞき込む。
どうやら今はいないらしい。




「私は妖怪とか、人とか、ぶっちゃけ……
おじいちゃんが今日何発屁こいたかってくらいどうでもいい」

「…ふっ、ふはっ、あ、相変わらず例えがひでぇ……」




くつくつとお父さんは心底可笑しそうに笑って
リクオに不思議そうに見られていた。




「私の、護りたいものは今も昔も変わらない」




どの時代だろうと、どの世界だろうと。
なにひとつ変わりはしない。
一度は全てを失っても、気づけばまた背負ってしまうもの。




「私は私の護りたいものの為に戦う。
そこに人間だとか妖怪っていう境界線は必要ない」




今度こそ、今度こそちゃんと護ってみせるんだ
前は護ることも繋げることも出来やしなかったものを。
この二度目の新しい人生で必ず。




「手前の大事なもんを落とさないように。
しっかり持って、握り締めて、前に進むの」

「銀華……?」

「私にとって人も妖怪も同価値なんだ。
私にとってその質問はお父さんにとっての私とリクオどっちを選ぶ?って聞いてるようなものだよ」

「………………」

「だから私は選ばない。
……あ、いや、あえて言うならどっちも選ぶ、かな?まぁなんでもいいわ」




とりあえず私はこう思ってるかな!とお父さんに笑いかければお父さんはどこか難しそうな表情を浮かべていたが、すぐにいつもの優しい笑みを浮かべてくれた。




「そうかい。銀華にとっちゃ妖怪も人間も同じか」

「うん」

「……お前の姉ちゃんはガキのくせしてよく考えてるもんだぜ、なぁ、リクオ〜」

「うわぁ、めが、めがまわるぅ」

「うりゃうりゃ」




弟と父のじゃれ合いに笑うと、私はまた池を覗き込む。




今でも鮮明に思い浮かべられるあの人。

姿かたちも。

声も。

あの温もりも。

馬鹿みたいに、鮮明に覚えているんだ。









──銀華、もっと大きく息を吸って目をしっかり開いて。

──ゆっくりでいいんです。

──少しずつ、前を見ればいいんです。

──ちゃんと前が見えたら、世界は美しく見えますよ。









「……松陽……」




違うよ、松陽。
私の世界が輝いて見えたのはあなたがいたからなんだ。
あなたが、あなたがいたから私たちの世界は鮮やかに色付いたんだよ。




──屍を食らう双鬼が出るときいて来てみれば………

──君たちがそう?

──またずい分と、カワイイ鬼がいたものですね。









──仲間を、みんなを、護ってあげてくださいね。









「わかってる。……今度こそ、今度こそは……」




何がなんでも護ってみせるから。
もう二度と、あんな思いはしたくないから。




「おねーちゃん!」

「リクオ?」

「あっちでいっしょにあそぼ!」

「うぉうっ!?ちょ、リクオ!」




お父さんからいつの間にか降ろされていたリクオは私の手を取って走り出す。
自分よりもだいぶ小さな弟に手を引かれるものだからつんのめりながら私は引き連れられていく。




それを微笑みながら見送った鯉伴と首無。
首無はゆっくりと鯉伴の元に近づいた。




「……先程の銀華様は……
いつもとご様子が全然違いましたね」

「……あぁ」

「どうなさったんでしょうか……」




明らかに、普通の様子じゃなかった。
いつもの鯉伴たちとはまた少し違う飄々とした態度とは違かったのだ。




「さぁ、わかんねぇや。でも……」

「?」

「……あいつの心が泣いてるように俺は見えた」

「鯉伴様?」




酷く儚く見えて。
弱々しく見えて。
それでもどこか芯のある。

あんなもの小学生が出せる空気じゃない。




「……なにを隠してんのかねぇ、うちの愛娘は」




俺ァお前の親なんだから。

どんなに小さなことでも。
どんなに大きなことでも頼ってくれりゃあいいのに。























いやぁ、娘って大変だな。

……なんですかその大雑把すぎるまとめ方。

あんな小さな女の子だぜ?
女落とすこたァ出来ても女の子の心中探るのは難しいもんだ。

今ここで遊び人的セリフはいらないんですが。

いや割と本気で俺言ったぜ。

尚更どうしようもないですね、貴方。



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